少子化問題の根本的解決には実質的な移民政策の転換が必須だ/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2023年5月24日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
今の日本にとっての最大級に深刻な問題とされるのが少子化である。しかし少子化問題はどうして大問題なのか、現在執られている対策と共に少し整理してみたい。問題は主に3つに集約されるのではないか。
1.第一の問題:深刻な人手不足
第一に、深刻な人手不足を招くことだ。人口の多い高齢者層が引退して労働者市場から退出する数に比べ、圧倒的に少ない数の若者しか労働市場に新たに参入してこないためである。
この「人手不足」問題に対する現実的で有効な具体策として既に労働市場で進められてきているのが、高齢者の引退時期を引き延ばすことと、専業主婦(または主夫)ではなく共稼ぎをしてもらうことだ。しかしさらなる改善余地は少なくなっているのが実情である。
高齢者の定年の引き延ばしは既に限界が近くなっている上、定年後の再就職は職種と就業時間が限られるのが現実だ。ずっと専業主婦でいる人たちは今どきかなりの少数派であり、経済的に余裕のある層である証でもあり、やはりさらなる改善期待値は小さい。
むしろこの先労働力増大への貢献をある程度期待できるのは、子育て等のため一時的に離職する人たちの復職を早めてもらうことであり、パート・アルバイトの人たちにより長い時間就業してもらうことである。そのために有効な具体策を政府が早急に用意することが求められる。でもこの対策だけでは、急激に進む少子化による人手不足分を補うにはほど遠いし、職種的にも限られる。
もう一つ主な有効策として打たれてきた手が、システム化・機械化・ロボット利用等による効率化・省力化である。日本は世界有数のロボット技術大国でもあり、生産現場におけるロボット利用や交通機関における自動改札機など自動化が既に進んでおり、今後もある程度の自動化の広がりは期待できる。また、中小企業での遅ればせながらのIT化も今後大いに期待できよう。
しかしさすがにそれらにも限界があり、特にいわゆる「エッセンシャル労働者」や第一次産業および多くのサービス産業の従業者については、最先端のテクノロジーをもってしても経済的合理性の範囲で(つまり闇雲にコストを掛けずに)代替できる割合は意外と低いことが分かっている。
こうした状況を踏まえると、我々の社会を機能させるために必要な働き手を確保するには、高齢者・女性の労働力増大とIT化・機械化・ロボット利用だけでなく、それ以外の大胆な策が欠かせないことが明白だ。
2.第二の問題:社会を支える資金負担者の不足
少子化の意味する第二の大問題は、社会保険・税金の負担者が着実にかつ加速度的に減ることだ。第一の問題が「労働力面で社会を支える人が減る」ことなのに対し、この第二の問題は「資金面で社会を支える人が減る」ことだ。
日本の年金制度は「世代間の支え合い」で成り立っており、現役世代が納める保険料で、その時々の高齢者世代に年金を給付する仕組みだ。しかし多数の高齢者が引退する一方で少数の若者しか支える側に回らない、大変な事態が加速しつつある。いわゆる「胴上げ」型から今や「騎馬戦」型に移行しつつあり、この先は「肩車」型になると指摘されている。
そして同様の問題が(年金以外にも)医療保険や税金にも出現することが明白である。一定の収入がある現役世代がこうした社会制度のコストを主に負担する構造はこの先も根本的に変わらないはずだ。このまま行くと、日本に生まれた若者は一人当たりの社会保険・税金の実質負担額が今の高齢者の数倍になってしまう。率直に言って、維持可能ではない。
この問題に関しては、(第一の問題への対処と同様に)女性や高齢者の労働市場参加率を高める、支えられる側の高齢者の負担割合を少しずつ増やす、といった策が漸進的に執られてきた。しかしこの弥縫策が少子化の流れを押し留める方向には機能しないことは明白で、しかも制度維持の効果についても限界が近づいていることも周知のとおりだ。
結局、生産年齢人口(15~64歳)を増やす以外にまともな解決法はないのだ。
3.第三の問題:需要の不足
最後に少子化が意味する第三の大問題は、社会全体の消費需要がどんどん縮小してしまうことだ。第一・第二の問題が供給面のボトルネックだとすると、この第三の問題は需要面のボトルネックだ。
高齢者は既にある程度のものを所有しており、活動も少しずつ減退するため、高齢者が主体である社会では年間消費額は伸びない。やはり生産年齢にある現役世代こそが消費の主役なのはいつの時代も変わらない。その主役の数が減るため、日本という市場が加速度的に小さくなっているのだ。
既に、目端の利く大企業の多くは随分と前から海外市場に注力し、投資も雇用も海外にシフトしてきた(海外の有力企業も日本市場を軽視する傾向が強くなっている)。この「個別最適」に走る企業行動が近年の日本市場での需要不足につながっている側面も強い。
一方で、就業者数の大多数を占める中小企業は日本市場に全面的に依存しているケースが多く、日本市場の縮小が競争激化と相まって彼らの収益減となり、それが従業員への給与が伸び悩んできた、あるいは悪い場合は倒産・廃業等につながってきた大きな要因になっている。さらにそれが日本市場での需要不足にもつながるという悪循環の構図が形成されてきたのである。いわゆる「人口オーナス」現象である。
この第三の大問題に対し民間企業が打てる最善の策は、不足する需要を海外に求めることだ。具体的には越境ECを含む産品の輸出であり、インバウンド需要の呼び込みである。この点、日本企業・団体の近年の努力とその成果には敬服すべきものがある。とはいえ、国内需要の縮小額に比べ海外需要の開拓実績額はまだまだ圧倒的に小さいのが現実だ。
産品輸出やインバウンド需要への対応についてはまだ改善の余地があるとは見込まれるが、それでも(元々の国内需要の規模という「母数」が大きいだけに)少子化に伴う国内需要の減退ペースをカバーすることは到底できない相談なのである。
結局、第一から第三のいずれの問題も、生産年齢にある現役世代がどんどん減っていく状況を改善しない限り、今の対策では問題悪化ペースを多少緩和することはできても、悪化傾向自体に歯止めを掛けることは難しいのだ。
4.政府の「少子化対策」は当てになるか
そこで日本政府が今、懸命に打ち出そうとしているのが「少子化対策」なのだが、その中身を見ると、岸田政権の政治的努力は多とするが(もちろん、対策を執ろうとも考えなかった過去の政権よりは格段に上等だが)、残念ながら一世代つまり30年ほど遅すぎるのだ。
既に子どもを生める年齢の女性たちが格段に減ってしまった今からの対策としては、抜本的に少子化を解決に向かわせるほどのインパクトはない。あまりに一面的で(具体策にまで落とし込めているのは、既に子どもを持ちたいと考えている人たちの目先の困り事に対処することだけ)、「異次元」というにはあまりに限定的なのだ。
本稿はこの「政府対策への批判」が本筋ではないのでここまでに留めるが、いずれ別途考察したい。とにかく申し上げたいことは、政府が掲げる今の「少子化対策」で日本の少子化傾向を反転させることは難しいということだ。
5.有効な打ち手は何か
すると少子化はまだまだ進み、三大問題の「人手不足」「社会を支える資金の出し手不足」「需要不足」に対する歯止めもしくは緩和の手はまったくないのだろうか。
そんなことはない。社会全体での覚悟さえ決めれば実は打ち手はある。その決定的な一手は、外国人の就労・定住条件を大幅に緩和するという出入国管理政策の転換だ。
実は2021年時点での日本での外国人労働者総数は約150万人とされ、日本社会は既に外国人労働者に支えてもらうことが実質的に不可欠になっている。しかし定住や家族帯同に対しあまりに厳しい制約を課していることで、少子化対策としての有効な手段になる道を阻んでいるばかりか、問題すら生んでいる(例えば技能実習制度は建前と違って歪んだ実態のため不法就労問題や犯罪を生んできた。この件に関して小生は何度も指摘している)。
外国人が日本で合法的に就労するための資格のあるビザは主に以下の区分だ。
- 技術ビザ: 技術や専門知識を持つ外国人が、日本の企業での雇用を受けるためのビザ。人数に関する具体的な統計はないが、これが最大セグメントではないか。
- 配偶者ビザ: 日本に住む外国人の配偶者や子供が、日本で就労するためのビザ。やはり人数に関する具体的な統計はないが、#1に準ずるのではないか。
- 留学ビザ: 日本の大学や専門学校に入学している留学生が、学業と並行してアルバイトやインターンシップをするためのビザ。2021年時点で約30万人以上。
- 技能実習ビザ: 一定の技能を習得するために日本に派遣される外国人労働者が、技能を磨くためのビザ。2021年時点で約20万人以上。
- 特定技能ビザ:特定の産業分野において必要な技能を持つ外国人労働者が日本で働くためのビザ。2021年時点で6.4万人強だが今後増加を見込む。
- 特定活動ビザ: 文化・芸術・スポーツ・宗教などの特定の分野で活動する外国人が、日本で一時的に就労するためのビザ。人数に関する具体的な統計はない。
このうち#1 #2 #5の発行条件と、家族の帯同および本人・家族の定住条件を思い切って緩める(そして#4は廃止し、緩和した#5に吸収させる)、という政策転換が小生の提言だ。
特に若い世代の外国人とその家族に就労・定住してもらうことを重点的に進めるべきだ。もちろん、本人およびその家族には就労と共に社会保険に加入してもらい、税金もきちんと支払ってもらうことが必須条件だ。
念のために追記すると、三大問題の解決のためには、外国人定住者が日本国籍を取得することは当面は必須ではない。しかし日本に定住した外国人一家の子どもたちが日本社会に溶け込むためには、次の段階としては日本国籍取得の条件を大幅に緩めるまで進めるべきだ。これは実質的な移民政策の転換を意味する。
この政策転換により、急減する日本人の若者人口を補い、日本での生産年齢人口をある程度維持することが可能となる。そうすれば、先に挙げた「人手不足」「社会を支える資金の出し手不足」「需要不足」という少子化の三大問題は相当程度緩和されよう。
うまくいけば少子化傾向を反転させることも期待できる。生産年齢人口を短期的に急回復させることは難しいかも知れないが、日本人より外国人のほうが平均出生率は高い傾向にあることを考えると、次の世代までには生産年齢人口の減少傾向を反転させることも現実的に期待できよう。
他にもよいことがある。例えば社会の多様化が進むことでイノベーションが生まれる余地も広がろうし、英語などの外国語を学ぶ必要と使う場面がさらに増えることでインバウンド対応も底上げされるし、海外で活躍できる(そしていつか帰国して日本に貢献する)人材が増えることも期待できる。
6.反対論への反論
もちろん、この提言に対し、外国人就労者および移民の人口が急増することで「単一民族たる日本人の統一性が失われる」とか「社会不安が増大する」とかいう反対論がそこかしこで唱えられることは十分想定できる。しかしよく考えて欲しい。
まず「日本人」の祖先自体が、相次いでこの列島にやってきた様々なモンゴロイド系の混交によって形成された「異種混合」人種だという事実が厳然としてある。「日本民族の統一性」などという虚構をベースにしたナショナリズムに振り回されてはいけない。
「社会不安」論も「反対のための反対」に過ぎない。今の社会構造のままでも、経済的に追い詰められて犯罪に走る若者が増えており、社会不安を増大させているではないか。その直接的要因は経済格差だが、元凶たる背景は世代間の不公平であり、維持困難な社会制度への不信と将来への希望の欠如である。この社会構造にメスを入れない限り、(外国人ではなく)日本の若者が社会不安の火種になるに過ぎない。
そもそも、我々にはもっと現実的な危機が差し迫っている。今の現役世代のうち中高年世代は近いうちに支えられる側に回るのだ。その時になって現役世代が檄減していれば、第一と第二の問題で指摘したように、まともなサポートは受けられないことは明白だ。
こちらは「社会不安」といった漠然とした話ではなく、確実にやってくる「不都合な未来」なのだ。「ちょっと不安」などと悠長なことを言っている余裕は我々にはないのだ。過疎の村落で「よそ者には住んで欲しくない」などと言っていたら、日々の暮らしさえ成り立たなくなってしまうようなものだ。
今のうちにできる対策として、実質的な移民政策転換を着実に進めるしか、この「不都合な未来」を回避する方法はない。我々は覚悟を決めるべきなのだ。外部リンク
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