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戦略的サプライヤマネジメントのすゝめーその2-/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2023年6月29日 10時39分

戦略的サプライヤマネジメントのすゝめーその2-/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

前回の記事(だいぶ前ですみません)で、事業環境変化に伴い、今「戦略的サプライヤマネジメント」が求められ始めていることを説明しました。今回は「戦略的サプライヤマネジメント」が従来のサプライヤマネジメントとどう違うのかを説明し、その取組みや進め方について、理解を深めます。

「戦略的サプライヤマネジメント」とは、従来のサプライヤマネジメントを進化させた概念です。従来のサプライヤマネジメントとは、大きく2つの点で進化しています。

1点目は、サプライヤ関連情報の収集を行い、それらの情報を全社で一元管理し、活用していくという点です。従来は、サプライヤの基本情報や評価情報などはISO規格取得のために、事業毎、工場毎に形式的に収集管理していた企業がほとんどでした。

それに対して、収集しなければならない情報の内容や、全社一元管理し活用するという運用方法も従来のやり方を変えていく必要がでてきています。情報の内容としては、様々なサプライヤのアンケート情報や、CSR関連情報、カーボンニュートラルなどの環境対応状況、サプライヤの工場や倉庫立地などのBCP情報、紛争鉱物対応の情報、反社アンケート情報、技術/製品情報、Ecovadisなどの外部情報、第三者によるVoS情報など、収集管理したい情報が多岐にわたっているのです。また、主要な情報の一つとしては、昨今の供給不足でサプライヤが顧客を選ぶ時代となったため、サプライヤがどのように自社をとらえているか、というパーパスの共有度(自社に対する姿勢)があげられます。

収集しなければならない情報の内容が多様化しているだけでなく、これらのサプライヤ関連情報はデータベースなどで一元管理し、サプライヤ戦略の策定・実行につなげなければ意味がありません。このような運用方法、情報活用方法の進化も新しいサプライヤマネジメントに求められる要件です。

2点目は、関係性強化すべきサプライヤとの、コミュニケーションの取り方の改革があげられます。ポイントは双方向でのコミュニケーション強化という点で、これが従来のサプライヤマネジメントと異なる点です。サプライヤマネジメントというと、サプライヤをマネジメントし、改善させる、といった、やや上から目線的な取組みをイメージします。

コミュニケーションの取り方の改革は、コミュニケーションの「方法」「内容」「機会」の改革を行うことであり、それによって双方向の取組みにできるのです。

コミュニケーションの「方法」の改善で、まず挙げられるのは、ビジネスレビューMTGです。ビジネスレビューMTGとは、サプライヤの課題だけでなく、バイヤー企業の課題も明確にし、課題を共有した上で解決策検討~改善のフォローを定期的に行っていくことを目的にします。理想的には、購買本部長、営業本部長などのマネジメントクラスが、定期的にコミュニケーションを取り、改善に取り組む方法が有効です。

他のコミュニケーションの「方法」の改善としては、VoSが上げられます。VoSとはVoice of Supplierの略であり、サプライヤのニーズや期待をヒアリングする活動です。しかし、これをコンサルタントなどの外部の第三者が実施することで、本音を引き出すことができます。ここでは、改善課題などをヒアリングするだけでなく、自社の競合他社比較での課題や、自社に対するサプライヤの姿勢を理解することも可能です。

次はコミュニケーション「内容」の適正化ですが、従来は自社の事業方針や生産計画などの情報共有が中心でした。これらのオペレーション上の情報共有だけでなく、事業目的(パーパス)やビジョンの共有を図り、製品ロードマップやサプライヤのビジネスチャンスを共有するなど、サプライヤを惹きつける工夫が必要となります。

最後はコミュニケーション「機会」の適正化です。これは、頻度の適正化と購買営業間だけでなく、両社の各部署間のコミュニケーションルートを構築することが機会適正化につながります。また、コミュニケーション実施においては、なるべくサプライヤ訪問を行い、必要に応じて、サプライヤの工場視察を絡めることも重要なポイントです。

このように、サプライヤ情報の一元管理及び活用と、コミュニケーションの取り方の改革、という2つの取組を行うことで、直面しているサプライヤマネジメントの課題を解決し、サプライチェーン全体でQCD+αの適正化を実現する取組みが、戦略的サプライヤマネジメントであり、今後日本企業は積極的に取り組んでいく必要があるでしょう。

最後に「戦略的サプライヤマネジメント」を実現している日本企業の事例を紹介します。この企業は大手製造業であり、サプライヤマネジメントを調達購買部門の主要業務として捉え、取組みを行っているのです。

当企業のサプライヤとの関係性づくりは調達部門だけの取組みではなく、全社を巻き込むものです。調達部門のリードで、社内各部署にサプライヤ評価をしてもらい、評価情報を蓄積しています。

また、調達購買品目毎に関係強化すべきサプライヤとビジネスレビューミーティングを定期的に実施しており、サプライヤコミュニケーションは極めて密です。主要サプライヤとのビジネスレビューMTGは、四半期に一回実施しており、ミーティング形式は基本サプライヤ訪問を行っています。また、サプライヤの日本本社だけでなく、海外工場に訪問する機会もあるようです。

これらのコミュニケーションにより、以下のような効果を実現しています。長期信頼関係の構築により、合理的価格で安定取引を保証してもらう。供給不足時、サプライヤに優先的に供給してもらえる。技術・製品・供給に関する最新情報がもらえる。サプライヤ各部署とのコミュニケーションルートの構築によって、緊急時に迅速に対応してもらえる(例:直接サプライヤ生産部門と納期調整)。

全社的なサプライヤ評価によって、サプライヤに関する共通認識を持ち、サプライヤ施策に社内部署間の協調が取られる。

このような効果を実現するのが、戦略的サプライヤマネジメントなのです。

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