ふるさと納税は救いの神か、悪制か/INSIGHT NOW! 編集部
INSIGHT NOW! / 2023年9月4日 9時30分
INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社
ふるさと納税が順調に伸びている。発表によれば、令和4年度の実績は、約9,654億円(対前年度比:約1.2倍)、約5,184万件(同:約1.2倍)だという。
ふるさと納税とは、もともと「ふるさと納税で地方創生」「ふるさと納税で日本を元気に!」というキャッチフレーズにあるように、税制を通じてふるさとへ貢献する仕組み。
これによって、次の三つの大きな意義が達成されるとしていた。
- 第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
- 第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
- 第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
もはや予算の主財源
こうしたもくろみで始まったふるさと納税だが、さまざまな声が聞こえてくる。
当然、ふるさと納税によって潤う市町村は多い。トップは宮崎県都城市で195億9千万円。トップランキングの常連で、令和5年の予算が968.5億円に対して、約2割がふるさと納税ということになる。2位は北海道紋別市で194億3千万円、令和5年の予算が463億円に対して、ふるさと納税がなんと半分に迫る勢いだ。3位は北海道根室市、5位には、何かと話題の大阪府泉佐野市が入っている。税収減に悩む地方にとっては、これほどの策はなかっただろう。
しかしながら、ふるさと納税には、返礼品というものがあり、自治体はただでもらえるものではない。国は返礼品にかかわる費用も公表しているが、返礼品の費用に加え、送付、事務作業など経費もかなり多い。平均すると46.8%もの経費がかかっているため、約200億集めても、実際に増収になるのは、約半分ということになる。返礼品の原価は平均27.8%だから、思いのほか、周辺の運営のための経費が多い。当然ながらそれも現金だ。
シャレにならない流出額
さらに大きな問題は、都会からの税金の流出だろう。
全国トップは横浜市で市民税の流出額は272億4200万円。名古屋市、大阪市と続き、川崎市(121億1500万円)が4位で、5位の東京都世田谷区は98億2300万円の区民税が流出した。6位にさいたま市(89億6900万円)が続いた。減収総額(流出総額)も約6798億円(6月1日時点の推計値)と過去最多となった。
結局、ふるさと納税でうるおった分以上の税収が都会から消え、税金を使った経費ばかりが増えているとしか思えない。これでもともとの目的が達成されていると言えるのだろうか。
納税者が寄付先を選定できるというが、ふるさと納税実施者のほとんどが返礼品目的なのは間違いないだろう。名産品を多く持つ地域ばかりが人気となり、必然的に銘品ランキングとなってしまっている。なかには、その地域とは何も関係ないと思われるような市販品も並ぶ。
実は減税にはならない
意外に多くの人が誤解しているポイントだが、ふるさと納税を行う人にとっては、税金が減るわけではない。「住民税の還元」ばかりが強調されるため、税金が安くなると勘違いしてしまっているだけなのだが、要は住民税(一部所得税)を先払いしていることにほかならない。(2000円の負担は無視している)
ただし、返礼品をもらっているので、正確には、同じ税金で返礼品はもらっているということになる。
ふるさと納税の実施者は、これまで税金として払っていたお金を使って、3割程度とはいえ、返礼品をもらえるのだから、大歓迎だろう。
結局、大枠で見れば、住民税(一部所得税)を使って、返礼品を国がまかなっているという絵にしか見えない。予算は同じで、返礼品の負担のみが増えているのだから、これこそデフレの象徴だろう。
NHKのニュースによれば、松本総務大臣は、「ふるさと納税は認知度が年々高まり、寄せられた寄付金はさまざまな地域の課題解決のために使われている。返礼品については、新たな地域資源の発掘を促し、雇用の創出や地域経済の活性化につながっている面もある」と述べたという。
確かに地方は地域企業の売上が上がり、税収も膨らむという一石二鳥のふるさと納税は、願ったりかなったりの制度だろう。
大臣が言うように、地域の経済発展につながればいいのだが、税金ばかりが使われてしまい、さらに、これによって、多くの住民が暮らす都市部においては、自治体の市民に対する公共事業やサービスの質が落ち、市民生活レベルが低下するようなことになれば、何のための制度かわからなくなってくる。うまく調整されることを願うばかりだ。
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