調達購買の3つのマネジメント/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2024年4月25日 10時0分
野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
私の講演や研修、コンサルティングの現場などでも、よく話していることですが、近代的な調達購買にとって、3つのマネジメントの連携は非常に重要です。
3つのマネジメントとは、1.カテゴリーマネジメント、2.ユーザーマネジメント、3.サプライヤマネジメントの3つです。
(以下、あくまでも私個人での見解であり、一般化された手法ではありませんことをご留意ください。)
1のカテゴリーマネジメントは、企業が調達購買活動をカテゴリー毎に管理するプロセスです。カテゴリーとは、樹脂成形品、プレス部品、焼結部品、ITなどの購買品種や業種のことです。特定のカテゴリー(品種やサービス)にカテゴリー戦略の策定や、サプライヤーの選定と管理、価格交渉、リスク管理、調達プロセスの改善などを進めていくマネジメント手法になります。目的は、カテゴリーごとの最適な戦略を策定し、効率的な調達プロセスを実現し、対象カテゴリーの購買品のQCDの最適化を図ることです。
カテゴリーマネジメントは、従来はQCDの中でもC(コスト)にフォーカスすることが多く、コスト削減戦略とも言われてきました。カテゴリー毎にコスト削減戦略を策定し、都度案件
毎ではなく、年間の契約や全社の契約をまとめてソーシング(サプライヤ、価格の決定)することで、メリットを引き出すことが主眼とされていたのです。またこのようなコスト削減の進め方を戦略ソーシングと言っていました。
カテゴリーマネジメントは欧米では、ごく当たり前な概念です。日本でも会社によっては当たり前の手法となっています。しかし、日本では、まだカテゴリーマネジメント、カテゴリー
戦略か定着していない企業も少なくありません。一方で、最近は、コストだけにフォーカスするだけでなく、供給戦略やBCP戦略も重要視され始めており、カテゴリー戦略策定の目的も、従来からやや変わってきているように感じます。
2のユーザーマネジメントですが、これは、調達購買を行う企業内の利用者や関係者との関係をマネジメントする手法です。ユーザーとのコミュニケーションにより、ニーズを把握し、仕様の提案やサプライヤの標準品などの提案を行ったり、最適なサプライヤの紹介や、新しい技術の情報提供を行い、QCDの最適化につなげ、最終的には自社製品・サービスの競争力の強化につなげることが目的となります。
ユーザーマネジメントは一部の業種や企業では、VE活動、原価企画とか、開発購買と呼ばれ、日本企業では結構以前から取組みが進んできました。何故なら、大きなコスト削減を実現するためには、仕様や設計が固まってしまう前の、開発上流段階での検討や関与が必須であり、コスト競争力でグローバルで競争優位を持っていた多くの日本企業にとっては、欠かせない取組みだったからです。しかし、開発購買活動には課題もあり、多くの企業がその取組み方法に悩んでいます。
一方で、欧米では開発購買に該当する英語表現をあまり聞いたことがありません。これは私も聞いた話なのですが、欧米では役割分担が明確であり、仕様の最適化や決定は、開発や技術などのユーザー部門の責務であり、調達購買部門は決められた仕様を実現するためのサプライヤ選定やコスト削減などのソーシング活動を行うことが役割である、という考え方があり、開発購買は、あまり積極的には取り組まれていない、といのことです。
最後に、3.サプライヤマネジメントですが、これは、企業とサプライヤとの関係性を管理するマネジメント手法です。サプライヤの選定、評価、契約、評価の改善などが含まれます。サプライヤマネジメントの目的は、優れたサプライヤベースの構築と維持、サプライヤとの協力関係の構築による、リスク管理、コスト削減、品質向上などです。
サプライヤマネジメントは、比較的外作比率が高い、日本企業では特に重要視されてきました。トヨタ自動車のグループ経営や協力会組織、コマツの農耕民族型サプライチェーンなど、
特にサプライヤとの関係性を強化し、協働する、という考え方は、従来から日本企業の得意分野だったと言えます。
一方で、サプライヤを評価し、推奨サプライヤを認定し、ランク分けする。ランク分けしたサプライヤ毎に差別化し、契約管理を行う、などのマネジメント手法は日本企業はあまり得意としていなく、どちらかというと欧米型の手法でありました。
サプライヤピラミッドという手法はサプライヤの評価に基づき、サプライヤを推奨先、一般、非推奨などに区分する手法であり、欧米企業は、サプライヤの改善や推奨先との関係性強化を
目的に、このような手法を取り入れることが一般的だった、と言えます。
一方、日本企業はサプライヤ評価はISOの規定に入っているので、義務的にやっているものの、便宜的にやっているだけ、といった状況にありました。
このように3つのマネジメントの発展経緯など、それぞれ異なった発展をしてきましたが、現状は日本企業も欧米企業も共通して、これらの3つのマネジメントを連携をしていくことがマストとなってきています。
具体的にはカテゴリー毎の戦略に基づき、サプライヤ戦略を策定し、関係性強化すべきサプライヤを明確にし、それを行う。評価の改善が求められるサプライヤとは、課題を共有し、改善を進めていく。また、カテゴリー毎のユーザーを明確にし、彼らのニーズを吸い上げ(VoC)それを満たすためのサプライヤ選定やサプライヤ評価につなげる、また優れたサプライヤの提案やサプライヤそのものの採用をユーザーに働きかけて、実現する。
こういった3つのマネジメントの連携で、カテゴリー戦略の実現につなげていくことが求められているのです。
昨今では、サプライチェーン全体での競争力強化のために、従来のQCD最適化だけでなく、CSRや紛争鉱物関連、人権DD、SCOPE3でのカーボンニュートラルの実現、その他の化学物質調査、サステナビリティの確保など、サプライチェーン全体での情報収集、管理、統制などが求められており、従来のような、サプライヤを評価して、格付けしていくようなサプライヤマネジメントから、サプライヤ全般のマネジメントの重要性が増してきています。
そういう意味では、事業環境や社会環境の変化で3つのマネジメントの中でもサプライヤマネジメントの重要性が、より高まっていると言えるでしょう。
メルマガでも発信してきましたが、サプライヤマネジメントは、戦略的なサプライヤマネジメントが求められ始めています。特にこの点については、従来の延長線上の施策や手法では限界があり、新たな手法が求められているでしょう。次回はこのような一歩先を行くサプライヤマネジメントのあるべき姿について今後の動向を含めて述べていきます。
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