サプライヤマネジメントからバーチカルチェーンマネジメントへ/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2024年5月15日 10時0分
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野町 直弘 / 調達購買コンサルタント
前回の記事では、近代的な調達購買にとって、3つのマネジメントの連携が非常に重要だということを書きました。3つのマネジメントとは、1.カテゴリーマネジメント、2.ユーザーマネジメント、3.サプライヤマネジメントの3つです。
それぞれのマネジメントの手法は欧米型、日本型の2つのタイプがあるものの、それぞれが発展&連携しているものの、現在はサプライヤマネジメントの重要性がより高まっています。
何故なら、サプライチェーン全体での競争力強化のために、従来のQCDだけの最適化ではなく、CSRや紛争鉱物関連、人権DD、SCOPE3でのカーボンニュートラルの実現、その他の化学物質調査、サステナビリティの確保など、サプライチェーン全体での情報収集、管理、統制などが求められており、従来のようなサプライヤを評価して、格付けしていくだけのサプライヤマネジメントから、全般的なサプライヤマネジメントの重要性が増してきているからです。
メルマガでも繰り返し発信してきましたが、サプライヤマネジメントは「戦略的サプライヤマネジメント」にレベルが上がっています。ところが、昨今の状況を鑑みますと「戦略的サプラ
イヤマネジメント」だけでは、企業のサプライチェーンの最適化には不十分な点があることが分かってきました。
おさらいになりますが、ベーシックな「サプライヤマネジメント」は、4つのマネジメントで構成されます。SIM(サプライヤインフォメーションマネジメント)、SPM(サプライヤパフォーマンスマネジメント)、SRM(サプライヤリレーションシップマネジメント)、SRM2(サプライヤリスクマネジメント)の4つです。
これらのマネジメントを整備することで、どのサプライヤとどのような関係性を築くか、ということが、従来の基本的なサプライヤマネジメントでした。
一方「戦略的サプライヤマネジメント」は、これに追加し、全社かつ、従来収集できていなかった情報の収集、分析、活用の仕組み作りを行うことや、VoSなど従来できていなかったサプライヤコミュニケーションの推進が上げられます。
もう一点あげられるのが、川上を含むサプライヤのマネジメントの推進です。従来は直接調達購買を行っている企業だけを対象としていましたが、それを川上(川下も)まで拡大し、マネジメントを進めることが「戦略的サプライヤマネジメント」では、求められています。
昨今、サプライヤの力が相対的に強くなっており、また何らかの地政学リスクや事案が頻繁に起こりうるVUCAの時代であり、1次サプライヤだけでなく、その川上である2次サプライヤや3次サプライヤまでを把握し、ボトルネックになっていないか、を確認し、2次、3次サプライヤのマネジメントを含め、進めていかなければならないのです。
これらの点が、従来の「サプライヤマネジメント」から「戦略的サプライヤマネジメント」への発展と考えていました。しかし、近年「戦略的サプライヤマネジメント」だけでは不十分な時代になりつつあるのです。
サプライヤマネジメントとは別に、自社のバリューチェーンの最適化という点から、サプライチェーンマネジメント(以下SCM)という概念でも改革は進められてきました。SCMとは、自社の調達・製造・流通・販売などの最適化を進める概念でしたが、その多くは販売と製造・流通の最適化を進めるものだったのです。
しかし、これはあくまでも自社の現在の製品・サービスを前提とした調達・製造・流通・販売などのバリューチェーン全体の最適化が目的でした。
昨今、製品・サービスは複雑化、複合化しており、最終製品を構成する要素には多くの技術が含まれ、これらを全て自社で網羅すること自体が難しくなっています。例えばスマホですが、構成部品一つ一つを製造・販売する企業があり、それらの構成部品ごとにサプライチェーンがあります。
また、自動車製造販売では、最終製品の販売だけでなく、カーシェアやカーリースなどの事業形態が発展し、カーナビから発展したコネクテッドなビジネスが川下に広がってきました。
このように、従来の自社の製品・サービスを前提としたサプライチェーンの最適化だけでなく、川上や川下まで含むバーチカルなチェーンの最適化が求められているのです。
そういう点から、私は「バーチカルチェーンマネジメント」という表現が適切だと考えます。
「バーチカルチェーンマネジメント」とは、自社の製品・サービスの川上から川下まで広く捉え、その中で、自社の製品・サービスの競争力を強化するために、どのような事業を手の内に
するか、を再設計するものです。つまり、自社の製品・サービスの競争力強化のために、供給チェーン内の複数の段階を所有または制御することです。
業界によっては、川下側の流通販売が圧倒的な力を持ち、川上側へ影響力を持っていました。一方で、多くの事業・製品は深いサプライチェーンになっており、一般的には、最上流である素材・原材料メーカーの影響力が強くなっています。
しかし、これは製品・事業によって異なります。自社の製品・事業をバーチカルに捉え、その中で何を手の内におき、何を除外していくのかを検討し、戦略に落とし込み、競争力を最大化することが、バーチカルチェーンマネジメントです。
バーチカルチェーンマネジメントの事例は、現在でも多く上げられます。
例えばテスラは、垂直統合型のモノづくりで有名な企業です。バッテリーやバッテリーの主要材料について、鉱山会社と直接契約を結んだり、半導体不足の際に内製でプログラミングをすることで、半導体不足を乗り切ることができた、などは有名な話でしょう。
同じ自動車会社でもトヨタ自動車は自社をモビリティカンパニーと捉え、川下事業では、カーシェア事業や、カーリース事業、カーナビやカーナビへの情報提供など幅広く川下事業への展開に力を入れています。
一方で、自動車会社のサプライヤである製鉄会社も、原料炭の確保のために、自社鉱山比率を高めるなどの戦略を取り始めているのです。
また、今後より重視される「サーキュラーエコノミーの実現」ですが、これにはリサイクル材の供給元の確保が必須となります。リサイクル材の供給元はバージン材とは全く異なるケースが多いです。例えば樹脂などでは、回収し、分別し、再利用のための加工が必要となってきますし、それらの機能を持つバーチカルチェーンの中のプレイヤーもバージン材から変わります。
従来はリサイクルはコスト高になってしまい、競争力につながりませんでしたが、バージン材の供給難や社会的な要請から、環境負荷の低下が競争優位になる時代となり、そういう背景下、バーチカルチェーンの再構築が、たいへん重要な時代になりつつあるのです。
これらの事例のように、バーチカルチェーンマネジメントは非常に重要な概念であり、既に多くの取組み企業があることも、理解できます。
バーチカルチェーンマネジメントで重要なことは、何を手の内に持つかです。チェーンの中で重要な機能を自社で囲い込むことで、競争力強化につなげていきます。そのためにはM&A、JV、出資、戦略的提携、人的関係強化、など様々な方法が上げられます。
これらの取組みは、全社の事業戦略、内外製戦略、コンポーネンツ戦略に沿って進めるべきものであり、企業としての重要な意思決定となります。一方で、多くの企業は高度な縦割り組織となっていることが多く、多くの日本企業では、バーチカルチェーンマネジメントの戦略を企業横串の視点で策定できるような部門は存在しません。
この点から、企業においては、バーチカルチェーンの中でどのような戦略をとっていくのか、を策定する機能・役割を持つ人や組織を、まずは、設置、育成すべきです。
また、具体的な取組みについては、従来のサプライヤマネジメントの取組みの延長として、調達購買部門も主導していく必要があります。バーチカルチェーンマネジメントのコミュニケーション窓口として、調達購買部門が関係性強化を主導的に進めていく期待が高まっているのです。
このようにサプライヤマネジメントからSCMへ、また、そこからバーチカルチェーンマネジメントの最適化へ、と企業における外部資源の優先順位付けと取込みや、今後一層重要となり、企業の競争力の源となってくるでしょう。
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