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【インサイトナウ編集長座談会】 「残念なDX」第3回:DXの誤解と失敗の原因(2)/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2024年5月20日 14時20分

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INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

連載:【インサイトナウ編集長鼎談】課題への転化ができていないからDXが進まない

お相手:マーケティングコンサルタント金森努様×人材開発コンサルタント富士翔大郎様×DHH合同会社 CEO藤川秀行様
音声データのデジタル化技術でDXを推進するDHH社)


連載:【インサイトナウ編集長鼎談】 残念なDXからいかに抜け出すか DXにはマーケティングが欠落している? - INSIGHT NOW!プロフェッショナル

前半:【インサイトナウ編集長鼎談】「残念なDX」第2回:DXの誤解と失敗の原因(1)

後半:【インサイトナウ編集長鼎談】「残念なDX」第2回:DXの誤解と失敗の原因(2)


猪口 これまで2回にわたって残念なDXとは何か、何が原因なのかを話してきました。

富士残念なDX」には様々な要素があることがわかりましたが、一番の要因は顧客志向やマーケティング分析の不足ではないかということになりました、それを全部こなすのは至難の業なので、現実には「技術を最優先にしているために、お客様の環境に対応できていない」というところに焦点を当ててきました。しかし、私も金森さんも、あくまでユーザーであったりコンサル的な立場から見ているので、提供当事者の立場とはやはり違う面があります。今回は現場の声をお聞きするため、音声DX DECIBELというサービスを提供しているDHH社藤川社長をお招きしました。

藤川 私はDHHという会社を経営しています。CEOではありますが、プロダクトマネージャーとしてプロダクトの企画開発やコーディングも行っています。

DECIBELというのは、電話受付を人が不在でも自動で行うことができるクラウドIVR サービスです。2017年頃からアマゾンのEchoやSiriといった音声アシスタントが出てきて、音声入力の下地が形成されました。その後、音声認識と音声合成の技術が飛躍的に向上し、電話に適用することで、自動で応答ができるようになりました。日本には日本語の問題が参入障壁になっていたこともあり、これを実現するためにDECIBELの開発を進めました。

猪口 実際にはどのようなお客様が導入されているのですか。

藤川 今一番利用されているのは住宅関連の会社です。四半期に1回大量のDMを発行して、キャンペーン等の告知をするのですが、パソコンやスマートフォンを使えない高齢者の方も多く、そのリアクションを取るため、電話の受け口をつくる必要がありました。開設してみると問い合わせ電話が鳴りやまない事態となり、これでは仕事にならないとご相談いただきました。そこでDECIBELを導入していただき、お客様の名前、住所、希望する商品を聞いて管理する仕組みを提供しています。

富士 この領域は高齢化社会などを考えると、今後まだまだ成長していくと思いますが、現在の注目度という点では音声よりもAIがキーワードになっています。音声のデジタル化に関してはあまり普及している気配がないですよね。藤川社長もいろいろなチャレンジをされているので、今日はそのあたり少し深掘りできればと思います。

猪口 音声というと、一見アナログのイメージですが、どのような理由で取り組まれたのでしょうか。

藤川 音声の技術、API(接続先のOS、アプリケーションやウェブサービスをつなぐインターフェース)があったからというのが半分です。スマートスピーカー、音声認識の技術を勃興させたいという思いがありました。大規模なコールセンターはSIerと組んでいたので、われわれがライトにサービス化することで、スモールビジネスやもっと現場に近いところで電話対応に困っているお客さまにリーチできないかと思いました。

猪口 実際に導入するにあたってご苦労はありましたか。

藤川 これはプロダクトの問題でもあるのですが、音声ナビゲーションの問題として、何かを選んでいただくことが非常に難しいですね。ウェブだと一覧を目で見て探せます。例えば47都道府県あっても探してクリックできますが、それを音声認識でやろうとすると、リストを47個分聞くのは時間がかかりますし、既知のリストでないかぎり非常に難しい。それを避けるためには階層構造にして、カテゴリーを設けて絞っていく過程が必要です。

また、お客様から土日や時間外に電話したいという声があって、検討していただくのですが、DECIBELで受け付けた後に誰が2次対応をするかという課題があります。受けた後のオペレーションが構築できないわけです。体制を含めて全体を考え直さなければいけないですね。

猪口 オペレーションシステムを含めたトータルプランが必須ですね。

金森 そうですね。「トータルプラン」というのをマーケティング的に考えてみましょう。例えば、電話がかかってきて困る、電話をどう処理するかという「課題」に対して、自動化することで「解決方法」を見つけ出すところまではいいのです。あと1個抜けているとするなら、「既存の自社のバリューチェーンのどこを変えてどこに組み込むのか?」という設計です。そこを変革することによって業務全体がトータルに変わっていくような設計をして全社合意を取る。この段階が抜けていると「残念な形」になってしまうのではないでしょうか。

猪口 人が対応する場合と比較してデジタルのDECIBELが優れているのはどのようなところですか。

藤川 24時間365日、土日祝日、年末年始でも電話を受けることができます。また、分散して受けられるので、100本同時に接続することもできます。人間で対応しようとすると100人張り付く状態を作らないとならず現実的ではありませんが、DECIBELであれば非常に簡単に提供できます。

これまでのIVR(電話自動応答)は数字を押すのが基本で、名前や住所を入れることができませんでした。DECIBELは音声認識によって音声データからテキストデータに変えることができます。何もしなくても置いておくだけで、相応の問い合わせ、予約、資料請求等を受け付けることができます。

猪口 お客様が話す内容をテキストにしてくれるわけですね。そうすると取れたデータを分析したり、統計データとして整理したりもできますね。しかも人が打ち込むよりはるかに早く正確に。

藤川 そうですね。電話があったことをメールや社内SNS等で通知し、その後の業務フローでCRM(顧客関係管理)として管理し、MA(マーケティングオートメーション)まで流していく。セールスフォースのようなイメージです。DECIBELはそういった流れの電話の受け口だと思っていただければいいと思います。

富士 簡単な質問に答えられるということは、例えば「何時まで営業していますか」「今予約を取れますか」といったよくある質問に対して序盤にAIで答えることができますよね。問い合わせの8割が同じ質問だったら8割をカットできるわけです。複雑な内容だと難しいこともあるかもしれませんが、これができるだけでも有効です。

「見えるものでしか話をしていないからDXが進まない」

猪口 アナログとデジタルがきれいに結びついていますね。一方で音声データのDX化は一般にはまだなじみが少ないかもしれません。藤川さんはこれまでどのようなプロモーションをされてきたのでしょうか。

藤川 基本的にはSEOです。マス向けにはソーシャルメディアマーケティングをやっていましたが、B向けにはしっかりウェブを作り込んで、AI音声自動受け付けを使うことでSEOで上位にくるよう注力。ランディングページを作ってSEMをしてきました。しかし、そもそも電話に課題感がない。課題感を持っていたとしても、どう検索したらいいかわからない。どれだけウェブを作り込んでも、インバウンドを狙っていた層はなかなかきてくれません。

そこで、これまでのユースケースに基づいてターゲティングを行い、DMを送り、その後にフォローコールをするという施策を行いました。また、人材採用の市場にもアプローチしました。採用の現場は人手不足で、募集しても実際の応募を取り切れないケースがありました。DECIBELであれば応募の電話を自動化することができます。

しかし、ターゲティング自体は間違っていないと思うのですが、なかなかうまくいきませんでした。

猪口 振り返ってみて効果としてはいかがでしたか?

藤川 そこからの僕の仮説として思うことは、電話が鳴って困っている状況でないと何を言ってもまったく響かないということです。そこに尽きます。問題を目の当たりにしないことには想像できないのだと思います。

金森 「顕在化したニーズ」がないとだめだということですね。例えばコールセンターの中でももう少しセグメントを割って、「サービスエージェンシー」と「インハウスのコールセンターを持っている事業会社」にセグメントする。事業会社は自分のところの人と施設を使っているわけですから、インハウスのセンターなら明確に「自社オペレーションの効率化」というニーズを持っているので、そちらを狙うわけです。「セグメンテーションはニーズで括る」のが原則なので、そもそもどこにニーズがあるかを明確にして、セグメントをもう少し細分化する必要があったのかもしれません。

猪口 営業機会を失わないようにする、手間を省きたい、あるいはオペレーターの人数を減らしたいという課題ということでしょうか。

金森 その通りです。

富士 課題という形になっていないとニーズとして認識されないですよね。営業時間外に電話がかかってきたとしても、社員が知らないところで起きている事象なので、積極的にそれに対応しようという気持ちがあって調べなければ分からないです。大事な機会を損失していても実際には分かりません。

猪口 けっきょくDXは、自分の業務をいちから組み立て直すようなところがない限りうまくいきません。今の業務のどこか改善点かという話ではありませんから。

金森 だからこそ、自社のバリューチェーン全体を洗い直して、どのように「改善」ではなく、「変革」することがKSF(Key Success Factor=成功のカギ)の実現に繋がるかを考えることが必要なのです。

富士 これは意外と難しい話です。見えていないところを見えるようにしないと課題にならないわけですから。売上に直で影響するのであればおそらく気づきますが、自分自身がそれほど困っていないとなると難しい。サービス品質をチェックするような調査があればわかりますが。

猪口 まずは9時5時で受注センターを動かしているとしたら、それを24時間にしたら1.5倍になるかもしれないという発想からですよね。

富士 そうなのですが、今はその「営業時間外は対応しないのが常識化されている」ので、DXにより「人以外の方法で対応する方法もあるかも」という発想にたどりつかず、人が対応できないから無理で終わってしまいます。一番大切なソリューション発想まで行き着かない。

猪口 今日の「残念なDX」のテーマのひとつは「課題への転化ができていない」ですね。

富士 人が「課題認識がある」かなのか、そもそも課題が「認識される課題」なのか。ポイントは人なのか課題なのか、どの言い方をするのが正しいかまだ整理がついていませんが、そこに問題があると思います。もっと言うと、「見えるものでしか話をしていないからDXが進まない」というのが私の課題提起です。

「音声」の可能性を探る

猪口 藤川さんは音声のデジタル化、音声を使ったDXの可能性はどこにあるとお考えですか。

藤川 決められたフローで決められたシナリオを捌いていくのがDECIBELなので、チャットGPTを使ってQ&A、チャットボット的な利用もあると思っています。例えば、証券会社や銀行の機関のQ&Aは凄まじい量で、検索して探すことができるようになってはいますが、たどり着くまで非常に大変です。チャットGPTを一回かませて、例えば「口座開設に必要な書類は何ですか」と言えば、データベースの中からQ&Aを引っ張ってきて、その時点でウェブから返すこともできますし、それを音声に変えて伝えることもできます。

猪口 そういう意味では、ウェブ上にたまっているありとあらゆるデータの中から、どう見つけ出して伝えるかというところに音声の活躍が相当ありそうですね。

藤川 「どう整理してどう伝えるか」だと思っています。実現はしなかったのですが、以前、ある自治体から、障がい者の方向けの行政サービスの一環として、例えば聴覚や視覚に問題がある方に対して、障がい者の定義や受けられるサービスを案内したいというお問い合わせを受けたことがありました。行政サービスは広く、1問1答でも難しいほどです。そういったものを読み込ませて学習することによって、自治体の行政サービスとしても使っていただけるようになります。これはやはり音声でしかできないことですね。

金森 先ほどの課題化していないという話でいうと、自社にはこのような技術があり、自社で足りない技術は外から持ってきて、その技術を使うことでどのような「機能」が提供できるか、というところがまず考えられます。一方で、市場にはどのようなニーズがあるのか、そのニーズはどのような「価値」を求めているのか、というところがある。そうすると、「機能と価値をうまく橋渡しすること」が肝で、そこがうまくつながると課題が顕在化するはずです。これはMTFというフレームワークで、マーケット、テクノロジー、ファンクションをつなぐことが重要なのです。

富士 先日、藤川さんのところで中小企業を支援する団体が主催する展示会に参加するお話があって、お客様の声を聞ける良い機会だと思い、金森さんと私も同行させていただきました。そこで人気だったのが業務系のアプリです。来場者は「とにかく聞いておかなきゃ」くらいのノリなのではないかと感じました。さらに、セミナー会場で行われた「DXとは何か」がテーマの基礎的なセミナーが一番人気だったのです。DXが騒がれ始めて7年以上になるというのに、いまだにこのようなセミナーが満席になっていてはだめですよね。日々進化しているデジタル技術の中で、スピードが大切です。われわれが思っている以上に現実のギャップを感じました。

仕事をどう変えようか、どうすれば儲かるか考えている人たちはすでに動き出しています。しかし、まだ多くの会社ではまだ「とりあえず勉強しておくか」くらいのノリなのだと感じました。

「もっと顧客を見ろ」

猪口 課題を持っていない人に対しては非常に難しいアプローチになると思うので、そこでDXの可能性を含めた解決策を提示しながらやっていかれると思いますが、その辺はいかがですか。

藤川 今は電話が鳴っているところへのアプローチがまず一つです。オフィスの電話にしてもコールセンターにしても、逼迫する状況になる前に、人が対応して何とかなってしまっているのが現実です。それが当たり前になって、本当に困っている状況にまでなっていないのだと思います。一方、自分たちの製品や商品サポートのために構築しているインハウスのコールセンターはリアリティがあって課題感が高いので、そういったところにターゲットを変えてアプローチをしていくのも一つだと思っています。

猪口 僕の仕事で携わった物流センターの話と似たところがあります。物流センターでは人手不足になっているのに、日本人は優秀で人間の手でできてしまうそうです。それで経営者も、できているならとやらせてしまう。しかし本当は、ロボットやAIができることは人間がやらずに、優秀な方々にはクリエイティブな別の仕事をしてほしいわけです。そうしていかないと生産性が上がりませんよね。藤川さんが提供しているソリューションはまさにそういうものですよね。

富士 日本で働き方改革がなかなか進まなかったのも、「日本人は真面目で、アメリカ人がつらいと思うような仕事でもつらいと考えない」のですよね。つらいと思えば改善しようとなりますが、つらいとか面倒くさいとか言いにくい雰囲気がある。また「もっと楽しよう」と言う人があまりいないので合理化されない。なおかつ「手や体を動かしていないと遊んでいると思われるから、無理にでも手や体を動かしてしまう」そういった文化が強いので、体を動かさない思考業務が評価されにくく、考えなくなるという致命的な問題があります。私もよく若いころに工夫する方法を考えていたら「考えてないで手を動かせ」と言われたものです、ダメな時代でした、これでは課題に気づけないので、ソリューションやDXが進むはずがないでしょう。

金森 働き方改革でそういった業務が改善されていくことを祈りますね。

富士 日本のサービスを良くするために、見えない課題を顕在化する仕組みの重要性についてもっと関心が高ければ、世の中のビジネス全体にも良い影響を与えるような気がします。それを社員がやらずにコンサルティングに頼みます。お金がないとできなくなります。DXそのものや改善事例などの対策だけではなく課題や真因を発見、分析すること自体を国が会社を表彰するなど、顕在化してあげるような仕組みがあれば、勝手に商売は広がっていくので、日本の経済環境にとっても良いことだと思います。

金森 以前、「内向きのDX」と「外向きのDX」というお話をしましたが、現在、成功事例とされているものは圧倒的に「内向きのDX」が多いです。結局お客様のことは見ないで、自分たちの業務の中で何をすればいいのか考えた結果、そちらが先行してしまう。ですから、「もっと顧客を見ろ」というのが大きなポイントになると思います。

富士 今のDXは「社内のIT化やシステム化」に収まっているものがほとんどです。その挙句にシステムを使いこなせていないことが課題になっていて、フェーズとしてかなり序盤のほうで止まっている感じです。社内のシステム化と顧客サービスはまったくの別物です。顧客サービスの向上に結びついているのは一部だけで、そういう意味で、「残念なDX」というより、残念になるまでにもいっていない。お客さんと意見のぶつかり合いもしていませんから。お客さんと対峙するとなると急にハードルが上がります。

金森 ここでセグメンテーションの話に戻りますが、だからこそ、セグメンテーションは「属性で切る」のではなく「ニーズで括る」のが大原則なのです。年齢などの属性ではなくニーズにこそ意味があります。最近マーケティング界隈では、年齢・性別によるセグメンテーションが効かなくなっていると言われています。10代と60代が同じようなニーズを持っていて、セグメントしてみると同じセグメントに属していることが分かり、実際にプロモーションをしてみると同じように当たっている。従来の年齢・性別で切るセグメンテーションでは語れなくなっているのです。

富士 今回、実際にサービスを提供している藤川さんのお話でも、かなり事前にニーズ調査やユースケース検討をしてもなかなかヒット商品につなげるのは難しいことがわかりました。

特にDX分野の進歩が速いために製造してリリースするころにはマーケットが変わっているということもありえます。日本がアメリカに勝てないと言われますが、圧倒的に参入規模というか裾野の大きさが違う。大きな成功の裏にはそれ以上の失敗があるでしょう。日本は限られた大企業が市場を占有していて中小規模の企業は大逆転が難しい産業構造です。だからこそDXは切り札になりうると考えます。

現在、「DECIBEL」も電話の音声自動応答サービスとしてより導入しやすく効果的なサービスとしてレベルアップしていくために、まずは実際にご利用いただくための「無料トライアル」の申込を受け付けています。やはりマーケットや顧客のニーズをより幅広く知るために、ユースケースは少しでも多く必要なので、様々な業界の方にぜひお試しいただければと思います。

次回は、これらの経験を踏まえDX成功のポイントについてより深く考えたいと思います。

猪口 DECIBELの今後が楽しみですね、本日はありがとうございました。


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