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【インサイトナウ編集長鼎談】個別のイノベーション成果に満足することなく、異分野間の融合によって新たなイノベーションを創出させる/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2024年6月27日 10時10分

【インサイトナウ編集長鼎談】個別のイノベーション成果に満足することなく、異分野間の融合によって新たなイノベーションを創出させる/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:西山敏樹様
一般社団法人イノベーション融合学会 (https://www.ifsj.or.jp/)代表理事


イノベーションをつないで融合させる

猪口 日本イノベーション融合学会は、具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

西山 学会は2024年8月で10年を迎えます。10年前というと、日本では不景気が長く続き、いろいろな問題が複雑化していました。学問の世界でも、イノベーションを起こすことで満足してしまう人が非常に多かった。例えば私の分野だと、電気自動車を作りました、自動運転の技術ができましたなど、それで満足して終わってしまう。前会長で、私もお世話になった経営学者の高梨先生は「イノベーションを起こして満足するのではなく、イノベーションを融合させ、つないでいく、成果としてそういうものが必要なのではないか」とおっしゃっていました。1例を挙げると、私の研究では、電気バスとユニバーサルデザインやバリアフリーを結びつける活動をしてきました。バス業界でエコとバリアフリーを結びつけることは、イノベーションによって2つが融合するような感じです。そういう活動をもっとやらなければいけない、と。

経営学者の高梨先生と、そこに社会科学系の人も混じって、「イノベーションをつないで社会にどうインストールしていくのか」を考えるため、日本イノベーション融合学会が創設されました。私もそこに賛同して10年が経ちます。学会が10年目を迎えて、人もつないで、イノベーションの成果もつないでいくような、そうした融合を旨とした学会になっています。それで学会名に「融合」が入っているのです。

猪口 イノベーションを単体で見るのではなく、それをつないで、シナジーを生んで、本来のイノベーションにしていくということですね。

西山  DXはまさにそうで、いろいろな技術をつないでいかないと価値が出てきません。イノベーションをつないで融合させるところでDXも必要だということで、高梨先生と議論をしたり、教わったりしてきたのですが、2021年8月に急逝されました。私は若輩者でしたが跡を継ぐことになりました。

DX検定で「リテラシーを上げる」

猪口 学会で主催しているDX検定についてお話しいただけますか。

西山 学会が検定に手を出すことはあまりないのですが、企業からDXの測り方や評価の仕方がわからないという声が従前からありました。人事評価や昇進の基盤となるものなので、きちんと測ったほうがいいのではないかというこということで、作問体制も含めて一緒にやることになりました。今では900社、5万人以上がDX検定・DXビジネス検定を受けています。

DX検定はどうしても技術的なところが主流だったので、社会科学的なビジネス系の人が受けられるようにと、DXビジネス検定ができました(以降DX検定、DXビジネス検定あわせてDX検定で表記)。大学の人間からするとこれはありがたい話です。文部科学省から大学に、卒業生の質を担保するため、資格の取得や検定の受験が求められているのに、大学の勉強に関して、社会科学系の検定が意外と少ないことが問題でしたから。

猪口 技術系とビジネス系の2つがあって、いわゆる文系の方でもDXに対する取り組みができるということですね。やはり融合学会でいらっしゃるので、コンセプトはイノベーション、DXをいかに応用していくかというところまで対応されているのでしょうか。

西山  DXがなぜ大事かというと、例えばビッグデータがあって、学者がビッグデータを取得した後どうするかというと、やはりAIが入ってきて、それで、そのデータから何かを導くということにどうしてもなっていくからです。今、ChatGPTほかの生成AIの大学での扱いをどうするか議論が進んでいますが、ビジネスにも倫理的なものやモラル的なものがいずれ入ってくると思います。

おそらくDX検定もDXビジネス検定も話題は変化していくでしょう。検定は何回も受けられるので、評価から自分がどのレベルにいるのか定期的に見ていただいて、メンテナンスしていただく。そのように使っていただけると思っています。先ほど言った人数は延べ人数で、何回も受けられるリピート企業もあります。そのような固定層も新規もいるので、おかげさまで東洋経済の「【特集】食える資格と検定&副業100」(2023年4月29日・5月6日合併号)に掲載していただきました。大学業界でも、私に会うとDX検定について声をかけていただくことも増えて、だいぶ浸透してきたと感じています。

猪口 検定の内容自体も変化したり、見直されたりするということでしょうか。

西山 やはり作問のトレンドがありますよね。そこは富士さんが詳しいところです。

富士 通常の資格試験は基本的にはあまり問題が変わりません。しかしDX検定は、検定自体もDXを実践していきたいと思っています、すなわち最新の情報をつねに取り入れるというコンセプトを持っています。そのため他の資格試験のようには過去問が役に立ちません。DX検定は、作問側がつねに最新の問題をリサーチ、学習しているので、受ける側もトレンド含めてかなり勉強しなければなりません。そういう意味では日本で一番難しい検定かもしれません。

猪口 検定で認定されることが目的になってしまって、その先何をやるのかの話を企業が持っていないケースがありそうですが、その辺は大丈夫なのでしょうか。

富士 大事なのは「リテラシー(基礎的スキル)を上げること」と「竹のようにキャリアに節目をつけることです」です。検定で「プロフェッショナル認定」をされたからといって、仕事がいきなりプロフェッショナルになるわけではありません。しかしここまで「キーワード」を把握できれば、今まで分からなかった文章や会話が分かるようになります。例えば、テレビで生成AIについて見ていても、知らなければノイズでしかなかったものが、「生成AI」という言葉と意味を覚えた瞬間に自分の知識の入り口になる。リテラシーを入れ込むことによって自然発生的な学び(インフォーマルラーニング)が起きるわけです。さらにプラスして自分で勉強すればより精度の高い学びになります。

企業の事例ではDX検定を社員の多くが受けたことがきっかけとなって、組織全体のコミュニケーションレベルが一気に上がり、DXの議論が高まったと言われています。そういう意味では共通言語として全社で受けてほしいですね。特に新入社員は会社に入ったばかりの頃は言葉が分かりません。大学でDX検定を受検しておけば、おそらく先輩社員より言葉が分かるので、議事録は書けるし議論もできます。これは大きなアドバンテージでいきなり能力を発揮できるでしょう。

つまりDX検定は学んで終わりではなく、そこが次のキャリアへのスタートラインであるということです。関連の研修を受けるだけでは意外に身についているものは少ないかもしれません、また成果測定テストしても研修内の理解度把握に留まりがちです。そこでDXリテラシー学習という義務教育を終えたら、DX検定という卒業試験を受けて、合格(一定の目標基準)したら次の専門教育へ進む「節目」と考えていただくとわかりやすいかもしれません。
キャリアに「節目」ができることでデグレードを起こしにくくなりますし、基礎固めができていることで専門職になってからもより質の高いスキルアップが可能になると考えています。



西山 大学生の間にDX検定を取得することは非常に大事です。社会に出てから学ぶのでは遅い。大学の人間としては、高校までに勉強して取ってほしいですね。データサイエンスを基礎から始めるのではなく、前提としてDXの世界を知っている人が学んだほうが、教育効果が当然上がるわけです。

今年の秋に「DX博士ちゃんチャレンジ2024」という小学生を対象としたDX検定を実施します。早い内からやるのがとにかく大事で、やるとハマる子が必ず出ます。DXにハマる人を作っていかないと、大学に入ってから勉強するのでは遅い。そういう固定層の興味を持つ人を伸ばすような戦略を日本全体でやらないといけません。大学で教えていてそう思います。そのために今回の企画が役に立つのではないかと思っています。基盤能力は楽しく学ぶべきです。その意味では、「DX博士ちゃんチャレンジ2024」は1回で終わるのではなく、継続的に実施することに意味があると思っています。

猪口 人材開発をしながらいわゆるイノベーションの芽を出して、企業にも出していただく。さらに会員同士のつながりによってまた違う融合見る。そこまで、狙いとして持っているわけですね。

西山 先ほど、ビジネスのチームが頑張ってDX検定を作ったという話がありましたが、学会にしてみてみると、アカデミズムだけでなくてビジネスの方が一定数活躍していることがポイントだと思っています。そのような環境ができてきたので、われわれのようなアカデミーサイドの人間が、これからそれをどう使って、どう教育環境を変えていくかに腐心していく必要があります。

経験や活動に基づく知を国際的に共有する場「知のオリンピック」

猪口 今、学会の中でプロジェクトとして取り組まれているものや芽が出そうなものをご紹介いただけますか。

西山 研究は個別に進んでいます。私の研究室では、買い物難民のために「電車をスーパーにする実験」をしています。地方では、電車の車内はなかなか人が埋まりません。一方、駅の近くに住んでいる人は昔からいて、街道沿いの大きなスーパーに行けません。単線の駅は電車の待ち合わせがあるので、その停めている30〜40分の間に買い物してもらうのです。これはまさにイノベーションの融合です。電車という完成されたひとつのイノベーションと、スーパーを車内に入れるという新しいイノベーションを融合させる。それにより鉄道会社が儲かる素地があって、買い物難民も防げます。

また、今はバスの本数が減ってきて、バスの営業所が空いています。バスの営業所を儲ける手段にできないか、地域住民に貸し出す可能性があるのかといった研究もしています。営業所にいろいろな人が来ることで、地域のコミュニティーの発信の場、融合の場になり、そこに行く時にもバスを使ってもらえるわけです。都市の中には廃商店街など空きスペースが多いので、それをうまく使う。鉄道や車庫といった空間を上手に使って、地域イノベーションができないか研究しています。

富士 このような実践的な研究を行うことと、もう1つ大切な点として、DX、あるいはイノベーションの体系化の研究です。今、DXはとにかく始めてみようということで、多くの企業が推進していますが、技術の進歩が速すぎて、理論武装が甘くなっていることに課題があります。学会としてもイノベーション融合学のように体系立てた理論を作ることで、DX推進やイノベーション実現をアカデミックに学ぶことができます。学会で開催している「知のオリンピック」は、あらゆる知の結晶です。学会員がそれぞれ持っているスキル、リテラシー、知識といったものを統合して、オリンピックのように競技を作るのですが、単なるイベントとして開催するのではなく、アカデミックな面と実際のビジネスや現実社会の中で活かすという面の融合が、今後はさらに重要になってくると思います。

アカデミックな研究をビジネスに活かすだけでなく、アカデミックとビジネスの両方にうまくクロスオーバーしていくような仕掛けを知のオリンピックを中心に実績をあげられれば、日本イノベーション融合学会はさらに素晴らしいものになっていくと思います。

西山 知のオリンピックは日本イノベーション融合学会の特徴的な活動のひとつです。先代の高梨先生が「知の経営」というものをやっていて、知をどうマネジメントしていくか、伝えていくかという手法に興味があって始まりました。2023年に開催した知のオリンピックでは、「若者(学生・若手経営者)、世界(インド)、多様性(女性)」の3つをテーマに発表してもらいました。

猪口 ここで言う「知」とは、単なる知識やスキルを含め、まさに融合的なものなど深い意味が入っているのでしょうね。

西山 経験知や活動で得られる暗黙知といったことを高梨先生もおっしゃっていました。目に見える知だけではないのです。アカデミックだと目に見えるデータでないとだめだったりしますが、経験や活動に基づく知を国際的に共有する場がもっとあってもいい。そうした知を競い合い、頑張っているところに金賞を与えて、皆が真似するようになればいい。そのような考えを持っていらっしゃって、われわれはそれを忠実に、大事に守っています。

猪口 DXもそうですよね。けっきょくそれをどのように私たちの生活の中で知として応用していくかです。

西山 そこが大事です。目に見える技術だけではないのです。技術を活用するために、戦略や知恵などを持って、今までの活動に基づいてどうしていくかを考える。そのようなオープンな議論があって然るべきなのに、通常の学会だと、「こういう技術を作りましたからよろしくお願いします」で終わりです。われわれは経営学にも基づいてやっていますので、それとは一線を画しています。

猪口 まさに日本イノベーション融合学会のコンセプトとニアリーイコールですね。先日、導入事例として住友生命さんの取材記事を読みましたが、すごいですね。

西山 一見生命保険会社とDXは関係ないように見えますが、そうではないのです。お客さん側も、保険に関する情報や自分の状況を可視化していく時、お互いのためにDXが必要です。IT会社だけでなく、例えば政治系や交通系など、いろいろな分野でやっているということが必要です。いろいろな人に広げていって、「この世界観が日本に必要だ」というレベルにしていかないと遅れてしまいます。なぜなら共通語で喋れなくなってしまうからです。その土壌を作るために、あらゆる分野、業態にもっと早く広げていきたいですね。

猪口 DXを取り入れたことで「Vitality」というヒット商品にもつながっていますし、今後も新しいサービスの開発など、いろいろなことが可能性として見えてきます。

富士 これまでの亡くなった方の遺族を保障するという考え方をひっくり返して、元気な人を保障すべき、元気になることを支援すべきだという、今は当たり前でも当時はそうではなかったこの方向に一気に舵を切りました。これはものすごいイノベーションです。

西山 イノベーション融合学はまだ体系化されておらず、今は実践をしている状況ですが、これから理論が導き出されていくステージが来ると思います。そこは学会としても、ブランディングを含めて攻めていかないといけない部分です。10年目を迎えた今、知のオリンピックやDX検定、個別の研究を進めながら、「こういうことをやるともっと別のイノベーションが起きてくる」といった方法論やつなぐ時のポイントなど、そろそろそういう活動もしていかなければいけないかなと考えています。

猪口 記事にあった顧問のコメントに、「成長阻害の一番の原因である小さなプライドがAIにはない」とありましたが、これは真理ですね。小さなプライドでみんなだめになっていくのでしょうね。

富士 日本が遅れる理由はそこにあります。日本は大企業が何かやらないと話が進みませんが、アメリカはベンチャーがひっくり返します。その文化が今DXの差になっていると私は思っています。突き詰めて単純化すると、日本の中小企業はお金がないのでDXができていない。一方、外国のベンチャーは大企業をひっくり返してやろうとものすごいエネルギーをかけていて、その土壌から出てきたDXはやはり表現形として差が出ています。

私は、日本の中小企業、あるいはDXができていない大企業がもっとイノベーションを融合させようとして学会の門を叩くような流れを作りたいと考えています。そのためには知識体系を作らなければいけません。今は表現系ばかり追いかけていますが、実際は理論的な裏付けがあったうえで、融合学を学ぶことによっていろいろなソリューションできてくると思います。ソリューションの本質はここにあるのです。

猪口 残念なDXをひっくり返すために、今後、日本イノベーション融合学会は非常に重要になりますね。

西山 早いうちに育成すれば失敗しなくなるので、大学はそのような素養のある人材を送り込まないといけません。本来であれば高校なり大学で蓄積をして送り出すのが責任だと思っています。そこでわれわれの活動が一つの起点になってほしいですね。技術だけでなく、それをどう活用するか、戦略的にどう社会を変えていくのかという発想が大事です。だからこそ、変わっていくダイナミックな検定に意味があります。変化に対応し、長期的に見ることができる人材をDXで育てないと、日本は本当に遅れてしまいます。

猪口 変化するからサステナブルになるわけですよね。

富士 西山理事長がおっしゃる「高校で学んできてほしい」というのがひとつの答えだと思いました。例えば英語の基礎は高校までに学びますが、DXの基礎は大学に入ってから始まります。

西山 そこが問題です。私はマーケティングリサーチの統括をしているのですが、困るのはDXの素養がないことです。ビッグデータやAIを知っていればよりレベルが高いことできるのに、素養がないとどうしても低くなってしまいます。そんなことに時間をかけているのは大学として非常にもったいないことです。だからこそ早目に知っておいて、大学ではさらに高いことができる流れをDXの分野で作らないといけません。データサイエンスや統計を教えている立場から見て、これは明らかです。

富士 そういう意味では、「DX博士ちゃんチャレンジ2024」の取り組みは正しい流れですね。私は、単に早期育成が必要なのだと思っていました。会社でも若手から勉強させますし、シフトすることに意味があると思ったのです。そうではなくて、大学の授業が生きるか死ぬかの瀬戸際にあるわけですね。

西山 日本でも高校の科目に情報ができました。そこにDXの話も当然入っているのですが、大学業界は保守的なところがあって、入試科目として情報を入れると宣言したところが今回少ない。入試に出ないのであれば結局勉強しませんよ。早くから勉強をして、入試に情報が入るような流れを作るべきです。小学生から、できれば幼稚園からDXの世界を早めに教え込むことに腐心したいと思います。とにかく早くから始めてほしい。「DX博士ちゃんチャレンジ2024」をやる意味もそこにあります。大学を突き上げていかないといけません。

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