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【インサイトナウ編集長対談】「四方良し」のビジネスモデルで、空き家問題を解決し、持続的社会を目指す/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2024年7月18日 8時0分

【インサイトナウ編集長対談】「四方良し」のビジネスモデルで、空き家問題を解決し、持続的社会を目指す/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:大熊 重之様
一般社団法人 全国古家再生推進協議会理事

木造戸建て空き家をなんとかしたい

猪口 昨今、空き家が増えている中、全国古家再生推進協議会さんではどのようなサービスを提供されているのか。協議会をつくったきっかけから紹介していただけますか。


大熊 全国古家再生推進協議会が発足してちょうど10年近くになります。僕は製造業で部品塗装の工場を経営していました。2010年のリーマンショック後、建築業界の状況は悪く、私の工場も不景気に苦しんでいました。この苦況を打開するため、新規事業として、塗料を使ったローコストリノベーションという仕組みを思いついたことが、そもそものきっかけです。この仕組みを全国展開するため、自分たちでやるにも限度があるので、スクールをつくることにしました。当時は「箱モノから人へ」という政策によって建築工事の件数が減少していたので、職人たちの仕事になればいいという思いもありました。

ワンルームマンションのローコストリノベーションは20万円前後と安く済むので、たしかにお客さんの受けが良かったのですが、こちら側としてはそれほど収益が上がらないため数を取らなければなりません。戸建てであれば1件当たり1桁違ってきます。そのほうが職人にとってもいいですし、お客さんにも戸建ての賃貸を安く貸し出すことができると非常に喜んでもらえます。そこで戸建てにシフトして、スクールを戸建て向けに変えていきました。

マンションでやっていた時、問題だったのが営業です。100人弱ぐらいの方に受講してもらっても、営業ができなくて、実際に仕事の柱になるまではなかなか至らなかったのです。それではだめだということで、戸建てのスクールをつくる時に、お客さんも一緒に集めることにしました。戸建ての投資家を集めて工務店とマッチングしようと考えたわけです。それが協会の始まりです。

猪口 非常に魅力的なビジネスモデルである反面、賃料が付くような物件が本当に集まるのだろうかという疑問もあるかと思います。今は自治体も苦労している状況ですが、実際、いわゆる空き家や売却希望の家はどれだけ集まってくるのでしょうか。

大熊 築古民家の再生は、とんでもない高利回りという話ではなく、辺鄙な地方というわけでもなく、個人の特別なスキル、キャラクターが要るものでもありません。総務省の「住宅・土地統計調査」の速報値によると2023年の日本の空き家数は約900万戸です。協議会では、この空き家の中でも最も多い木造戸建てを何とかしたいと考えています。



総務省 「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」より


空き家率は圧倒的に地方都市が高いが、空き家数だと分母が多い三大都市圏のほうが多くなる。つまり、どこでも空き家になり得るということです。ところが貸家の供給を見ると、賃貸の戸建てはほとんどありません。一方、低家賃で戸建てに入りたいという需要は変わらずあって、働き方改革やコロナ禍を経て余計に増えてきています。戸建ての供給よりも戸建ての賃貸需要のほうが多いわけです。マンション100につき戸建てが3つ、4つあればいいところでしょう。しかも、綺麗になっている戸建てとなるとさらに少なくなります。中途半端に修理して貸し出されることも多く、需要に合わせてしっかりとリフォームしている物件が少ない。ですから、われわれの物件に入居者が付いて、成長マーケットになってくるわけです。

猪口 なるほど。他の自治体がやられているような空き家のマッチングサービスとは全く別物ですね。

大熊 空き家バンクなどは、需要と供給のニーズが合っていません。空き家バンクには山奥の一軒家が多く、それを何とかしてくれというような話です。われわれはそうではなく、マーケットがあるところでしかやりません。あくまで家賃相場から逆算して、価格に見合うところでしかやっていない。

猪口 そもそも目を付けている市場が違うということですね。

大熊 都市中心部は土地値も高いし家賃も高い。一方、郊外にいけばいくほど土地値は3分の1、4分の1、5分の1になる。ところが、家賃は1割、2割、3割しか落ちません。これはどの地方でも一緒です。そうすると、土地値は安いが家賃がそこそこ取れるゾーンが必ず出てきます。需要がないゾーンにいってはだめなのです。

猪口 その線引きはどこでするのですか。人口密度あるいは学校の有無など、何かポイントがあるのでしょうか。

大熊 要は家賃がつくかどうかです。戸建てには統計的なデータがほぼありません。ある賃貸不動産サイトの担当者に聞いたのですが、そのサイトの膨大なデータはすべてマンションのもので、基本的に賃貸としての戸建てのデータはほとんどないそうです。だから実際には分からない。われわれは現場に行って、物件を見て、不動産屋を回って、さまざまな調査を行っています。2,000件を超える実績があり、そのノウハウも入れながら、ここならいけるだろうと判断しているわけです。

猪口 それほど戸建て賃貸自体のマーケットが少ないということですね。

大熊 しかも戸建て賃貸の場合、例えば6万円ぐらいの賃貸物件があるとして、それをリフォームすれば、家賃を上げないと工事額と合わなくなります。しかし家賃が8〜10万円くらいになると、いわゆる購入ゾーンに入ってしまう。それならローンを組んだらいいや、という話になりますよね。

われわれが一番のターゲットにしているのは生活保護の家賃帯より少し上の層です。その層だとローンを組めない方が多く、賃貸に入って長く住んでくれますし、ボリュームゾーンでもあります。また、そういった方々がアパートやマンションだけでなくて戸建てにも入れるようになれば、供給する側として社会貢献にもなります。

猪口 言われて初めて気づきましたが、まさにそこはボリュームゾーンですし、空き家の問題を解決しようと思ったらそこにいくしかありませんね。

大熊 空き家投資をする上で一番のポイントになるのが工務店です。いくら家を安く買ったところで、高額な工事費がかかったら収益として合いません。つまり、事前にいくら工事にかかるか分からない限り、戸建てに投資できないということです。一番いいのは工務店が物件を見に行くことです。工務店が物件を見に行って、家賃と工事額を見積もって、物件をいくらで買えば合うのかが分かれば一番手っ取り早いですよね。普通の投資家が見に行っても工事額が分からないので、工務店を連れて来るか、あるいは思い切って入れるしかありません。われわれは、工務店が物件を探しに行って事前にシミュレーションをしたものを投資家にマッチングさせています。

われわれの工事費の平均は350万円ですが、戸建てのリフォームをしようと思えばすぐに500〜600万円くらいいきますし、小さな10坪くらいの家で1,000万円を超えることも珍しくありません。やろうと思えばそこまでできてしまうのです。やり過ぎたら収益が合わない。やらなかったら入居者が決まらない。ここの一番良い加減を出さないといけないので、ノウハウが必要です。

協議会では、賃貸住宅あるいは不動産投資、工事の仕方、家賃相場など、そういったものを全部ノウハウとして工務店に提供します。これで工務店は物件を探すことができるようになり、事前にシミュレーションができて、工事にどれくらいかかるか分かって、投資家はその工務店にそのまま頼むことができるわけです。その代わり、値引きや相見積もりをしないことをルールにします。そうすると工務店は探してきた分の工事が全部自分のところにきます。しかも直のお客様ですから規模的に十分な収益が得られる。さらに、投資がうまくいけばお客さんに非常に喜んでもらえます。それでWin-Winをつくっているのです。

猪口 古家再生で誰もが救われるのですね。

大熊 われわれが最も大事にしているのが「四方良し」です。入居者は、低家賃で戸建てに住むことができ、住宅の選択肢が増えます。サラリーマン(投資家)は、会社に依存することなく収益を得られます。工務店(古家再生士)は、売上を安定的に得られます。そして地域は、空き家がなくなることで防犯上の安心を得られます。

猪口 まさに四方良しです。その活動に、国も評価しました。

大熊 国土交通省が創設している「地域価値を共創する不動産業アワード」の第1回で「担い手育成部門 優秀賞」を受賞しました。

専門家の育成、ビジネスマッチング、コミュニティの運営


猪口 具体的な仕組みを教えていただけますか。

大熊 まず、「古家再生士®養成講座」として、工務店・職人に賃貸リフォームの知識と賃貸不動産の知識、戸建て特有のノウハウを提供しています。

猪口 最初に始められたスクールのノウハウがそこに詰まっているわけですね。

大熊 そうです。一方で、サラリーマン(オーナー)も投資の仕方が分からないので、同じような知識を得てもらって、経済的自立をして、会社に依存しないかたちをつくってもらいます。こちらは投資家なので、「古家再生投資プランナー®認定オンライン講座」を用意しています。

どちらの講座も大事にしていることは「リアル」です。今どきは物件をネットで見て投資をすることも多くなりました。ただやはり現物投資ですから、物件を見る目がとても大事なのです。これを養ってもらうために、われわれは「古家再生完成内覧会」や「空き家・古家の見学ツアー」を開催しています。

「空き家・古家の見学ツアー」では、古い家を2、3軒見に行き、そこで古家再生士が見るべきポイントや注意点、近隣の競合や家賃収入について解説をしながら、投資のシミュレーションを行います。このツアーには投資家も一緒に参加するので、同じような目的の人が同じ家を見ることによって、自分の気づかないところに相手が気づいていることが分かりますし、先輩大家さんの体験談も教えてもらうこともできます。

この現場でのノウハウの共有が非常に大事です。古家再生の専門家と投資の専門家が同じ知識を学んでいくことで、オーナーと建築の垣根がない関係(共通言語が通じる関係)を創出できます。

猪口 投資家が競合する場合は調整が入るのでしょうか。

大熊 その場合はジャンケンかくじ引きで決めます。ここにはこだわっています。きちんとシミュレーションしたものなので、それ以上でもそれ以下でもだめだということです。

猪口 そこはポイントですね。マーケットの健全性や市場価格の適正化を考慮してのご判断でしょうか。普通の不動産会社とは全然違いますね。

大熊 これは根底の仕事自体を守るということでもあります。けっきょく物件を高く買えば、工事額を安くてよいと言った話になります。工事業はキッチリをした工事が出来ず中途半端な物件になります。結果的には入居が決まらないかあとからクレームになる物件になります。工事会社もやりがいや収益が落ちてきます。になるんです。そうなると、工事屋もいいですよと言いながら手を抜くようになる。それではだめなので。

猪口 そこは協議会のノウハウの詰まったところですね。

大熊 物件の買い付けから入居付けまで古家再生士がフォローし、それ以外にも相談員が付いて第三者の立ち位置でフォローします。投資家と工事会社でいくら意思疎通ができていても、やはり利益が相反するところがあるものなので、そこを相談員が調整するのでそれ以外にも相談員は、契約書や重説などを確認したり、不動産屋さんとのやりとりの方法や入居付けもアドバイスします。

毎月の物件ツアーや内覧会の他にも、セミナー、勉強会、懇親会といったコミュニティがあり、投資家が情報交換をすることができます。一方、再生士は毎月のエリア会議、年に1回の全国大会で情報をシェア。物件にどのような問題があって、どのような解決方法を取ったかを共有し、切磋琢磨しています。また、災害などの協力体制もできています。能登半島地震でも、近隣の再生士が協力し合って対応をしました。

こうした活動の結果、現在(2024年4月)、協議会の無料会員数は1万5,064名、古家再生投資プランナーの認定者が1,221名、古家再生士の認定者が32名になりました。2024年4月現在、築40年以上の戸建ての再生数は2,099棟に上り、平均家賃は64,207円、平均利回りが13.1%。低家賃かつ利回りがけっこう高くなっているのが特徴です。2022年末のデータでは、物件購入額と物件工事費合わせた額である市場創出額が44.59億円、1戸当たりの平均が543万1,535円でした。これはわれわれの経済効果として考えることができます。1年で15〜16億円ぐらいの動きがあるため、おそらく現在は60億円、1戸当たりの平均は600万円を超えていると予想されます。

自分のステージに合わせてコツコツ増やしていく

猪口 今、物件、再生士、投資プランナーの3つの目標をお聞きしましたが、バランス的に特に強化したい部分はありますか。

大熊 今はバランスに問題はありません。ただ、まだ開拓できていない地方があるので、そこにどうやって広げていけるかが課題です。

猪口 ある程度のマーケット性を考えると、都市の郊外ぐらいがいいような印象を受けるのですが。

大熊 われわれの活動も貢献していると自負しているのですが、今、空き家投資の認知度が高くなってきて、投資する方が増えています。しかし、これは儲かるぞと入ってきても、都市や都市周辺部はそういう意味では利回りが落ちてきていますし、物件数も少なくなっています。

猪口 通常の不動産投資と一緒でキャップレート (投資家が期待する利回り) 的には下がるわけですね。

大熊 そこはやはり市場原理で動いていきますので。そのため、利回りを狙って物件を増やすとなると、地方のほうが有利になってきます。地方にはまだまだ知らないエリアがたくさんあります。それに、昔からの街の中心部で駅に近いところに空き家があっても、地元の方はあまりその良さが分からない。先ほどご紹介した事例の金沢の金石でも、地元の人には「 あの辺りに住む人いてないですよ」と言われました。ところがいざやってみると、「戸建て住めるのであれば」古い建物の方が味があるとそういった 方々がいるわけです。そういったエリアをどれだけ探していくかがわれわれの宿題です。

猪口 かつてとは常識が変わってきていますから、そういう意味ではいろいろなところにチャンスがあるかもしれませんね。

大熊 そうですね。本来であれば地元の人に古家を買ってもらって再生してもらうのが一番なのですが、今のところはそこまでいっていなくて、都市部の投資家が地方に投資することが多いですね。ただ、それを起爆剤に地域再生をしていくのが順序としてはいいと思っています。これからも協議会から投資家を地方に送っていきたいです。

猪口 投資家には一般サラリーマンの方が多いのでしょうか。いわゆるプロの投資家はいかがですか。

大熊 不動産に慣れている方はいますが少ないですね。われわれが行ったアンケートによると、投資をしている方は40代、50代が多い。これは、戸建て投資は融資がしにくくキャッシュが必要になるためだと思われます。投資目的としては「老後の資金づくり」と「収入源の分散」が多く、「投資スタイルは高利回り・リスク許容型」と「低利回り・リスク回避型」が多くなりました。いずれも継続的収益を重視していることから、コツコツ型の方が多いようです。

協議会に興味を持っていただいたきっかけとしては、物件ツアーが最も多い回答になりました。他にも「他の不動産と比較して小さい費用で始められること」があります。一般の不動産投資に対する印象では「投資額が高額になる」という回答が多かったので、面白いことに逆の結果となっています。また、「買ってはいけない戸建ての目利きがリアルで学べる」「様々なエリアで物件ツアーに参加できる仕組み」「古家の専門家(古家再生士)を紹介してもらえる仕組み」等の回答も多かったことから、われわれが目指す協議会の機能がきちんと果たされていることが分かりました。

協議会に対する印象では「地域社会に貢献できそう」という回答が6割近くと最も多くなりました。株投資でこんなことを言う人はなかなかいないと思います。胡散臭い不動産会社も多いですが、われわれの仕組みは明瞭なので信頼いただけています。

猪口 地域貢献や小さなところを応援していきたい、そういった方々が多いということですね。

大熊 そうですね。投資額が1戸当たりの平均が600万円ですから、自分のステージに合わせて1軒、2軒、3軒とコツコツ増やしていくような方が多いですね。一方で、一番多い方では40軒を超える方もいて、そのような方はエリアを分散しています。年収は600〜1,000万円の方が多く、2,000万円以上の方も約10%いらっしゃいます。職業は公務員も含めたサラリーマンが約60%で、それ以外は経営者と役員、自営業者で約30〜40%です。

猪口 いろいろ勉強させていただいて、講座を受けてみたくなりました。

大熊 物件ツアーはとても楽しいのでぜひご参加ください。僕は、不動産をエンターテインメント化したいと思っています。不動産を見に行くのは楽しいことなのに、知識がないとどこを見たらいいか分からないし、どんな話をしたらいいのかも分かりません。そこをきちんと解説して、周りの人間もいろいろな話をしてくれるので、めちゃくちゃ楽しいですよ。

猪口 地域理解にも繋がりますね。自分の家や会社近辺のことは分かっても、少し離れてしまうとまったく分かりません。ツアーをきっかけに、ここにはこういうものがあって、誰が住んでいるかが分かって、そこに少しでも貢献できたらと思うと楽しいですよね。

大熊 特に都会の方が地方に行って投資するのは非常にハードルが高いですが、この仕組みの中でやればある程度システム化されていますし、専門家も解説してくれるし、同じような仲間と一緒に参加できるので、ハードルが大きく下がって地方への投資がしやすくなります。

猪口 本当に素晴らしい取り組みですね。本日はありがとうございました。


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