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トランプ復権は東アジア危機を招く/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2024年7月24日 7時7分

トランプ復権は東アジア危機を招く/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

さる6月の公開討論会での精彩の無さから沸き起こった民主党内からの撤退勧告の声に押され、バイデン大統領が次期大統領選挙からの撤退を宣言するに至った。一方、トランプ前大統領(以下、トランプ)陣営を見ると、7月13日に発生した暗殺未遂事件を経て共和党内の団結ムードはかつてないほど高まっている。

こんな流れが続いた結果、今ではトランプが次期米国大統領に復帰する可能性が大きいと公言されている。

日本の政治評論家や識者からは「もしトラ(もしトランプが大統領に復帰したら)」シナリオについては、「米国の支援が打ち切られる恐れが高まりウクライナが不利な停戦に追い込まれる」「民主国間の国際協調体制が一挙に弱体化する」「日本政府はトランプから一方的に不利な条件を押し付けられかねない」等々の懸念が以前から指摘されている。

しかし本当に深刻な「あるリスク」についてはあまり深く指摘も議論もされていないように見える。それは何か。ずばり、中国による台湾制圧の蓋然性が一挙に高まることだ。これは日本や米国の視点ではなく、中国の視点で「トランプ再選」の意味を考えることではっきりと見えてくる。

中国という独裁国家の施策や行動の大原則は「共産党支配の継続」である。人民が数十~数百万人死のうが苦しもうが関係ない。その次のレベルである「習近平政権にとっての最重点課題」は間違いなく「祖国統一」、つまり台湾の併合である。

なぜなら福建省長や浙江省幹部だった習近平がその後急速に台頭したのは、「彼こそが祖国統一を成し遂げる人物だ」と目されたことが大きな要因であり、彼の言動を追うと根幹には「自分が」という自負と使命感があると考えるのが自然だ。

とりわけ、異例の第3期に入りながらこれといった実績を上げる目途が立っていない習近平政権にとって、次の第4期につなげるためには何が何でも台湾併合を実現するか、少なくともその目途を付けない訳にはいかないという事情を忘れてはならない。

ここで彼我の認識ギャップを確認しておこう。日本や西洋諸国からすると台湾は実質的に独立した民主国であり、住民の意思を踏みにじって強引に併合することは言語道断の行いだ。しかし中国共産党の視点では、台湾は「敗走した敵勢力とその子孫に不法に占領されたままの土地」だ。取り返すのが中国側の正義なのだ。

もちろん、平和裏に祖国統一できるのが理想だ。しかし今年の台湾総選挙で示された台湾住民の意思は中国への明確な拒絶だった。こうなると中国政府としては武力による台湾併合しか有力な選択肢はない。

たとえそれによって米国をはじめとする世界の民主主義勢力から大いなる批判と経済的制裁を受けようと、自分たちの正義を貫くのが大国・中国の「筋の通し方」なのである。

この点、「ABCD包囲網なにするものぞ」と息巻いていた戦前の大日本帝国と似ているが、なにせ今の中国はいざとなれば西側諸国と断交しても十分にやっていけるだけの国力が備わっている点が大いに違っている。

さて前提を長々と書いたが、武力による台湾併合を実施するしかないと思い定めている習近平政権にとって、実行への阻害要因は明らかに米軍(およびそれと連携して共同作戦を執るであろう日本の自衛隊)による軍事的妨害であり、それを指揮する米国政府だ。

そして習近平政権にとってこの先10~20年を見越したとき、自分たちが最も優位に台湾侵攻・併合を成し遂げるとしたら、その対峙する米国の指導者は誰がベストだろう。

もうお分かりだろう。そう、トランプが米大統領である時が中国・習近平政権にとって悲願を実行するベストのタイミングなのだ。

他の大統領だったら、西側の盟主としての中長期的世界戦略を考えると、やすやすと台湾を中国に引き渡す訳にはいかない。米軍ができることは何でもするだろう。そして日本の自衛隊と共に、島内で抵抗する台湾軍人たちと連動して中国軍を追い払うため全力を尽くすだろう。

しかしトランプなら違う。彼の頭の中に「米国の中長期的世界戦略」などという概念は元々ないし、新たに植え付けられもしないことは、1期目で見せた「アメリカ・ファースト」志向と「各局面で同盟国相手にディール(取引)を行おうとする言動」で明白だ。

仮に中国が電光石火の早業で台湾を取り囲んで、首都・台北をはじめとする島内の主要な部分を制圧してしまえば、トランプは「ソーリー、遅すぎた。もう今さら無理だ。こんな状況でアメリカの青年の命を無駄に散らせる訳にはいかない」と台湾の救助をあっさりと断念する可能性が十分ある。そうなれば日本の自衛隊も動けない。中国政府はそう分析しているだろう。

そしてトランプが政権を担っている4年間で、最もこのシナリオが成立しやすいタイミングは3つある。それは①トランプが大統領に再び就任する直前・直後、②トランプが退任する直前、③高齢のトランプが病気に倒れて満足に職務を執行できない事態になった時、の3つだ。

要は、「大統領-国防長官(国防総省トップ)-併合参謀本部議長-アメリカ5軍の各長」という指揮系統ラインがまだ確立していないか、または混乱し得る時機を狙うだろう。

とりわけ①の大統領就任直前・直後が中国にとって最も狙い目だ。

なぜなら②は、次が同じ共和党の大統領だったら併合参謀本部以下には大きな変更がなされず、大した混乱を引き起こせない可能性があるからだ。さらに習近平政権としては①なら3期目のうちに事を起こせるが、②だと既に4期目に入ってしまうのだ。そして③は、実際にその時機がトランプの4年の任期の間に訪れるかどうか分からない上に、国防長官以下の指揮系統は健在だからだ。

つまりトランプ復権のタイミングは中国・習近平政権の台湾武力侵攻・制圧作戦にとって千載一遇のチャンスなのだ。やるかやらないかではなく、やる前提で「いつ、どうやるか」だけに集中すれば答は明らかだ。

もし上記の懸念通り、中国がトランプ政権を好機と捉え、いずれかのタイミングで台湾制圧に果敢に挑み、台湾併合に成功したとしたら、その後には日本にとって恐怖のシナリオが待っている。

祖国統一に自信を深めた習近平政権が次に狙うのは間違いなく(日中両国が主権を主張している)尖閣諸島(=中国名・釣魚島など)だ。もちろん、台湾が制圧された時点で日本の自衛隊は最大級の警戒態勢に入り、尖閣諸島の周辺を固めるに違いない(残念ながら米海軍は直接には乗り出さないだろう)。

しかし中国の海空軍も大量の軍船と軍用機を動員して、覆いかぶさるように海上自衛隊に圧力をかけ続けるだろう。以前なら台湾~沖縄諸島~日本列島と続くラインが中国に対し「蓋をする」状態だったために困難だったはずの中国軍隊の矢継ぎ早のプッシュ入れ替え配置が、台湾が中国側に渡ることで随分と容易になってしまうのだ。

このにらみ合いが何年も続くに違いない。より近い台湾からの軍隊派遣が自由にできるようになった中国軍と、沖縄の米軍基地を「間借り」することになる自衛隊との対峙は、長い目で見れば前者優位に傾く。

このような持久戦に疲弊した日本側が一瞬でも隙を見せれば、再び電光石火のごとく中国軍は尖閣諸島周辺の海域を制圧するだろう。そして次は沖縄だという脅しをかけ続けてくることになる(*)。
* なお、実際に中国軍が沖縄に侵攻するとは小生は考えていない。そうなれば米国が本気で反撃して本格的な戦争になるので、中国は脅すだけで済ますはずだ。それでも尖閣諸島の奪還に日本が動くのを阻止するには十分だ。

こうなれば完全に日中両国は「準戦争状態」に突入する。当然、日本にとって中国という巨大マーケットは消滅するし、現地資産も諸権利も一挙に失う。国力に劣る日本が最大級の警戒態勢をいつまで続けられるのか、甚だ心許なくなってくる。

しかも台湾から尖閣諸島にかけての海域を制圧した中国は、いつでもどれだけでも自由に西太平洋に大艦隊を展開することができる。もう台湾~日本という「中国を閉じ込める忌々しい蓋」の南半分は取り払われているからだ。

そうなると米国のアジア戦略はほぼ崩壊する。代わりに東南アジアから東アジアにかけて、そしてさらに西太平洋にかけて、「中国の夢」を追求する中国の野望が現実味を帯びてくる…。

ちなみに、以上の悪夢のシナリオの発端にならんとするトランプ再選を阻止するために日本政府にできることはほとんど何もない。

一般の日本人には?もしあなたに米国人の友人・知人がいて彼らが無党派だったら(共和党派も民主党派も、もう投票先は決まっているので無意味だ)、上記の事情を伝えて「君の一票が東アジアを救うかも知れない」と泣きついて欲しい。

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