体操女子団代表問題は第二幕へ? 噛み合わない処分擁護派、批判派の論争/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2024年7月27日 8時57分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・オリンピック代表という「夢」
アスリートにとってオリンピック出場と言えば、その競技の頂点を競う立場になった証明でもあります。人生を賭けて挑戦しても叶わない人がいくらでもいる、正に「夢」でしょう。代表処分という苛烈な裁断に反対な人は、「アスリートの夢を、喫煙ごときで断って良いのか」という、犯した罪と処分の重さがバランスしていないという点を上げるものが多いようです。
さらには「自分だって若いころはヤンチャしてたし、タバコなんざ中学時代から吸ってたよ」系、昔悪かった俺自慢も加わえた、タバコぐらいで夢を奪うなという論理がよく見受けられます。喫煙自体を擁護はしないまでも、今回処分の重さはおかしい。謹慎などもう少し軽い処罰で十分だという主張です。
一方、処分されることに肯定的な意見は、「ダメなものはダメ。そもそも法律違反(である喫煙・飲酒)など認められない」という正に正論です。処分に批判的な意見ですらも、喫煙しても問題ないというものは無く、誰もこの正論を否定することはできません。
しかしながら、世間ではやたらと正論を振りかざす「正論バカ」などと呼ばれる人や行為には、批判的トーンがつきまとっています。杓子定規に正義や正論を振りかざす行為も、そんなに褒められるものではないのではという空気感は存在します。
賛否激しく分かれる「論争」になるのもむべなるかな。
・誰が擁護し、批判しているのか
「アスリートの夢を奪うな」、「喫煙くらいたいしたことない」という処分批判派の多くは芸能人、政治家、一部アスリートから発信されています。あえて意地悪なくくりをつけるとしたら、いわゆる上級国民に属する人が多いのではないでしょうか。
特に昭和の時代に青年期を過ごしたであろう男性有名人中心に、喫煙なんてたいした罪ではない、代表をやめるのは重すぎるという意見が多く見られ、ついでに「俺なんざもっと子どもの頃からタバコ吸ってたよ」という、昔の悪自慢も入った意見を多数見ました。また、失敗は誰にもあるので、再チャレンジの機会を与えるべきという、厳罰すぎる措置への反対もあります。
こうしたネットニュースやXなどでの発言には、一般人からは、ダメなものはダメ、法律違反という指摘だけでなく、「ただの高校生ですら、タバコが見つかって退学処分くらったりするのに、オリンピック代表という特別な重責を担う者を一般人扱いするのはおかしい」という、立場の違いに切り込んだものもあります。
・「昭和あるある」はもはやクイズねた
「昭和では電車の(ボックス)席には灰皿が常備されていた」「飛行機の中でも喫煙席があった」というような話題がクイズねたになるくらい、現在の価値観からは考えられないくらい、タバコは社会で大きく認められていました。
さらに当時は「運動中は水飲み禁止」「うさぎ飛びで足腰を鍛錬」「教師の暴力は愛のムチ」といった行為は、広く受け入れられていた時代でした。
これってハラスメントと似ていませんか?
ハラスメント講習で私は、特に社長や取締役など、経営基幹職の方を「ハラスメント高リスク者」とお呼びしています。企業トップに代表される強い権力や発言権を持つ人は、そうでない人と比べてハラスメントをしてしまうリスクが高いのです。
そしてそういった高位職の方は部下にハッパをかけたつもりで、激励の気持ちから、成長を促そうとハラスメントをしてしまうことが多いのです。有名人で本件に関する意見発信をしている人に、一定の年齢層で特に男性が多いと感じるのは、正にこの高リスク者とプロフィールが一致します。いわゆる上級国民として、功成り名を遂げた人が意見発信者の多くを占めます。
・危機対応の視点での結論は一択
その後の報道で、元代表選手は飲酒もしていた、さらに今回初めて喫煙が見つかったのではなく、これまでも問題行動があったのではないか、通報という内部からの声が上がったなどということが伝えられています。そうなると「たった一回だけ、ついタバコを吸ってしまった」だけで代表を降りなければならなくなった、という判断根拠は崩れるのではないでしょうか。
私は人事管理や組織管理に携わる専門家のハシクレとして、処分とは責任に比例するという原則を支持します。オリンピック代表選手とは、国を挙げて支援を受け、原資は税金で構成される資金援助、さまざまなサポートを受ける立場。ただの一般高校生とは責任が全く違います。もう一つ、今スポーツ界ではドーピング違反が厳格に問われます。カゼ薬を飲んだことでドーピングを疑われることすらあり得ます。そこまで厳しく監視される立場。
その立場に見合う責任はとてつもなく重く、それは年齢が十代だからで許されるものなのかと思ってしまいます。十代だろうと何歳だろうと、飛び抜けた能力があれば国の代表に成れ、世界の頂点に立つ可能性があります。この重責を考えれば、厳格な処分は危機に備える上ではやむを得ないといえるのではないでしょうか。
成人は18歳になったのだから、喫煙や飲酒も18歳で認めろ的な意見は本件とは全く切り離すべきです。事件が起こってから泥縄式に判断への疑義を唱えるのは何の解決にもなりません。本件とは全く別に、成人年齢が18歳であることは議論しなければなりません。
処分擁護か反対か、この論争は年齢や価値観をめぐる世代間闘争であり、事情が詳しく伝えられるにつれ、第二幕に進むというよりは、価値基準をアップデートした方がより多くの賛同を得るようになっているのではと思います。
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