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【インサイトナウ編集長対談】「受容、共感、ねぎらい」を3本柱に、子育てお母さんが元気になる社会に!/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! / 2024年11月19日 13時22分

【インサイトナウ編集長対談】「受容、共感、ねぎらい」を3本柱に、子育てお母さんが元気になる社会に!/INSIGHT NOW! 編集部

INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

お相手:小谷野公代様
NPO法人 日本子育てアドバイザー協会
https://kosodate.gr.jp/

お母さんの話を聞いてあげる

猪口 子育てアドバイザー協会の設立の経緯を教えていただけますか。

小谷野 1998年に任意団体「子育てアドバイザーネットワーク」としてスタートし、2002年に法人格を取得しました。4人で立ち上げた任意団体で、私はその1人でした。私自身は1982年からベビーシッター会社を経営しています。ベビーシッターは家庭に入ってお子様をお預かりする、とても信頼される仕事です。時代とともに、お母さんたちの不安感ややるせなさ、孤独感が強くなってきました。今でこそ子育ては大変だと言われていますが、当時は違って、上手くやって当たり前だと考えられていました。ですから、ベビーシッターさんに子育ての相談をするということは、シッターさんにとっては思いもよらなかったわけです。お母さんたちの気持ちを受け止めて、ただ聞いているだけでいいのか、それとも「こうしたほうがいいですよ、こうしましょうね」と言ったほうがいいのか、シッターさんたちは本当に困っていました。仕事が終わって帰るシッターさんを呼び止めて、1時間も2時間も話を聞くことになってしまう。そのような相談が、苦情のようにシッターさんからきていました。

当時、ベビーシッターという名前も知られてなく、その役割も何をしてくれる人なのかわからない時代でした。そこでベビーシッターの信頼を得るために教育機関として、ベビーチュータープロ養成講座を開講していましたので、講師の先生たちに、お母さんたちが今大変な思いをしていることを相談しました。また、世間を賑わした小学校お受験の競争で悩んだお母さんが子どもの同級生をあやめてしまうという悲惨な事件が起き、大きな衝撃を受けたこともあって、一企業であるキンダーネットワークではなく、もっと社会的な位置づけの視点で親を支援する組織をつくるため、小児科の医師、家庭裁判所の調停員、私立幼稚園の園長、そして在宅保育ベビーシッター会社代表である私の4人で、米国のNPO団体の情報を取り入れ、NPO法人日本子育てアドバイザー協会を2002年に設立しました。

猪口 当時、子どもを育てる支援はあっても、お母さんを支援する親側への目線は少なかったのですね。

小谷野 そうなんです。子育て支援は、保育園を沢山つくり待機児童対策など盛んな時でした。そんな時「子育ては社会全体で」「孤立させない子育て」をと、「子育て支援は親支援」という協会の理念を掲げました。健全な子どもの成長には、親が安心して子育てできる環境づくりが優先ではないかと考えました。実際に子育てをするのは親御さんです。専門家の先生が正しい子育てとは、または、叱らない子育て、と言ったところで、お母さんの気持ちがバタバタしていたら何も伝わりません。お子さんが言うことを聞かないでイライラするという相談に、子育てアドバイザーは、「どうしてそうなったの?」「お子さんに対してどういう気持ちなの?」など、原因を追及するようなことは一切しません。お母さんが話しやすいことを自分から話してもらいます。お母さん自分自身が小さい時のことを思い出して「実は、私の親がこういうふうに育てたんですね」「私も同じことをしていました」と気づくまで、じっと話を聴いて待っています。お母さんは答えを自分で持っているんですね。でも、聴いてくれる人がいなければそれは出てきません。話を聴いてあげることでいろいろなことが分かってきて、お母さん自身が解決していきます。私たちはアドバイザーですが、主な役割は傾聴です。そして指示的なこと、指導的なことは一切しないのが私たちの鉄則です。

「人材育成事業」と「相談事業」が協会の2本柱

猪口 今でこそ子育ての相談窓口は多くなりましたが、たかだか20年前は、子どもを産み育てることは誰しも自然に当たり前にやってきて、疑いもしませんでした。家庭に入ったら黙って子育てしなさいという価値観がありましたね。当時も仕事をされているお母さんが多かったのですか。

小谷野 当時1980~1990年頃の母親の就業率は51%、49%が専業主婦でした。仕事をずっと持っていて、いったん辞めた方が家庭に入るとジレンマを感じてしまうようです。仕事では、非常に有能で、自分の存在意義、価値を認められてきた人たちです。その人たちが家庭の中に入ると、子育ての有能さを誰も認めてくれない、褒めてくれない、誰もねぎらってくれない、その成果に対価はない。価値観が全然違うわけです。自分を無にして、子どもに合わせて、旦那様との生活に合わせて、修行僧のように生活するのは、いったん外を見た方には特に苦痛に感じるのだと思います。

現在2023年母親の就業率は77.8%(厚生労働省)になっています。

猪口 話す相手すらいないという状況だったのですね。

小谷野 そうですね。思いを話すだけ、聴いてくれるだけでいいと言われました。存分に話してもらい、じっくり耳を傾けるのがアドバイザーの役割です。

私たちの話の聴き方の基本メソッドは、受容、共感、ねぎらいの3本柱にしました。「受容」は、お母さんが話したことをそのありのままを受け止めます。「共感」は、お母さんの気持ちを理解します。「ねぎらい」は、褒めるのでもなく励ますのでもなく、妊娠期から今までお母さんが子どものためにしてきたことの、努力を認めます。努力してきたことをすっ飛ばして、「そんなことは親だから当たり前でしょ」と言われるかもしれません。もちろんそうです。

でもね、「お母さん、よくやってこられましたね。こんなに我慢しながら一生懸命頑張ってきましたね」という一言で、気持ちが軽くなるのです。その一言で目を潤ませ、肩を震わせ、泣いてしまうお母さんを何人も見てきました。

イオンさんの赤ちゃん休憩室でアドバイザーに会えます。現場視察に行った時、お母さんたちが明るい晴れ晴れとした顔で帰っていくのを見て、「これでいいんだ」とストンと腑に落ちました。私たちのやっていることはとても地味な活動ですが、世の中に必要とされていると実感したのです。

「育児相談」があるイオンさんが新しくオープンした時、新聞のチラシを握りしめて、「アドバイザーさんはどこですか?」と駆け込んできたお母さんがいました。アドバイザーに辿り着いたその方から、「良かった、大人と話せる」と言われて、とても驚きました。その方に「やっと会えた」と言われたときの迫力は今でも忘れられません。相談する相手は夫でもない、実家の親でもない、近所の知り合いでもない、仲の良いママ友でもない人を欲しかったのです。人に話すのは心配です、どこかで話が漏れるかしれないので怖いわけです。

買物をしているお母さんが、赤ちゃん休憩室でアドバイザーに子育てのことを相談できる。そういうことを話せる人がいれば、悩み事は次々と出てきます。お母さんは話す相手を見て、小児科の先生にはここまで話す、幼稚園の園長先生にはここまで、近所の人にはここまでというように、どこまで話せばいいのか仕分けをしています。アドバイザーは斜めの関係なので、全然知らない人であっても、受け止めてもらえて、気持ちを共感してくれて、同じように感じてくれます。そして、「よくやっていますね」「頑張ってこられましたね」という一言が、明日の子育ての励みになっていっているのです。

猪口 現在、協会では具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

小谷野 NPO法人の主な活動は2本柱になっています。ひとつは「人をつくる」で、良いアドバイザーを世に輩出することが私たちの使命です。二つ目は「相談事業」で、活動の場を増やしていくことです。社会に出て働いたことがなくても、子育てをしてきて、何か世の中の役に立ちたいという人にこの認定はとても喜ばれています。資格は何もなくても、志、気持ちがある方がしっかりと活動に参加できるようにしています。

猪口 アドバイザーになる方はどのような方が多いのでしょうか。

小谷野 初期の頃は主婦が多かったのですが、徐々に保育士さんや幼稚園の先生が増えてきました。印象に残っているのは、「10人ごっそり辞めてしまった」と、園長先生が相談に来たことです。園長と先生との意見の相違でぶつかって、辞めてしまうそうです。保育士も幼稚園の先生も子どもの育ちや発達心理学等を勉強していますし、教育の専門家ですが、親のことは学ばなかったので一切分かりません。母親への対応や気持ちなんて一切勉強していないのです。そして、モンスターペアレンツに出会ってから、園長先生が私どもの講座に送り込んできて、親が抱える子育ての不安や悩みがどういうものであるか、話の聴き方、応え方を勉強してもらうわけです。今は専門的な職業の方が多く、小児科の先生もいます。思春期外来担当の先生で、思春期の子どもの気持ちを理解するには、乳幼児期までさかのぼらないといろいろなことが学び、理解しないと、何も診断できないそうです。私たちのカリキュラムがカバーしているのは、妊娠中から思春期までの成長発達(妊娠中、乳児期、幼児期、学童期、思春期)と親の心理を学びます。

将来は警察署にアドバイザーを置いてもらいたい

猪口 今では多くの企業は働く母親を受け入れて、仕事と子育てを両立する方が増えているので、子育てアドバイザー協会さんのような活動はとても重要だと思います。企業とのタイアップや、企業からのオファーもあるのでしょうか。

小谷野 ある出版社からアドバイザーを定期的に送ってほしいという依頼がありました。時間が不規則な仕事なので両立するのがどんなに大変か以前から分かっていたので、会社には精神科の医師が常駐しているのに、誰も行きたがらない、それは心を病んでいるのではないかと同僚に思われるのが嫌で、行く人がいなかったというお話を伺って、悩みは病気ではないですよ、でも病気になる前に話を聴いてもらいましょうと、伝えたところ、アドバイザーを定期的に派遣しました。男性も女性も仕事の合間に相談に来ていました。

猪口 男性も来られるんですね!

小谷野 いらっしゃいますね。例えば、小さい子がいるお父さんは、「お手伝いをしようとしたら、奥さんが「お手伝い」という言葉に反応してすごく嫌がって、「やるのが当然でしょう」と言われ、何をやっても違うと否定されてしまう」とお悩みでした。私たちは悩みを傾聴することを大事にしているので、アイデアを出したり、ヒントをあげたり「こうしたらいいのではないですか」といったことは言うのはまれですが、男性の場合にははっきりと言ったほうが納得してもらえます。また感情をあまり出さない人でも、大変さを理解し、ねぎらいの言葉をかけるとウルウルされたそうです。

仕事の合間のたった数十分話を聴くだけなのですが、本音を言えてとてもスッキリした顔で帰られました。

猪口 話を聞いてもらっている間に自信を取り戻して、大丈夫だ、自分でもできそうだと、お顔が生き生きしてくるのでしょうね。20年以上この活動をされてきて、時代の変化やお母さんたちの価値観の変化は感じられますか

小谷野 今は情報がとても簡単に入ります。それでもなおアドバイザーに相談に来るということは、自分の子育ての仕方がこれでいいのか確認したいのと、自分の子どものことをもっと聞きたい、知りたい。「子どもが他の子と違うのですが、これでいいのでしょうか?」「うちの子はこうなんだけど、どうですか?」と聞かれます。皆さん、子どもの成長発達のことも勉強されていて、よくご存じです。中にはプロになれそうな人もいます。

悩みや不安、恐れというのは、子ども、旦那さんがこうだからということではなく、自分自身の中に存在している何かがあるのだと思います。自分がそれに固執してしまったり、真面目に取り組みすぎてしまったりする。実はそれが悩みの根源なのかもしれません。それを引き出して差し上げる。「小さい時はどうでしたか? お母さまはどうでしたか?」と、成育歴を話していくとよく分かるそうです。私たちは何もアドバイスしなくても、お母さんの話を受容と共感で聞いていくと、どんどん話してくれます。

猪口 皆さん自分の中に何かを持っているのだけど、それを吐き出すところがないのですね。

小谷野 壁に向かって話すより、反応のある人と話したほうがいいですよね。外国人のお友達にこの活動を話すとカウンセラーだと思われます。しかし、カウンセラーではありません。カウンセラーは精神的な治療が目的です。外国でも心理的な問題を抱えている人は大勢います。日本もカウンセラーは基本の心理のメソッドは欧米社会から来たものです。

外国の方から見ると、日本の風土がつくる母親の子育ての悩みは珍しいようです。インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどのアジア諸国では、子育ての手が親以外にもあります。私はフィリピンで子育てをしてきた経験からベビーシッター会社をつくりました。フィリピンにはヤヤ、欧米ではナニーと呼ばれる、住み込みのシッターさんがいます。東南アジアでは誰かの手があって子育てをしているので、悩むよりも、おおらかに自分の子どもを見られます。今どのような状態なのか、客観的に自分の子どもを見る時間、環境がある。それは手です。家事労働をしてくれる手、子どもを見てくれる手があるからです。

日本は主婦、母親がすべてできます。賢くて、家事、子育て、仕事をきちんとこなしています。こんなスーパーレディーはいません。本当にすごいことです。日本に帰ってきた時は本当に驚きました。帰国後、友だちに「結婚生活楽しんでいる?」と聞くと、ギロッと睨まれて、「楽しむなんてないわよ!」と言われました。私はヤヤに子どもを預けて、夜な夜な主人と食事に行ったり、お友達とパーティーに行ったり、昼間はゴルフに行ったりしていました。ヤヤだけでなくドライバーもガーデナーもいて、キッチンには料理をする人と洗い物をする人がいました。

猪口 それは日本とは違いますね。

小谷野 子育てに関しては町中、家中、親戚中でやります。孤立することは一切ありません。外国の方は日本のお母さんが悩んでいることに驚いていました。子育てに対する不安なんてなく、希望、楽しみがあるだけだからです。

フィリピンは女性の地位が非常に高い国です。アメリカが統治していた時代があったので、皆タイトルを持っています。「あなたは何をやっている人?」と聞かれて、「just housewife」と答えたら、「Housewifeはタイトルではない」とずっこけられました。部長、社長、支社長がタイトルで、皆それぞれ持っています。この時、結婚しても、子どもがいても、女性が働いていいということがインプットされました。それから、自分のことをきちんと発言できるようにしなければいけない、自分のオピニオンを持っていなければいけない。発言することは、決して出しゃばることではありません。自分に蓋をしていたと、私は外国で思い知らされました。

猪口 逆に言えば、日本でお母さんたちが元気のない顔をしていたら、若い人たちも子どもを産もうとは思わないですよね。

小谷野 良い見本がないと想像がつきません。自分が結婚して、お母さんになって楽しんでいる、幸せになっているイメージが出てこない。髪を振り乱して、必死になってやっていますからね。

猪口 今後のご予定や、新しくやってみたいことはございますか。

小谷野 活動の場として、イオンさんのようなスーパーにアドバイザーを置きたいというのが私の夢なのですが、他にもその必要性を強く感じるのが警察署です。薄暗くて女性が少ない警察署を、女性が駆け込んで相談できる場所にしたいのです。事件性がある話と聞くだけでいい話を分けて、学んでもらって、専門部署につなげることがアドバイザーにできるはずです。

何年か前に、子育てアドバイザーが警察署にいるという新聞の記事を読みました。おそらく必要性を感じてアドバイザーを置いたのだと思います。警察署は夜も空いていますし、今の時代には絶対に必要です。警察署にアドバイザーを置いてもらうにはどうすればいいのか、これからどう動こうか考えている段階です。

猪口 あとはアドバイザーさんを育成していただいて、楽しい子育てができる社会に少しでも近づけるといいですね。本日はありがとうございました。

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