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「103万円の壁」を壊すための私案/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2024年11月20日 7時0分

「103万円の壁」を壊すための私案/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

今般の総選挙でキャスティングボードを握った国民民主党は、103万円の壁の見直しを恒久措置とするため、基礎控除などの非課税枠を178万円まで引き上げるよう主張している。しかしこれを全国民に一律に適用すると、8兆円規模の税収が失われる可能性があるという(複数のメディアや研究機関による試算)。

確かに基礎控除等を一律引き上げることで、GDP押し上げ効果は非常に大きいものになるが、その一方で、ただでさえ恒常的な赤字が続いている上に防衛費や社会保障などで今後膨らむことが目に見えている我が国の財政赤字はさらに悪化してしまう。これを「バラマキ策」と呼ばずして何をそう呼ぼう。

※野村総研の木内エグゼクティブ・エコノミストの試算では年間1.68兆円になる。

国際的に突出している我が国の公的債務残高(国債の発行残高は約1000兆円、地方債の発行残高は約200兆円)はさらに悪化するだろう。これは次世代への「つけの先送り」のさらなる増額を意味するものだ。

しかも基礎控除等の一律引き上げは、低所得者層への恩恵よりも(税率が高い)高額所得者にとって圧倒的に大きな恩恵をもたらすものなので、社会的公平性の観点からいっても望ましい政策ではない。玉木代表の主張は、「労働者の味方だ」といいながら富裕層向けの大型減税をもくろむトランプ次期米大統領のやり口を髣髴とさせる。

多分、与党は今後の国民民主党との協議において、「年収178万円以下の低所得層に限定」した基礎控除等の引き上げを実施する方向で妥協策を打ち出し、その辺りで政治的決着を見ることになろう(国民民主党には「ガソリン税のトリガー条件凍結解除の件でも悪いようにしないからさ」などと言い含めるのだろう)。

しかしながらこの方法は、次は178万円手前に年収が近づいた人が「働き控え」を起こすだけという「一時逃れ」に過ぎず、本質的な解決法ではない。

ゆえに以下に、(多分、この数年で政府に採用されるとは思わないが)本質的な解決法の私案を提示したい。

端的に言ってしまえば、一定以上の年収のある人は今まで通りで、それ以下の年収しかない人を対象に新たな税率体系を適用する、という具合に2系統の税率にするだけだ。

そして低年収の人に対する非課税枠は(国民民主党案とは全く逆に)今よりも思い切り切り下げて年間20万円程度にしてしまい、その一方で彼らに適用される最低税率も現在の5%から思い切り下げてしまうのだ。

すると何が起きるか。さすがに年収20万円以下になるように「働き控え」をする人は極端に少なくなるだろう。

問題は、①2つの税率体系のいずれを適用するかの境目の年収をいくらとするか、②低所得者向けの税率を幾つにするか、の「組合せ」の設計だ。これをうまくやれば低所得者は不満少なく「働き控え」もしない。税収もそれほど落ち込まずに済む。

例えば①2つの税率体系の境目の年収を今より少し上げて114万円とし(115万円以上の年収なら従来の税率体系を適用)、②最低税率を今よりぐんと下げて0.5%とすると、どうなるか。

年収100万円の人は従来なら税金を払っていなかったのが5千円払うことになる。確かにちょっと悔しいのかも知れないが、「これくらいなら仕方ない」と思ってもらえるのではないか。そしてもう少し働くことで手取りは確実に増える。すると「年収の壁」はなくなってしまうはずだ。

年収114万円の人は5,700円払うことになる。それに対し年収115万円の人は従来の税率体系なので、115万円マイナス103万円の「12万円の課税所得」に対し最低税率5%の税金、すなわち6千円払うことになる。これでも従来より相当安くなるはずだ。

しかし課税対象者が格段に広くなる(これは税の精神からは理想的)ので、税収全体で見ると大して落ち込まない(どころか、もしかすると増える可能性すらある)。

もちろん、生活保護の対象者から(いくら安くとも)所得税を取り立てるのは避けたい。具体的には、世帯年収が156万円以下(つまり月収が最低生活費13万円以下)である場合は、(他の条件が揃えば)生活保護の対象となるので、所得税の対象からも除くのが社会通念上妥当だろう。

さて、実は世に問われている「年収103万円の壁」の議論は片手落ちである。というのは、国民民主党が指摘し与党がおたおたと対応しようとしている「年収103万円の壁」の話には、誤解と公的な抜け穴があるのだ。

この「年収103万円の壁」が気になる世帯の大半は、旦那さんがサラリーマンまたは公務員で(こちらが「扶養者」)、その奥さん(配偶者本人)が第3号被保険者であってパートやアルバイト等で家計の足しにしているというパターンである。

配偶者本人の手取りは「年収103万円の壁」を超えることで却って減るような印象がある。しかし実際には課されるのは、103万円を超える超過分に対し税率5%が掛かるに過ぎないので手取りは着実に増えるのである。つまりここが議論のポイントではないのだ。

議論のポイントは、第3号被保険者である配偶者の年収が103万円を超えると、扶養者が配偶者控除を受けられなくなるところにある。年収が103万円を超えないように「働き控え」が行われる理由は、単に本人が課税されるだけでなく、それに加え扶養者がこうした控除を受けられなくなって、世帯全体として手取りが減って損をすると考えられているからだ。

しかし、たとえ配偶者本人の年収が103万円を超えても、実は『配偶者特別控除』という制度が昭和62年から導入されており、扶養者は最大38万円の控除を受けられる。今では配偶者本人の年収150万円までは、扶養者の年収が900万円以下ならば38万円満額の控除を受けられる(これが『150万円の壁』)。

注)学生の場合にはそうした救済措置的制度がないため、その扶養者である親にとっては「年収103万円の壁」は実質的な壁として存在する。それと扶養者の勤める企業によっては、独自の配偶者手当の支給基準を未だ残しているところがあり(「古き良き会社」といえよう)、この「年収103万円」に合わせているところもある。この場合は別のところに「壁」が存在するので注意が必要だ。

つまり今でも大半のパート主婦は「年収103万円の壁」を気にする必要はない。単に『配偶者特別控除』という制度が知られていないだけなのだ。そのため心理的な「壁」として残っているというのが実情だ。

国民民主党の玉木代表は2005年(平成17年)までの12年間、こうした税制の元締めであるところの財務省の官僚を務めている。この制度について知らないはずはない。それでも「年収103万円の壁」を壊す主役を演じ、サラリーマン家庭に向け「我が党はあなたたちの味方ですよ」とアピールしているのだ。なかなかの役者である。

しかし仮にこの制度がよく知られるようになっても、冒頭の「非課税枠の178万円までの引き上げ案」と同じことで、年収が150万円に届く手前で「働き控え」が行われることに変わりない。

だからこそ小生の私案のように、「働き控え」する気が起きないほど安い金額のところに非課税枠を設定すべきなのだ。もしくは、そもそもの「諸悪の根源」でありこうした問題を引き起こしている、専業主婦を優遇する第3号被保険者制度を廃止するのが最も根本的な解決法といえる。

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