キラキラ社長のPR成果が認められない理由 「ズルしていただき」の禁止/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2024年12月2日 10時27分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・キラキラアピールからフクロ叩きへ
斉藤氏の知事選挙PRをしたと主張したことで、自身だけでなく斉藤知事まで公職選挙法に抵触する恐れなどで大批判を集める兵庫県のPR会社社長ですが、慶応大学卒で外銀勤務を経て起業。フランスのグランゼコール(修了などステータスは不明)留学など、正にキラキラプロフィールの女性です。
その社長自身のインスタでは、高価なブランド品をアピールしたり、マスコミからの自身への取材などPR実績より自分自身のPRがぎっしり。この事件がなければそこまで注目はされなかったかも知れませんが、今となってはこうしたキラキラアピールの詰め合わせのような情報発信は、反発を呼ぶ危険な匂いを漂わせています。女性だから批判されるというよりは、可燃性の高いアピールであふれている自らの情報発信が批判の原因と考えるべきでしょう。一緒くたにするのは失礼かも知れませんが、トラブルを起こす商法の主催者が、男女問わず著名人との付き合いや高価なブランド品、クルマなどをSNSでアピールするのと似た印象をも持ってしまいかねない雰囲気です。
しかし今回の事件によって、こうした華やかな日常はすべて批判を招くだけの対象になってしまいました。あれだけの大衆を動かしたPRを統括したにも関わらず、この辺りの反発の可能性については無防備だったのでしょうか。斉藤知事の逆転勝利、その計画から実行まで克明に綴られたnoteのオリジナルは、既に修正されています。それどころか疑惑をぶつけられた斉藤知事は、その代理人弁護士から、PR戦略どころかあくまでポスター印刷を頼んだだけであり、(法律違反の)PRなど依頼していないと、きっぱり全否定されてしまいました。ただのポスター印刷業者であるというのが、斉藤知事側の見解のようです。
・「でもPRの効果はホンモノ」なのか?
斉藤知事再選においてSNSがとてつもないパワーを発揮し、従来の投票行動とは異なる動きが起き、選挙前の予想を裏切る結果となったことは誰もが認めています。ではそれはPRのおかげなのでしょうか?
知事選挙では、元N党代表の立花氏が斉藤氏を支援するため立候補したと述べています。実際に立花氏はSNSや動画などで、斉藤氏を大きくバックアップする内容を上げています。誰のどんな行動が斉藤氏を再選に導いたか、正確な原因を特定することはできないでしょう。マーケティングや広告の世界では「アレオレ詐欺」などとも言われ、大ヒットの裏には自分の役割があったからだとアピールする人が昔からいますが、真偽はどうにも判断できないことから、そうした「アレオレ」アピールは批判的に受け取られることが多いのです。
PR会社社長が、自分がPRの責任者としてPR戦略全般を仕切ったという発言は、現時点では公選法に触れる恐れもあることから、斉藤知事側が全否定しています。これは公選法違反行為となれば、斉藤氏自身が失職してしまう恐れもあり、社長の主張を認めることはできないからだという意見が多く見られます。
では、やはりPRの勝利なのでしょうか?公選法などの法律には無知ではあったものの、そのPR戦略とその効果はホンモノなのでしょうか?
・「悪法も法なり」ソクラテス
哲学者ソクラテスは、いわれなき中傷を受け死刑を宣告されてしまいます。ソクラテスはその言いがかりのような判決に反発したり逃亡したりすることもなく、毒を飲んでしまうのですが、その時に発したといわれるのが「悪法もまた法なり」という言葉です。例え法律そのものに瑕疵(問題)があっても、法律を守るべきであるという、ソクラテスの政治哲学を表す言葉といわれていますが、実は本当にそんな発言をしたのか定かではありません。それはともかく、法治主義の重要さを訴える例として、今でもことわざのように使われる言葉です。
その原因が無知なのかどうかはさておき、公選法という法律を無視して「PR効果を発揮した」、「SNS戦略が的中した」というのは、ダメなのです。
コンプライアンスが口うるさく叫ばれる現在、仮にPR戦略のおかげで当選ができたのだとしても、違法なPR戦略による結果は成果とは認められません。なぜならライバル陣営は少なくとも法律違反をせず選挙戦を戦っていたからです。法律が定めた規制の枠の中で競争することがコンプライアンスです。そこから外れて出した成果は、成果ではありません。ドーピングによってレースで好成績を題してもそれは認められないのです。
広告においては、心理学手法を用いた技術もあります。サブリミナルプロジェクションという認識できないほど短い時間で画像などのメッセージを送る手法は禁じられています。このように「成果が出れば何でも良い」はずがありません。コンプライアンスに反する手法による成果は成果とは認められないです。
「ズルしていただき」(Cheat to win)が認められるのは故・エディ・ゲレロだけ。
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