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調達トリレンマからの脱却ー今年の調達トレンド予想-/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2025年1月8日 12時0分

調達トリレンマからの脱却ー今年の調達トレンド予想-/野町 直弘

野町 直弘 / 調達購買コンサルタント

皆様あけましておめでとうございます。

昨年は円卓コンフィデンシャルというTV番組に、人生初めて出演させていただきました。事前にインタビューを受け、それを元に台本を作っていただき、収録数日前に渡されたのですが、収録では台本の通りには、あまり進まず、あれ、今度何を質問されるかな、と内心ドギマギしておりました。

その台本の中で「調達トリレンマ」という言葉が使われていて、昨年の調達環境を表現するのにとても適しているな、と思い私もその後、講演やセミナーなどで使わせていただきました。

トリレンマとは三者択一という意味もありますが、ここでは三重苦という意味でつかわれています。調達を巡るトリレンマは1.調達クライシス(調達難)2.価格高騰(市況高騰、円安、人件費高騰による)3.サプライチェーンにおけるサステナビリティ重視の3つです。

確かに昨年までの構造的な変化は、調達環境のトリレンマの状況だったと言えます。それでは今年はどうなるでしょうか。間違いなくトリレンマの状況からは、徐々に脱していくでしょう。一方で新しいトレンドも出てくることは間違いありません。

2025年でもっとも日本の経済環境に影響を与える出来事は、米国の大統領にトランプ氏が就任することでしょう。これは、ある意味従来の路線であった環境配慮、サステナビリティ重視にブレーキがかかることも予想されますし、円安が緩和されることも予想されます。また、ミクロでは、EVやバッテリー関連の需要がひと段落することも予想されます。しかし、前回のトランプ政権を振り返ると、それほどドラスチックな方向転換はしていなかったこともあり、トランプ氏は大統領以前に優秀なビジネスマンであることも考えますと、従来の方向をまるっきりひっくり返すようなことにはならない、と私は考えます。

このような経済環境下で、私が考える2025年の調達トレンド予測を4点ほど紹介していきましょう。

1.AIの活用(AIは個人に欠かせないツールとなる)

2.官製値上げの継続(人件費高騰と下請法改正)

3.「川上と川下企業が中間企業を選ぶ」時代は続く

4.「サステナビリティ重視」も続く(特にリサイクル材調達)

1.AIの活用(AIは個人に欠かせないツールとなる)

昨年10月の記事で、私はAIの活用について、やや否定的なことを書きました。しかし、その後、色々な経験や多くの方々からの教えを踏まえ、やや考え方が変わってきたのです。AIの活用は今後もおそらく進んでいくでしょう。2025年はその黎明期になるのではないかと考えます。あと数年経つと、AIは普通のツールとして、活用されていくでしょう。しかしそれはビジネスとしての活用というよりも、個人が便利なツールとして、使っていくイメージです。一方で使わない人、使えない人との差はますます開いていくでしょう。

これはインターネットが出てきたころと全く同じです。ネットの黎明期は一部のマニアのツールだったのですが、Webの技術とWindows95の登場から一気にインターネットが普及しました。このころにはインターネットを活用して、情報収集をする人とそうでない人のデジタルデバイドが広がったと言われています。AIについても生成AIの技術とCopilotなど、使いやすい環境となったことで、個人の便利なツールとして活用が進んでいくでしょう。

2.官製値上げの継続(人件費高騰と下請法改正)

2023年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が政府から公表され、2024年はその実行フォローが続く1年でした。私はこれを「官製値上げ」と呼んでいますが、この傾向は2025年も続くでしょう。人件費だけでなく、原材料費用やエネルギー費用の高騰、また円安による輸入物価の高騰など、官製だけでない購入費用の高騰は続きます。

今年の通常国会では約50年ぶりの下請法改正案の成立が目指されるとの報道がされています。改正内容については、公正取引委員会の公表資料や企業取引研究会の報告書を参考にすると、おおよそ把握できますが、従来難しいと言われていた「買いたたき」要件の行為類型を明確にする等が言われています。

ここでは親事業者が、一方的に下請代金を決定して、下請事業者の利益を不当に害する行為を規制対象とすることを検討しているようです。ポイントとしては、製造工程における温室効果ガスの排出量の削減を要請することなども問題視されるかもしれないということです。現在、様々な情報収集をサプライヤから定期的に実施している企業は多く、ごく一般的ですが、拡大解釈すると、そのような調査への協力依頼を一方的にすること自体が禁止される恐れもあります。

他には、支払手段として紙の手形による支払は認めない他、電子手形やファクタリングでの支払いの場合も支払期日までに下請代金の満額の現金と引き換えることができること、という内容も、バイヤー企業にとってインパクトが大きいかも知れません。

このように大きな意味での「官製値上げ」は今年も続くでしょう。

3.「川上と川下企業が中間企業を選ぶ」時代は続く

従来の、サプライヤマネジメントは直接取引のあるTier1のサプライヤを管理したり、関係性を構築することが中心でした。一方で、昨今の経営環境変化に伴い、チェーンの多層構造化が進むとともに、多くの分野で、川上側と川下側のプレイヤが相対的に力を持ち始めています。この傾向は今後、一層進んでいくでしょう。

最近の世界企業の状況を見ますと、多くの分野で、独り勝ちが進んでいるように感じます。時価総額ランキング(2024年11月末現在)では、1位がアップル、2位はエヌビディア、3位はマイクロソフト、テスラが8位、TSMCが10位に入っています。

企業の競争戦略で一番ベストなのは、「競争しないこと」ですが、これらの企業は卓越した技術開発力などで、それを実践しているのです。またこれらの独り勝ち企業の事業分野を見ると川上と川下の企業なのがわかるでしょう。

日本企業の多くは、中間企業であり、自社だけで圧倒的な競争優位を勝ち取ることができにくくなっています。しかし、独り勝ち企業は圧倒的な優位であり、中間企業はそういう企業との関係性を強くするしかありません。例えば、川上企業に対しては、バイヤー企業として選んでもらう、川下企業に対しては、提案力を強化し、自社を指定してもらう、というように。

こういう経済環境は続くだけでなく、ますます進展していきます。

4.「サステナビリティ重視」も続く(特にリサイクル材調達)

トランプ氏が米国大統領に就任することで、温室効果ガスの排出量削減や環境配慮などの方向は、鈍化するかも知れません。しかし、サプライチェーンにおけるサステナビリティ重視は、3の独り勝ちしている企業たちの価値観(パーパス)が変わらない限り続くでしょう。

一方で、日本国内には資源がありません。有限である資源を最大限に活用するためには、リサイクルを進めるしかありません。日本企業はリサイクルに活路を見出していくでしょう。リサイクルは、昔は高コストだが、社会的視点から進められてきました。一方で、今後は「新たな供給源」「サステナブル重視に合致」「エコで競争力につながる」の一石三鳥を実現するものと捉えられるでしょう。

そのためには、リサイクルしやすい製品設計、回収物からリサイクルする技術、リサイクル材料の調達ルートという、2つの技術とサプライチェーンの確立が必須です。そういう点から、調達部門が特にサプライチェーン確立に携わるニーズは高くなっていくでしょう。

先進企業では、既にサステナブル材料の使用比率の社内目標をKPIとして設定し、サステナビリティ重視を進めています。このような取組みが今後も続くだけでなく、一層進んでいくでしょう。

長文になりまして申し訳ございません。

本年もよろしくお願いいたします。

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