新規事業には4つの方向性がある/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2015年8月6日 7時5分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
「新規事業には4つの方向性がある」などと言うと、多くの人は「そんなにあるのか」と惑われるかも知れない。でも実際あるのだ。しかも方法論も違っていたりする。
4つの方向性(および方法論)とは「競争戦略」「ブルー・オーシャン戦略」「ビジネスモデル変革」「未開拓市場進出」である。順を追って簡単に解説しよう。
第1の「競争戦略」というのは、多くの企業戦略論の大家やコンサルティング会社が開発した、多くの戦略手法体系の総称である。基本的には自社にとっては新規事業への進出だが、世の中的には既存の競争相手が存在する事業分野への展開を想定しているパターンである。例としては、自社の独自技術を応用して、伸びている太陽光発電関連ビジネスに新たに参入する素材メーカーである。
手法例としては、有名どころではハーバード・ビジネススクールのM・ポーター教授の「コスト/差別化/フォーカス」基本戦略や「5つの力」などであり、ノースウェスタン大学ケロッグ・スクールのP・コトラー教授の「リーダー/フォロワー/ニッチャー/チャレンジャー」の4分類や「4P/7P」マーケティング政策などである。多くの教科書で解説されているので、ここでの解説は省く。
誤解されるといけないので予め断っておくが、「競争戦略」は多くの実践場面で今も有効かつ進化している(小生もこれらの手法群を使う頻度は低くない)。
第2の「ブルー・オーシャン戦略」はINSEAD教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュの両氏が先駆者として打ち立てた、比較的新しい新規事業開発方法論の体系である。第1の「競争戦略」論体系を「レッド・オーシャン戦略」と批判している立場であり、アンチ「競争戦略論」といえる。
「ブルー・オーシャン」の名称が有名な割に、中身についてはあまり理解されておらず誤解が多いが、簡単に説明すると、「競争軸を変える」ことで従来無かった新しいカテゴリーの商品・サービスを開発するための方法論体系である。例とすると、従来の掃除機の概念を全く変えてしまった(がフローリングの部屋でしか使えない)ロボット掃除機ルンバである。
「バリュー・イノベーション」という戦略開発方法論(ツールとしては戦略キャンバスが有名)だけが取り上げられることが多いが、「フェアー・プロセス」と「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」という推進方法論(チェンジ・マネジメントの一種と考えると分かりやすい)が体系として一緒になっているのが大きな特徴である。
第3は「ビジネスモデル変革」である。商品・サービスのカテゴリー的には(自社にとっても世の中的にも)既存のものであっても、事業を成り立たせる仕組みが従来のものと違うことで、新しい価値を提供できたり強い競争力を持つことができたりするものである。もちろん、結果としてブルー・オーシャン的な新カテゴリーの商品・サービスが生まれることもよくある。
例とすると、製造小売アパレルであるSPAが登場したときはまさにそうだったし、アマゾンや楽天などの「ネット○○」が登場したときも新ビジネスモデルだった。見かけ上は地味な例でいうと、最近サッポロビールが小売と“専売”ビールを共同開発したのもそうである。
この「ビジネスモデル変革」は方法論的にはまだまだ十分体系化されたとは言い難いが、近年目覚ましく発展途上である。「ビジネスモデル・キャンバス」が有名になってきているが、他にも様々な手法群がある(中には焼き直しや、無駄に細分化しただけと思われるものもあるが)。
「ビジネスモデル」の主要要素の定義、それらをどう組み合わせることで新しいモデルが開発できるか、どういうプロセスで開発・展開できるのか等々、多様な事例研究と体系化の試みが行われている。小生もクライアントと共に新規事業プロジェクトで日々実践するのと並行して、勉強会などで事例や新しいモデルを有志の方々と研究している。機会があれば紹介したい。
最後の4つめが「未開拓市場進出」である。小生が今、力を入れている東南アジア市場進出はこの中に含まれる。自社にとっては未開発市場であるが、進出先の市場に当該商品・サービスのカテゴリーが既にあるのかそれとも新規か、ビジネスモデルとしては既存のものでできるのか、それとも新たに組みあげないと事業にならないのか、それぞれ両方のケースがある。
つまりこの「未開拓市場進出」のアプローチにおいては、先に挙げた3つの戦略開発方法論体系でいうと、いずれもあり得るのである。
どれが一番難しいかと時に聞かれるのであるが、第1を除けばどれも実現自体簡単ではないし、成功確率を考えるといずれも同様に難しい。だからといって新規事業に全く取り組まない会社に未来はない。経営環境や事業機会・自社資源との相性も考慮して、高度に判断するしかない。
(本記事は2012年12月5日に掲載されたものを再編集しております)
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