営業改革を考える (6) 報酬・インセンティブ変更は熟考せよ/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2016年3月16日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
~営業改革を考える (5) ベストプラクティスは往々にして社内にあり~ の続き
営業改革の要素としての報酬やインセンティブには功罪半ばする部分がある。無視することは危険だが、営業マンの行動を変える手段としてこれらに依存し過ぎることもやはり危険である。
過去、あまりに個人成績、しかも結果系(典型的には売上)に偏った評価基準を維持してきた企業が、チーム成績、そしてプロセス指標(提案件数など)および顧客満足にもバランスをとるように基準を変更することは、社業の健全かつ長期的な発展のためには自然かつ妥当なことが多い。
しかし気をつけなければいけないのは、その「是正」の動きには絶対といってよいほど反発が生じることである。
過去の評価・報酬制度のメリットを最も享受してきた人たち、典型的にはベテラン営業マンたちの反発であり、それを恐れる幹部の懸念である。「身入りが減るとベテラン営業マンが辞める。誰が責任を取るんだ」という声が巻き起こることはほぼ間違いない。
そうした反発におののいて是正の動きを取り止めたことが過去にあれば、「制度変更の動きはどうせ腰砕けになるさ」と見越して、反発の動きは余計にあからさまになるだろう。
そして実際に再び腰砕けになったら、つまり是正検討とその中止を安易に繰り返したら、どうなるのか。経営や諸制度への信頼度、会社が今後行う改革プロジェクトへの信頼度が地に堕ちるのである。
ちょっと「脅し」じみたかも知れないが(小生の趣味ではありません)、それだけこの要素の扱いは厄介だとお伝えしたいのである。腹を据えて取り組まないといけないし、安易に取り止めるくらいなら初めから言い出さないほうがましなくらいなのである。
しかしながら現行の営業マンの評価・報酬制度があまりに個人/結果/売上、そして金銭に偏ったものであれば、それがもたらす歪みは中期的には無視できないものとなろう。
営業マン同志が足の引っ張り合いをするところまでは行かなくとも、少なくともベテランや中堅が若手を育てる土壌ではなくなり、着実に若手の定着率の悪化をもたらす。これは経営的にはボディーブローのように効いてくる。
そして金銭的報酬・インセンティブの厄介なところは、上昇場面では士気向上効果は逓減する癖に、少しでも下降する場面になると途端に不満を掻き立てることにある。しかもそれまでの報酬額の蓄積とは無関係に、である。
これは国内外の有力研究機関での研究でも証明されている。つまり、ずっと金銭的報酬が上がり続けない限り(これは殆どの職場で非現実的な話だろう)、いつか不満をもたらすということである。
単純な絶対正解というものはないが、対処できなくなるほど問題が厄介になる前に、営業マンの評価・報酬制度には少しずつ是正の手を入れておくほうが賢明だといえそうだ。そしてその際の改革の方向も熟考すべきだ。
多くのケースで望ましいのは、個人成果に対する金銭的な報酬・インセンティブだけに依存せずに、チームやブランドへの貢献に対する賞賛(社内、顧客、家族などから)、仕事レベルの向上(権限拡大など)、社会的意義への貢献といった要素を適切にとり交ぜることではないかと思う。つまり「チーム貢献」「精神的な報酬」の比重を上げていくのである。
(本稿は2013年3月のコラム記事に加筆修正したものです)
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