仮説の“検証”とはどんなもの?(実例その3)/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2015年7月30日 6時57分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
以前の2つの記事で幾つか仮説の「検証」事例をお伝えした。今回は、「想定した仮説が違っていた際にどう修正していくのか」を中心に、ある事例を使いながら(差し障りのない範囲で)ご紹介したい。
実際の戦略策定や業務改革の構想策定といった「(超)上流工程のプロジェクト」においては不透明要素が多いため、初期仮説通りに最後まで進むことは稀であり、ある程度は仮説の修正が生じるのがむしろ普通だ。ポイントは、いかに素早くしかも正確に仮説の誤りに気付き、いかに素早く大胆に修正を掛けられるかである。
この事例のクライアント企業は大手素材系メーカー。社会インフラ向け資材の製造事業を思い切って伸ばす戦略の策定が求められた。同事業に乗り出してまだ2年程度、実質的には新規事業の性格を帯びていた。主顧客は地方自治体である。
競合の大半は中堅メーカーもしくは地場の中小メーカーであり、同社の体力と技術力をもってすれば早々に市場制圧ができるはずだった。しかしシェアは一向に向上せず、利益も出ていなかった。そのため担当部門の意見を取り入れて、デザイン力で差別化するための「研究所」まで少し前に設立していたが、どうも確信が持てないというのが依頼時のクライアント・トップの認識だった。
我々コンサルタントチームが持っていた初期仮説は、「営業戦略的には自治体のインフラ計画部門への食い込みがキーポイントになるため、地元代理店(他事業部製品の取扱が主だが、本事業でも協力)への教育と支援を手厚くする」「事業戦略的には(クライアント想定の通り)デザイン力の強化は重要だが、それに加えて技術力からくる品質の違いを数値的にアピールする(ために計測可能にする)」というものだった。
しかしいざ顧客インタビューを重ねると、前者の仮説はほぼ合っていたが、後者の仮説は結構ズレていたことが判明した。
当時の自治体の多くは、観光面への影響から「デザイン重視」を唱えてはいたが、そのデザイン要望たるや素人である自治体幹部の思いつきにより左右されるものだった。つまり「デザイン強化」よりもむしろ「自らのデザインへのこだわりの少なさ」や「デザイン変更への柔軟性」が最も求められていたということだ。
しかしクライアントのデザイン研究所長にフィードバックすると、「知っていましたよ」とこともなげに言う。現場では既に対応しており、最初に雇った美術大学出身者ではなく、今や顧客要望をいち早くCAD化するためのエンジニアが中心になっていたのだ。問題は、この件に関してはとっくに(体制変更という)手を打ってあるのに競争力アップに結びついていないという事実だった。
また、国が決めたガイドラインにさえ沿ってさえいれば、あいまいな「品質の違い」はあまり差別化要素にならないのが実態だった(お役所の担当者はそこまで気にしないため)。事実、競合のメーカーは技術的には今ひとつと同業者からは見られていたが、実績の多さが評価され、高い市場シェアを維持するという好循環を保っていた。ただ、メンテナンス周期が変わってくる、クライアントのある技術は高く評価されていた。
一旦はそうした「○○技術による耐久性」をアピールし差別化する戦略を立てたが(修正仮説の構築)、改めて市場関係者に打診してみたところ(修正仮説の検証)、その反応からは「決定的な差別化点とまでは言えそうにない」と認めざるを得なかった。プロジェクトとしては煮詰まり気味になったが、ここで足踏みしていては時間がもったいない。
そこで、クライアントとコンサルタントの合同で数度にわたってブレインストーミングを行い、打開策を模索した。出た結論は、「ビジネスモデル自体を思い切って転換し、強みである加工素材を競合業者にも提供することで事業のすそ野を拡げる」というものだった。
この大胆な戦略転換がうまくいくのか、その仮説検証は難しかった。一部の競合に対し非公式に受け入れ意欲を打診し、特に口の堅い一部代理店に(代理店全般からの反発が大きくならないかという)相談をし、社内的に規模拡大によるコスト低減が収益向上に結び付く効果の度合いを検討した。検証の結果は、とりたてて大きな問題はなく、今の中途半端な状態よりは将来的に事業が成長する可能性が高いという結論に至ったのである。
この事例では、事業担当者の割り切りが素早く、社内外の関係者への説得も手際がよかったため、意外なほど反発が少なく、大胆な方向転換に成功した。(実質的に)新規事業ならではの身軽さが功を奏した側面もあったが、「仮説構築-検証」のサイクルが速かったからこそ無駄足が少なく、プロジェクトへの信頼度が上がったことは間違いない。
(本記事は2013年11月28日に掲載されたものを再編集しております)
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