会議参加者を削るだけで生産性は向上する/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2015年12月24日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
賃上げ論議が高まっているが、賃上げというものは、物価上昇への対応という側面と、生産性向上に対する労働の貢献への分配という性格を持っている。では日本企業の生産性は向上しているのだろうか。
最近、「ワーク・ライフ・バランス」改善を訴える有識者の解説をお聴きする機会があったのだが、「なぜ日本では残業が多いのか?それは日本の労働生産性が欧米に比べ大幅に低いからだ」という主張と共に、日本生産性本部の調査結果が明らかにされた。
2013年の日本の労働生産性は「73,270ドル、OECD加盟34カ国の中では第22位。順位は前年と変わらず」とのことだ。
http://www.jpc-net.jp/annual_trend/annual_trend201...
その後、その有識者の見方を支持する数人の方から幾つかの体験事例をお聞きした。それらは小生自身もクライアントから聞いたことがあるか、「過去の仕事で身近に触れたパターン」と感じるかのいずれかで、苦笑せざるを得なかった。例えば…
「連日の深夜残業でなんとか仕事をこなしていたはずだが、チームから一人抜けたのに各人の残業時間はその後もあまり変わらなかった」
「ある緊急のプロジェクトに別部署から呼ばれて参画したところ、担当者同士で延々会議をするばかりで、責任者は途中で出たり入ったりするだけで何も決定されない」
「定例ミーティングでは大人数が勢ぞろいするけれど、発言するのはいつも同じ人たちばかり」
「プロジェクト納期が迫っているのに、同僚担当者が兼務している仕事が多過ぎて、引き受けてくれたはずのことを約束の期限までに完了できず、結局は仕事のできる一部の人間が肩代わりしてやってあげている」
多くの日本企業で同様の実態があるのではないだろうか。生産性の低さの原因としては幾つも思い当たり、多分それらの複合なのだろう。例えば「会議の進め方」のまずさにもあるあろうし、そもそも会議が多すぎることも指摘できるだろう。
でも小生が以前から気になっているのは、会議に参加する人数が多すぎることだ。大企業だと、必要な人数の5割から10割増しという感がある。社員に色々なプロジェクトを兼務させることが企業文化になっている会社ほど、これが極端になっている。
つまり、社内プロジェクトは兼務者ばかりでその人数は膨れ上がるが、いつも似たようなメンバーが幾つもの別プロジェクトに顔を並べている状況だ。
ご当人達の意識では、朝から晩まで会議に参加して忙しい、たっぷり仕事をした、という気になっているようだ。でも仕事はあまり進まない。なぜだろうか。
そもそも、各々のプロジェクトに割かれている業務量の総和は、頭数から感じられるほどには大きくない。
実質的には、効率が落ちることが大きい。各参加者としては幾つものプロジェクトに意識が分散して集中力が減り、個々人の作業時間においても実に効率が悪いのだ。
会議になると非効率さがもっと露骨になる。人の話を聞く時間が長くなるために参加者の集中力が途切れやすくなり、しかも人数が多くなると話題が分散しやすく、中だるみしやすいのだ(ファシリテータとしては要注意)。
さらにプロジェクトの参加人数が多くなればなるほど加速するのが、「社会的手抜き」の心理だ。要は「自分一人が頑張らなくても他の人がやってくれる。こんなに人数が多いと自分の貢献度が目立たないし…」という心理だ。これは個人作業においても会議の場においても現れるものだ。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/4716/loafing.htm
仕事柄、小生はクライアント企業の人たちに打ち合わせを呼び掛けることが少なくない。その際に気をつけているのは、テーマに関し本当に発言できる人に限定して参加していただくようお願いすることだ。
皆さんが会議やプロジェクトの主催者となった際には、できる限り少数精鋭主義を貫くことをお薦めする(その分、参画してもらう人には応分の負荷をお願いしなくてはいけないが)。そのほうが結局は、会議やプロジェクトを成功に導き、会社の生産性を引き上げることにつながるのだ。
(本稿は2014年1月のコラム記事に追加修正したものです)
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