内外作の決定と調達購買の役割/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2014年7月23日 14時24分
野町直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
企業の内外製戦略は戦略的な意思決定です。現在は外作化だけでなく重要な部品やサービスを内製化することも重要な判断です。
ちょっと古いデータですが、2008年に弊社が実施しました『調達部門長向けアンケート調査』によりますと「内外作の意思決定」への参画を全体の57%の企業が調達部門長の役割として上げています。つまり何を社内で作り、何を購入するかという重要な意思決定に過半の企業では調達部門長が絡んでいるのです。ただ57%という数字が多いのか少ないのか、については議論が分かれるところでしょう。
一方で企業の生産戦略として、何をどこで生産するか、また社内では生産しないで社外から購入するかは「内外作の決定」と言われ非常に重要な意思決定です。
従来、多くの日本企業は付加価値を高めるために優先的に社内で生産を行い、
自社の生産能力を超えた部分だけ社外に委託する、のが基本的な方針でした。
しかし特に近年、製品の複雑化や技術革新により自社だけでは全ての技術開発や生産を対応できなくなり、社外の製品技術や製造技術を活用するようになりました。
また他方、社内のコストが上昇しコストを削減することを目的に戦略的な部品だけでなく、コスト削減を目的とした外注化が進展したのが1990年代後半~2000年代前半です。ファブレス企業とかEMSという形態が生まれたのがこの時期です。
その後企業の生産活動のグローバル化が進展し、コスト削減を目的にした社外
リソースの活用は益々進展してきました。この時期には社外の技術や生産の活用をグローバル化で行うようになったのが2000年代の後半から現在にかけての動向と言えます。
これらの動向をまとめてみると、社内生産を外作化し、その外作の範囲が広がり、より広範囲に戦略的に外作を進めてきた、というのが今までの動向と言えるでしょう。
先日、日経新聞記事にこのような記事が出ていました。
『ハルナビバレッジ、2リットルペットボトル内製化、コスト2割削減。』
2014/07/10 日本経済新聞 地方経済面
要約すると『群馬県高崎市にある飲料メーカーが子会社工場で2リットル用ペット
ボトルの生産を始め、従来の外部調達からほぼ全量を内製に切り替えることで、
コストを2割削減する。』という内容の記事です。このハルナビバレッジという企業は大手小売業者のPB品を手掛けており2リットルの品の比率も高く、また他の
ナショナルブランドに対してよりコスト的に厳しいという背景が今回の内製化
の理由として上げられています。
このような内製化というやや時代に逆行するような動きも出てきているのです。
外作化が進展する中で内製化を推進するという動きはあまり多くないでしょう。
(リーマンショック以降日本で作る量が確保できず外作品を引き揚げろという動きはありましたが、こういった戦略的な内製化の動向は多くないでしょう)
興味深いのは内製化することで2割コスト削減できるということです。
多くの企業が社内での生産=高コストという構図に陥っています。そういう環境下で内製化することによってコスト削減が図れるとのこと。
以前私が係わっていたある企業のプロジェクトでも同様のケースがありました。
対象はある機能部品だったのですが、その企業にとっては非常に重要で、単価
も高く、コスト全体に占める比率も高い部品でした。従来は大手メーカーから購入
していましたがほぼ1社に依存している状況でした。尚且つ汎用的な部品が使用
できずにその企業固有の仕様となっていたことも高コストの原因となっていたのです。
このような状況ではコストを下げることは非常に難しい。何故なら、競争環境ができていないだけでなく、その機能部品を外作している大手メーカーにとっても美味しい商売ではないからです。
大手メーカーは汎用品を量産することにかけてはコスト競争力を持っていますが
一方で(彼らにとっては)少量品を生産することは大手メーカーの大規模な設備を使うことでかえってコスト高になっていました。
そこで私が参画したプロジェクトではその機能部品を内製化することを進めました。
一時的に設備投資は必要になりますが、その企業の需要に応じた投資に抑える
ことで、約30%コスト削減することができたと記憶しております。
このような状況は先のペットボトルでも同様のことが言えます。ご存知な方もいらっしゃるでしょうがペットボトル業界は比較的寡占な状況です。
大手の寡占状況の環境下、内製化することでコスト削減につなげるということは先ほどの機能部品での事例同様あり得ることでしょう。
このような内外作の判断はサプライヤとの力関係や業界全体の動向、自社のポジションや自社の事業の状況など様々な要因によって影響されてきます。
一般的にはサプライヤの強い業種や品目では、内製化を進めることでコスト削減
につなげ易いと言えるでしょう。
いずれにしても外作化だけでなく、内製化することも戦略的な代替案として考えられるのが現在です。ここで重要なのは調達購買部門が主体的な立場で内外製戦略の検討立案、実行に携わることです。先の機能部品の事例では、その企業の調達部門が既存サプライヤを説得し生産移転に関しての理解と技術支援を得ることにつなげました。このようなサプライヤとの折衝だけでなく、よい技術を持つ
サプライヤを社内に紹介することで価値のある外作化につなげる、現時点だけでなく、中長期的な視点で内外作決定の支援を行うなど、内外作決定に調達・購買部門が果たすべき役割はまだまだあります。
現状の自社製品におけるコスト構造を見える化し、内外作を変更することで、より
競争力を強化できる余地がないか、今すぐにでも検討できないでしょうか。
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