■ 私が出会った 上司 列伝 第4回■/戸井 雄一朗
INSIGHT NOW! / 2014年7月25日 22時43分
戸井雄一朗 / クイックウィンズ株式会社 代表取締役
~ 無名のおっさん達から学んだ人生~
第4回 : 浪速の ド根性商人 隅防明人
この人のことはどうしても書いておかなくてはならない。
とはいえ、どう書くべきか悩んでいるうちに前回から大分時間がたってしまった。
仕事人としての私に最も影響を与えた人物であり、今でも目標とする人物。
それは、隅防明人というトーメン時代の直属の上司だ。
新卒で入社から2年、オーストラリア駐在時に1年、
合計3年間、彼にコキを使われながら必死で働いた。
彼の魅力を改めて考えてみると、以下のように表現できるだろう。
(「キャラクター好感度」+ 「大阪商人気質」) × 「鉄の意志」 = 付加価値∞
この3つの要素が高いレベルでバランスよく相互作用していたと今になって思う。
まずはそのキャラクターだ。
のび太君のような風貌で、にこにこしながら大阪弁で話す姿は敵を作らない反面、
第一印象でのカリスマ性は皆無だ。
第一回で紹介した、大石さんのような厳格さはなく、むしろ規律には緩い。
第二回で紹介した広原さんのような豪傑さはなく、むしろセコく値切ったりする。
そんな姿がなんとなく見ていて楽しく、愛されるキャラクターだ。
そして儲けることが大好きな大阪商人気質。
そのキャラクターを武器にちょっと小ずるいことをしたり、
えげつなく値切ったり、営業したりするから大いに笑える。
・わかりやすく顧客に恩を売って他商社を出し抜く。
・そうかと思えば競合他商社からちゃっかり情報を入手する。
・トーメンの株価が急激に下がって皆が戦々恐々とする中、
一人だけこれはチャンスと営業に出かけ、顧客から同情をかう戦法で販売を伸ばした。
・音痴なカラオケとへたくそなゴルフで顧客に可愛がられる。そしてそれが武器になることを自覚していた。
・英語も大阪弁なまり。しかし、誰にでもわかる英語でとても上手いと各方面から大好評。
・内向きな社内業務に巻き込まれないようにうまくかわし、顧客営業を常に優先する。
・謝り上手。特に顧客に詫びを入れる際は、ものすごくすまなそうな表情で謝る。
その直後何事もなかったようにラーメンをすする。(全然関係ないが)ラーメンを食べていたら、のび太メガネのレンズが両方はずれ、ラーメンの汁の上にプカプカ浮かんでいた。
プライベートでは
・値切りすぎて量販店の店員に半べそをかかせたことがあるらしい
・オーストラリアで自分の過失で傷ついた車をWarrantyで無料で修理させた。交渉に何時間も費やし英語が上達した。
・お代わり自由のマックのコーヒーカップを持ち歩いていたという噂も・・・
・入社2年目で美人の奥様と結婚。大阪に在住の彼女に毎週末会いに通い、めちゃくちゃしつこかったらしい。
とまあ、ここまでは ちょっと面白い大阪の営業マンというどこにでもいそうなイメージだが、
彼をExcellent Business Manに仕立て上げたのは、何事も鉄の意志で成し遂げようとする姿勢だ。
よく「仕事は全てインプットとアウトプットから出来ている」といわれるが、彼はまさに
付加価値をつけてアウトプットを出すことに全ての情熱と執念を注いでいた。
しかもそのアウトプットは顧客に対して行うものだということが徹底されていた。
そういう意味では出世に必要な社内営業はあまり得意ではなかったかもしれないが、
最も大事な部分で最も付加価値を出すことに対しては、ふにゃっとした風貌からは想像できない
鉄の意志が存在していたように思える。
スッポンの隅防と言われる粘り強さで、いくつもの危機を救った。
決して天才ではないが、勝つための努力は絶対に怠らない。
特別な資格を持っているわけではないが、状況に応じて必要な知識を短期間で身に着け、
徹底的な理論武装で臨む交渉の場では、弁護士や会計士といったその道のプロも舌を巻き、
最後には相手が尊敬の念を持って接するまでになる。
決して表には出さないが、大変な努力をしていたのだと思う。
その努力を支えたのは彼の「自分が居ることで不可能を可能にしてみたい」という飽くなき想いだ。
石炭や鉄鉱石といった資源を輸入販売するという部署だったが、その業界にはあまり興味がなかったらしい。
しかし、仕事で泣き言を言っている姿も、仕事がつまらないと言っている姿も見たことがない。
どんな仕事でも、それがどんな小さなタスクでも、人よりも高いOutputを出すというチャレンジは出来るのだ。
私もことあるごとに言われた。
「何のためにお前がおるんや!?」
「不可能を可能にせい!」
「お前がやったことで何か変わったんか?」
そう言われながら、必死で彼のもとで働いた。雑用は容赦なくふってくる。
広辞苑みたいなLegal Documentの解釈を頼まれ、読んでいるうちに膀胱炎になった。
彼がシドニー、私が東京で勤務している期間、あるサプライヤーの商品を年内に売り切れと言われる。
「戸井、やってくれるよな?」「・・・はい」
「お前出来るって言ったよな? やると言ったことは絶対にやりきれ」
入社2年目の社員にそんなプレッシャーかけるか??と思いつつなんとか売り切った。
後で気づいたが、そのサプライヤーと内々コミッション契約をしていて、年内に売り切ったら口銭が、
シドニー事務所に落ちるようになっていたらしい。
まったく、とんでもない人だ。
そんなこんなで、どんな小さな仕事でも、「他人がやるのではなく、私がやったから○○になった」と言えるくらいのものを
自然と出そうとする姿勢が身についた。
考えれば考えるほど、これは私の社会人としてのコアを形成していると言わざるを得ない。
そしてもう一つ、その出した付加価値の方向が常に顧客を向いていた点も見逃せない。
「戸井、客に頼まれたら、それが何であってもすぐにやれ。それによって俺が依頼したことが後回しになって俺はお前を怒るかもしれん。
それでも客の依頼の方を優先しろ」
顧客志向、付加価値思考、難しい言葉で説明で掘り下げた仕事術書籍が書店に並んでいるが、実はあたりまえのことなのだ。
こんなにわかりやすい言葉で本質的なことを体に染み込ませてくれた上司に感謝の気持ちでいっぱいだ。
彼のそんな顧客第一主義がわかるエピソードをいくつか紹介しよう。
・顧客や海外サプライヤーからの電話が鳴り止まない。皆さん困ったら隅防明人に電話する。
彼が外出中や電話中に私を含めた課員が貼る伝言ポストイットで机の表面は見えなくなった。
・彼の番号の電話代が抜きに出て高額だった。
・それを上長から指摘され、「商社マンが人としゃべらんで他に何すんねん!」と反論する。
(ちなみに隅防氏のマネっこ乞食だった私は、戸井も電話代が高いと言われてちょっとうれしかった 笑)
・当時はまだ前時代的な力関係で商社を威圧する鉄鋼メーカー購買部だったが、某製鉄会社の購買課長が「隅防だけには専用のデスクを作ってやってもいい」と言った
・某製鉄会社では購買担当が変わると、「隅防には気をつけろ」という引継がなされていた
今、私はコンサルティングという当時の日本ではそれほどメジャーでなかった職種についている。
Client First, Real Value みたいな 横文字のコンサルティング会社のうたい文句を見るたびに、何か恥ずかしいようなおかしな気分になる。
隅防さんの背中を見ていた私からすると、なんとなく空虚なラベルに見えるからだ。
そんな彼に言われた忘れられない言葉がある。
言われた通りに書こう。
「戸井、みんななぁ お前のことなんか どうでもええ 思っとんのや。みんな自分のメリットにならん奴はどうでもええんや。どうでもええ思われんように、人のためにならなあかん。
そしてなぁ、『戸井がやってダメならもうダメだ』そう言われるくらいになれ 」
努力はしたが「戸井がやってダメならもうダメだ」そう彼自身から言われることはなく、その機会は永遠に失われた。
2004年7月、隅防明人は帰らぬ人となった。その葬儀の日は私が人生で最も多くの涙を流した日になった。
葬儀にはもちろん多くの人が駆け付けたが、驚きだったのは海外のサプライヤー、石油メジャー Shell Group の石炭会社のマーケティングマネージャーが
わざわざ海外から葬儀のために駆けつけていたことだ。
あれから10年、私が死んでも海外からわざわざ私の葬儀に駆けつける人はいないだろう。
あと数年すれば彼の歳に追いついてしまうが、ビジネスマンとしてはまだまだ背中も見えないと実感する。
いつかは追いつきたい。
分野は問わない。「戸井がやってダメならもうダメだ」そういわれるビジネスマンになりたい。
皆さんはサラリーマンという職種をどう思いますか?
「サラリーマンにはなりたくねぇ」なんて歌詞があったり、「サラリーマンはつらいよ」みたいなうたい文句もあります。
私はそうは思いません。なにしろ最も尊敬するビジネスマンは絵にかいたようなモーレツサラリーマンですから。
どんな職種でも、たとえ入社した会社が不本意でも、夢の職業につけなかったとしても、
仕事を成すということにおいて、彼が私に植えつけたマインドは不変だと思っています。
彼のようなビジネスマンが多く世の中に出てきてほしい。
凡庸な人間でも大きな価値をだせることを気づいてほしい。
私も含めみんなが彼のように前向きに働いてくれれば、倦怠感のないすばらしい社会になるはずだ。
そう願ってやまない。
PS :
世界的な資源開発会社であるAnglo American のオーストラリアのグループ会社と三井物産のグループ会社がオーストラリアの学生に対し、
日本への留学基金を立ち上げている。
その基金は、世間一般的には無名の、社長でも取締役でもない、一介のサラリーマンの名前を冠した。
その基金の名は 【Akito Sumibo Scholarship】 という。 →リンクはこちら
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