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会社が中から腐るとき/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2014年7月31日 14時48分

会社が中から腐るとき/日沖 博道

日沖博道 / パスファインダーズ株式会社

絶好の市場環境下で赤字を続けても根本的な改革に着手しないこと、それでも経営陣が叱責されないこと。こんな緊張感のない会社経営ではまともな人材は育たず、いずれ崩壊すること必至です。

友人から意外な話を聞きました。彼は最近になって突然に会社を辞めたのですが、その勤めていた中堅のシステム開発会社が連続赤字になりそうだというのです。

この景気回復の風を帆に受けて、ほとんどのシステム開発会社が受注・売上とも急速回復の途上にあり、しかもSE不足のために、リーマンショック以来極端に落ち込んでいた単価も相当回復基調にあると聞きます。業界の悪弊である値段の叩き合いもかなり影を潜め、無茶をいう客先からの提案依頼は丁重に辞退するという話を、幾つものSI会社やITコンサルティング企業から聞いています。SEとまともなPMさえ確保できれば他にまともな仕事がいくらでも出てくるので、おかしな仕事に手を出さなくてもよいのです。言い換えれば、それほど大したことのないシステム開発会社でも仕事に困らずに済む環境です。

そんな事業環境下で連続赤字を計上しそうだというのはどうした事情か、と小生は訝しんだのです。よほど営業がトロくて受注に苦しんでいるのかというと全くそんなことはなく、受注は計画以上だと云います。では景気回復前にでも引き受けた、極端に採算性の悪い大型案件のデリバリーが最近まで残ったとかいう特殊事情でもあるのかと問うと、そんなこともないと云います。

じっくり聴いてみると、次のような事情でした。この2年ほどの間、従来ではなかなか手を出せなかった大手企業の案件が続けて、親会社経由で舞い込んでくるようになり、張り切って受注したそうです。しかしいずれの案件も、あれこれと仕様の手直しや追加開発を余儀なくされて、提案時に考えていたよりもずっとSEリソースが必要になり、期間も長引いて、大幅にコスト超過になってしまったというのです。典型的な問題プロジェクトのパターンです。多くの中小規模案件については利益を上げているのですが、数件の大型案件での赤字により、全体としても最終赤字になってしまうとのことです。

どうやらそれらの大手企業は一種の「札付き」で、他のシステム開発会社で断られ続けた揚句、流れ流れてこの会社の親会社に頼み込んだのではないかと推測されます。要は、よく事情を知らないまま新規顧客の大型案件に喜んで食らいついたら「毒饅頭」だった、というところでしょうか。提案時の検討が甘かったことは間違いなく、要件定義までの作業にも穴が幾つもあったのでしょう。そもそもこの会社の実力ではそんな大型案件は身の丈を超えていたとも云えます。

仕様変更や追加要望に関してきちんと契約で詰めもしないし、上流工程で無駄なプロセスを整理することもしない「純日本式のシステム開発」の現場では、こうした問題プロジェクトは往々にして生じるものです。ですからその事実自体には驚きはありませんでした。

小生が驚き、かつ呆れたのは、一つにはこうした問題プロジェクトをその後も繰り返しているということです。普通は最初の2~3件で大いに反省し、営業とエンジニア達の振る舞いを全く変えるよう、会社として躍起になるはずです。この会社では個々のプロジェクト採算が大赤字になることで大騒ぎにはなったそうですが、相変わらずその癖の悪い大手企業数社から受注を続け、傷口を広げているそうです。仕事の進め方も根本的に変わったわけではなく、単にPMから経営陣への報告頻度が上がっただけだそうです。

もう一つの驚きは、そうした経営状況にも拘わらず、経営陣の更迭や担当見直しはされていないとのことです。明らかに経営陣の判断ミスと対処に関する怠慢が赤字につながっているのですから、上場企業である親会社から責任を問う声が上がるのが普通だと思うのですが、少なくとも表面上は何もないそうです。

よくよく聞いてみると、この会社の経営幹部はほぼ全員、親会社トップの子飼いだそうです。親会社からは出向ではなく転籍という形で、子会社でいいポジションを与えられた模様です。そのため経営陣同士はとても仲がよく、業績を競うことも足を引っ張り合うこともないそうです。しかも業績のよい親会社からすると、この子会社の赤字はどうやら少なくとも現時点では大して問題視されていないようなのです。

何とも不思議な事態ですが、こうした緊張感のない経営を続けている限り、まともな人材が育つはずもありません。この会社が自律的に赤字を脱することは難しいでしょう。会社は既に中から腐り始めており、遠からず外目にも崩壊が見えるようになると想像できます。そうなってから親会社が立て直しをしようと思っても、まともな人材は既に逃げ出しているのではないかと、他人事ながら心配になってしまいます。

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