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新規事業における素朴な疑問 (1) “万能”手法の信奉/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2015年8月13日 7時5分


        新規事業における素朴な疑問 (1) “万能”手法の信奉/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

弊社がお手伝いする経営コンサルティングのテーマで今一番多いのは新規事業だ。独自技術などの適用領域から考えるような新規事業の「開発」のケースから、既に数年前から始めてはいるけれど期待通りに伸びないので方向性・やり方を「見直し」たいというケースまで、色々な背景事情がある。

小生個人としては4半世紀にわたってそうしたお手伝いをしているが、今までどうしていたのかをお聞きすると、素朴な疑問を抱くことが少なくない。その主なものをシリーズ的に取り上げたいと思う。今回はその1回目。

大半の企業が新規事業に取り組んでいるが、経営者の方々のある行動が大きな問題を生むことが往々にしてある。それは流行の手法を自社に盲目的に適用しようとすることだ。

世の中で注目されている「○○戦略」とか「XX理論」とかいうのを書店やウェブで見つけ、経営セミナーで専門家の話を聞くと、なんだか自社でもすごく効果がありそうに思えてくるようだ(当然ながら「専門家」たちはそう思ってもらうように語るのだが)。これは実は新規事業に限る話ではなく、業務改革や管理統制など他の経営イシューでも同様の傾向があると思える。

関心の強い経営イシューにおいて専門家である経営コンサルタントや大学の教授などに相談をすることは正しいはずだが、彼らにぶつける質問の仕方に問題があるようだ。いきなり「この手法はどうやったら我が社にうまく適用できるだろう」といった、適用することを前提とした尋ね方になってしまうのだ。当然ながら答える側もその前提に乗って、しかも質問者の興味を逸らさないように答える。

でも本当はまず、「我が社の状況において新規事業は本当に必要なのだろうか、もしそうならどういった位置づけの新規事業が望ましいのだろう」という自問があり、その上で「ではどういった考え方で新規事業開発に取り組めばよいのだろう」というアプローチに関する問いが続くべきだ。

その上で、自社のおかれている経営状況とそのアプローチの考え方に当該の手法がぴったり合うのであれば、初めて「その手法をどうやって適用すべきか」という話につながるはずだ。もしどうも合わないのであれば、「この手法を適用することはお薦めできません」というアドバイスがあるべきだが、必ずしもそうはならないようだ。

身近な例で考えてみよう。ダイエットしたい人は世に多いが、その時に流行しているエクササイズや運動マシーン、サプリメントに飛びついて買ってしまい、長続きせずにお金の無駄使いを繰り返す人が少なくない。本来なら、まず医師に相談して自分の体質や生活パターンに合ったやり方を検討すべきところだが、テレビショッピング番組を観ているうちにその気になってしまい、衝動買いしてしまうのだ。

企業経営でも同様に、世間で評判になっている経営手法に経営者が飛びついてしまいがちなのだ。いわば“万能”手法にめぐり遭ったかのように。

でも、その企業・事業部門の背景・状況が異なるにも拘わらず一律のアプローチおよび手法で取り組もうとすると、まったく事業体としてのフィット感がないまま、貴重な経営資源を注いで関係者が懸命に努力しながらも、成果に結び付かない事態になりやすいのだ。

例えば、本来なら事業部門のサイズに合った小振りの一連の事業群を続けざまに創出すべきところを、身の丈に合わない大型事業を一発創出しようと躍起になった揚句、競争相手にことごとく先を越されてしまう、といった事態を招くリスクが高まる。無理なダイエットが長続きしないばかりか、リバウンドによって却って肥満が悪化するようなものだ。

実は新規事業の開発アプローチ(取り組みの考え方)というものは主なものだけで幾つかある。例えば弊社では3つの類型に整理している。

一番オーソドックスなのは「競争戦略」アプローチで、既存の市場・産業の枠組みの中でどう勝ち残っていくかを考えるものだ。主に市場が確立している場合に適用する。

次は「新カテゴリー創出」アプローチで、ビジネスの枠組みは既存のものを前提としながらも、ユーザーは今とまったく異なるカテゴリーを本当は欲しがっているのではないかということを考えるものだ。これは主に市場が成熟している場合などに適用する。

最後は「ビジネスモデル改革」アプローチで、(商品カテゴリーは既存のものであっても構わないが)ビジネスの仕組みそのものを変えてしまえないかと考えるものだ。これは、市場が立ち上がる前後や市場が成熟し切っている場合に主に適用する。

この順にリスクも段々高くなるので、当該の企業および事業部門の置かれた経営環境や競争環境、人材資源なども考慮して、どのアプローチが最適かを推奨する。その最適アプローチに沿って、(時間・コスト・人的資源など)与えられた条件下で最も成果を出せると考えられる具体的な手法を選別し組み合わせて、当該の新規事業推進のプロジェクトを設計する。

【参考】新規事業には4つの方向性がある http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-91....

なぜこんなに個別の対応をする必要があるのか。それは新規事業の開発は戦略開発でもあり、そこでは手法が答を自動的に導き出してくれるものではないからだ。

答はあくまで市場および企業内にあり、アプローチや手法は企業関係者が自社にとって適切な「問い」と「答」を導き出すための方法論に過ぎない。したがって千差万別の背景・状況ごとに最適のアプローチは異なり、それぞれのアプローチに応じて適用すべき戦略手法や分析手法は一律絶対ではないのである。

それらの適切な選別、推奨、設計をお手伝いするのが本来の専門家の役目のはずだが、実際に多いのは特定の手法に関する「専門家」と称する人たちだ。この人たち(の一部?)に言わせると、彼らお薦めの手法は万能のようだ。いずれの企業でも最善の新規事業を生み出すことができ、あーら不思議、企業業績は一挙に改善するというのだ。本当にそんなことがあるのだろうか。

どこかで見かけた「あなたも1ケ月でこんなに痩せられます!」という宣伝文句を思い起こさないだろうか?

(本記事は2014年10月13日に掲載されたものを再編集しております)

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