新規事業における素朴な疑問 (5) 共有化されない失敗体験/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2015年9月10日 7時5分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
前回の記事でお伝えしたように、新規事業の失敗事例に関して色々な企業関係者にお訊きすることがあるが、もう一つよく尋ねる質問は「新規事業で失敗した人に体験を話してもらい社内で共有する場はありますか?」だ。
ほぼ例外なく「いや、それはないですね」「いい考えだけど、難しいなぁ」といった反応が返ってくる。実にもったいない話である。
大抵の会社が新規事業で失敗したプロジェクトチームまたは担当部署を解散させ、元の新規事業とは直接関係のない仕事に回ってもらうのが普通だ、という話を前回の記事でお伝えした。
その後は多分、「腫れものに触る」ような扱いになってしまうのだろう。その体験を語ってもらう場を設けているというケースは滅多に聞かない。「難しいなぁ」と言われるのは、いわば敗者の傷口に塩を塗りつけるような行為だと感じるからだろう。
でも新規事業に取り組んだのは(仮にその人たちが提案したのだとしても)社命だったのだから、担当した人たちがこそこそ逃げ隠れする必要はない。もちろん、事業立ち上げに失敗したのだから、「面目ない」という気持ちは理解できるものだ。その感情をよく汲んであげることも必要だろう。
しかし会社としては貴重な人材と時間を投資したわけだから、たとえ失敗した後でも、いや失敗した後だからこそ、その時点で投資から回収できるものは回収すべきだ。それはこの場合、失敗した経験から社内の他の人が学べる「教訓」という情報だ。
前回の記事でもお伝えしたが、新規事業の現場で得た教訓は教科書や社外のセミナーなどでは決して得られない、貴重な1次情報だ。新規事業の開発・推進の過程で体験した数々の分岐点での迷いや決断、堂々巡りや勘違いの数々、それらから得られる教訓。
成功者の体験話を伝えるセミナーは多いが、大抵の人には状況が全く異なるため、それほど役に立つわけではない。むしろ失敗した人の体験談のほうが役立つことが多いと云われる(ただし、失敗談を他人におおっぴらに話す人は稀だが)。それと似たようなもので、会社としても失敗体験のほうが教訓は得やすいものだ。
本音でのQ&Aも期待できる。外部のセミナーでは遠慮して訊けないような、「なぜそこで思い切って投資しなかったのですか」「いや、そうしたかったけど、上層部を説得できなかったんだ」「説得材料を揃えられなかったということですね?」などと白熱した突っ込みも出るだろう。
新規事業に失敗したばかりの人たちには、必ずといってよいほど「あそこでああすればよかった」などの思いがある。それらを現在または将来新規事業に取り組む社内の人たちと語り合うことで、2つのグループにとって効果がある。
一つは先に述べたように、これから新規事業に取り組む人たちに、用心すべきポイントをより鮮明に伝えることができる。もう一つは、実は失敗したばかりのご当人たちにとっても、より客観的な「出来事の消化」にもなり、前向きになるきっかけにもなるものだ。
なぜそんなに確信を持って言えるのか。実はこうした仕事柄、小生は大企業での経験豊富な方々とお話しする機会があり、そうした場で過去の新規事業での失敗体験をお話しいただくケースが少なくない。
彼らは「もうすっかり時効ですが、部下にはなかなか話せず…」と言いながら、とんでもない失敗を明るく話してくれる。そして失敗を他人に話すことで、その時の自分を客観視できると皆さん仰る。
その意味では、こうした失敗体験の共有化を行うタイミングというものはよく考えるべきだ。
あまりに時間が経ち過ぎていては細部を忘れてしまっているかも知れない。それでは体験談に迫力がなくなるか、脚色が入りかねない。でもあまりに直後で、本人たちも消化し切れていない状態だと、客観性に欠ける。悔しさが勝って、「あいつが悪い」とか「なぜ本社連中は助けてくれなかったのか」などという恨み節を振り回されても、誰も得るものはない。
したがって、少しだけ冷却期間を置いてから社内共有をするのがベストだと思う。
また、当人が一方的に話すばかりでも盛り上がらないし、聴講者とのQ&Aばかりでも論点が偏ってしまいかねない。うまくファシリテートしてあげる人がいると、こうしたセッションが有意義な場となる。
最初は新規事業の担当部署だけでもいいので、こうした試みを始めてみないだろうか。
(本記事は2014年11月17日に掲載されたものを再編集しております)
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