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構内通路での「右側通行」指示が混乱を招く/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2014年12月4日 16時38分

構内通路での「右側通行」指示が混乱を招く/日沖 博道

日沖博道 / パスファインダーズ株式会社

世の中にある「折角なのに惜しい!」シリーズの第2弾は、駅などの構内通路での通行方向表示。首都圏と大阪では右側歩行を指示することはかえって混乱の元。

朝夕のラッシュに限らず人通りの多い首都圏の駅構内やデパート等の通路ではひっきりなしに人が行きかい、初めて見た外国人や田舎から出てきたばかりの人には相当な驚きのようです。「よくぶつからないものだ」と。でも実際には(スマホ歩きのせいか)うっかりぶつかっている人たちも時折いますし、危うくぶつかりそうになって何とか避けるといった場面を目にすることは決して少なくありません。

利用者が多い通路なのに、そうした場面が少ない場所と多い場所があることはご存じでしょうか。もちろん、時間帯によって人の流れがほとんど一方通行になるような所ですと動線も何もあったものじゃありませんので、これは除外するとして。

人とぶつかりそうになることが少ない通路というのは、構内動線がよく考えられていて人の流れがスムーズだということです。こうした所では通勤ラッシュの時間帯でも多数の人の流れに乗っているだけで、混乱なく乗り換えや出入りができるようになっています。その動線を作るポイントになっているのが、足元や頭上に表示されている進行方向を示す矢印や「ここでは○側通行」という表示板です。実際、路上や階段にプリントされた矢印はシンプルながら実に分かりやすい「アイコン」です。

ところが、同じように進行方向を示す矢印や「ここでは○側通行」などがしっかりと表示されていながら人の流れがスムーズでなく混乱しがちな通路が首都圏内には幾つもあります。これは動線設計に失敗しているためですが、往々にして通路を右側通行にしている場合の入り口付近や他通路との合流部分で発生しがちです。もしくはそれほど多いわけではありませんが、駅の改札口での人の出入りパターンとその先の通路の通行方向とが入れ違いになっている場合などです(改札口を出るときは右側通行なのに、通路では左側通行を指示されているようなケースで、小生のよく使う地下鉄のM駅がまさにそうです)。

ではなぜ通路を右側通行にしている場合に人の流れがスムーズでなくなるのでしょうか。都心の比較的狭い通路や歩道を通る際、特に何の通行方向指示もない場合には、左側に寄って逆方向から来る人とすれ違おうとする人が多数派だという行動観察結果が幾つもあるそうで、どうやらそれと関係しているようです。つまり自然に任せておけば、首都圏の歩行者の多数は左側通行しようとするのに、通路の管理者がその逆方向を指示しているため、表示通りに進もうとする人と表示を無視して進もうとする人がぶつかりそうになるわけです。

駅や商業施設などでの通路を管理する方々は当然ながら人の流れをスムーズにしたいと考えているはずで、だからこそ通行方向を示す矢印や「ここでは右側通行」といった表示を掲げているわけです。であれば是非、多数派の歩行者の自然な行動パターンを取り入れた動線を設計していただきたいと切に思います。この流れに逆らう動線を設計すると、意に反してかえって歩行者同士がぶつかりやすくなる通路が出現することになってしまいます。

ちなみにこの「歩行者は左側通行が自然」というのは絶対的な法則ではありません。首都圏および大阪地区に限ると云ってもよいかも知れません(名古屋ではあまり聞きません)。

都心ではかなり顕著なことに気づいて、「武士が右手で刀を抜きやすくするため」とか「左側にある心臓を守る心理が働くため」とか、いかにももっともらしい説を述べる人もいますが、地方都市に行けば人によってバラバラです。通りを歩く人たちを描いた江戸時代の絵ではやはりバラバラだそうです。ドイツでは逆の右側歩行がかなり徹底されていますが、ほとんどの国ではやはり人によってバラバラです。つまり人間本来の習性や心理とは全く関係なく、単に社会的に習慣づけられているかどうかのようです。

ついでの話ですが、周りが左側歩行しているのに「クルマは左、人は右だ」という誤った信念のために流れに逆行しようとする頑固者もたまにいるようです(実行はせずともそうすべきと信じている人の「居酒屋演説」を聞いたこともあります)。日本での「クルマは左、人は右だ」という道路交通法はあくまで歩道と車道の区分のない一般道路を通行する際に適用されるもので、クルマが通行することのない構内通路や歩道には適用されません。念のため。

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