テレビの人質騒ぎは利敵行為/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2015年1月29日 11時28分
純丘曜彰教授博士 / 大阪芸術大学
/北朝鮮拉致問題と違って、戦場ジャーナリストの人質問題の背景には、軍事的な理由がある。それに口をつぐみ、世間の関心だけを煽るなら、「愉快犯」を図に乗らすだけ。/
なにもしない、なにもできないのに、ただ商売ネタとして騒ぐのは、連中の思うツボ。半端なコメンテーターやゲストがやたら深刻ぶって、おまけに自称親族みたいなのまでがわけのわからない主張の場に利用しているが、「人命は地球よりも重い」みたいなレベルの話に終始し、戦場ジャーナリズムの本当の問題について口をつぐむなら、かえって自国民を欺くだけ。もっとも、マスコミの中にもトンネルがあるのだろうから、それを隠すのもわからないではないが。 もちろん戦場ジャーナリスト本人たちは、ほんとうに人道的使命感で現地取材に命を懸けるのかもしれない。だが、彼らの真の重要性は、軍事的理由だ。だから、法外な価格で彼ら写真を買い取るやつらがいる。現代戦の空爆は、攻撃側の被害を最小限に抑えて敵の威力を削ぐという意味では、とても有効だ。しかし、それは内地攻撃であり、いくらピンポイントを狙っても、どうしても民間人を巻き添えにしてしまう。この事実は不都合だ。だから、写真を高く買い取る。買い取ってしまえば、編集権は買い取った側にある。残酷すぎる云々の理屈をつけて、結局、握りつぶすこともできる。根本のところは、パパラッチやゴールドラッシュと同じ。取材活動費用の捻出のためには、そういうヤマも必要なのだ、と言うかもしれないが、本末転倒も珍しくはない。 それどころか、じつは、なんでもない現地の日常の写真でも、軍事的にはかなり重要で、相応の需要がある。空爆は、現場をグチャグチャにしてしまう。そのために、成果がわからなくなる。いくら衛星をつかっても、垂直構造のダメージがわからない。(だから立体映像に力を入れている。しかし、先方も、昨今、防空前提で地下構造が当然。)だが、現地の写真があれば、その風景の建物などの破壊具合から、かなりの情報を読み取ることができる。現地のウワサや、そこからわかる心理的動揺なども、次の軍事作戦には不可欠。戦場ジャーナリストは、いくら本人が平和の使者のつもりでも、意図せずして、大量の情報を敵国側にもらしてしまう。だから、先方は、見つけ次第、始末するのが原則。 じゃあ、なぜ人質か、交換条件か。かってに自分の商売で危険な地域に入ったやつの救出で、人道理由に国家が右往左往するのか。上述のように、戦場ジャーナリストは、一般に、ヒューミント(人的情報収集)におけるキーパーソン。本人の意図とは無関係に、連中を使っているやつらがいる。彼らは、あくまで個人的友情と称して、組織的に戦場ジャーナリストの私的活動を支援している。だから、人質を締め上げれば、国内外の支援者が焙り出される。だからまた、人質は、なんとか生きて取り返し、どこまでゲロってしまったか、早く報告させ、手を打たないと、潜入内通者たちや、間接支援者たちが危うい。解放までの時間がかかっているあいだに、これらが裏で順に始末されていくようなことがあれば、組織がまるごと一網打尽。 そんなスパイ映画みたいな話、日本じゃありえん、中学生の陰謀説だろ、と思うかも知れないが、世界の中では「平和国家」を称する日本はどこの国にでも穏便に拠点を作れて、意外に大手なのだとか。ただし、日本のインテリジェンスは、戦前から内国公安(といっても征服域を含む)中心で、戦後も表向きはそういうのは無いことになっていたので、近年の国際化とともに、これが内閣(警察)と防衛省、外務省でいろいろとややこしいらしく、新人が調子に乗って隙間に落っこちたり、そのチューターが独断で動いて、かえって馬脚をさらしたり、と、いろいろ問題も起こるのかも。 ここのところ、政府の方が北朝鮮拉致問題以上に動いているのに、この話をこれ以上、マスコミが騒ぎ立てれば、つまようじ少年みたいに、愉快犯を図に乗らすだけ。そんなこと、「中東専門家」とやらならば、みんな、わかっていて当然じゃないの。自分自身に手がないなら、政府の対応を見守る、寺社か教会で黙って祈りを捧げ、公式発表を粛々と待つ、という方が、お行儀よくないか。他の戦場ジャーナリストとやらも、ごろごろ出てきているが、あんたら、平和の使者気取りで、いらぬことをして、こんな風に、かえって戦争を引き起こしたりしないよう、もっと自重しろよ。(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近著に『悪魔は涙を流さない』などがある。)
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