物流が危ない/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年2月18日 15時6分
野町直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
昨年の丁度今頃だったでしょうか。ある企業の役員と話をしていてその方からこう言われました。「野町さん、これから10年位で一番良い商売は物流だよ。トラックと運転手抱えていれば食べるに困ることがないよ」と。
昨年の丁度今頃だったでしょうか。ある企業の役員と話をしていてその方からこう言われました。「野町さん、これから10年位で一番良い商売は物流だよ。トラックと運転手抱えていれば食べるに困ることがないよ」と。
物凄く印象に残った言葉でしたが、実際に昨年から今年にかけて物流逼迫の状況が進んでいるようです。それを実証しているのが各メディアにもあらわれています。1月にはNHKで「モノが運べない!?"物流機器"」が取上げられました。
また最近では日経ビジネスで「物流の復讐」というシリーズで逼迫の状況が記事になっています。2013年のアマゾンショックやそれに続くヤマト運輸の配送料の値上げ要請、今般発表されたヤマト運輸のメール便サービスの中止等々、様々な理由や背景はあるものの物流についてこれだけメディアで取り上げられ、着目されていることは今までにないかもしれません。今の物流逼迫の原因を一言で言うと「ドライバー不足」です。国土交通省は2015年にドライバーが14万人不足するとの試算を示していますが、はっきりした全体像や実態は把握できていないようです。一方で特に大型トラックの運転手は高齢化が進んでおり、賃金の低さや過酷な労働条件、労働環境が若者のドライバーへのなり手を少なくしているといった状況。ドライバー不足問題は実は1988-90年のバブル経済当時にも叫ばれていました。
その当時もドライバー不足が物流逼迫につながっており、モーダルシフトや共同配送、返り便の活用などでトラック依存度の低下や積載効率の向上をしていかなければならないと言われてました。しかしバブル崩壊とともにそのような声もどこかに消えてしまったのです。実際にトラック物流の物量は1975年の62,327百万トンキロから2009年の242,658百万トンキロとコンスタントに量は増えています。(2010年以降は統計の集計方法が変更されたため比較できず)一方で同じ営業用普通自動車の実働率(トラック1台が実際に稼働した日数の比率)と実車率(車両の走行したキロ数にうちに実際に貨物を運んだ比率)を掛け合わせたいわゆる稼働率を見てみると、1975年40.83%から1988年には50.13%と10%程度改善されています。しかしその後は下降、横ばい傾向が続き最新のデータの2013年度では48.69%となっています。このように荷物の量が増えたり、時間指定配送や小口配送、短時間での配送など様々なサービスが多様化されたりしていることに対して、効率化は殆ど進んでいない状況ですから人手不足が悪化していることも当たり前です。こういう時代に我々は何を考えなければならないでしょうか。日経ビジネスオンラインで国土交通省の羽尾物流審議官はこうおっしゃっています。
「・・もっと物流起点でビジネスモデルを作らなければいけない時代になったと言えます。他社よりも優位に立つためには、もはや物流は無視できない要素です。」その通りです。物流起点のビジネスモデルという点から2つの視点が欠かせません。
一つはコストの視点であり、もう一つは付加価値の視点です。昨年の2月に私はこう書きました。「供給企業の力を超える無理な安価であれば、いつかは是正する方向に向かいます。つまりいつかはどこかに歪みが生じ、その歪みを解消する力が働くのです。」これは配送料値上げについて述べたことです。コストの視点とは正にこういうことです。従来であれば物流コストは目に見えないコストとされていました。また圧倒的に荷主企業が強く、荷主企業の言うことを聞かざるを得ないという状況だったのでしょう。しかし、コストはかかっているのです。
コストがかかっている、またいくらかかっている、ことを認識していなければ、コストを下げようという努力にはつながりません。高いコストであることを認識した上で荷主自らが物流コストを下げることに協力しなければならないのです。先ほどの積載効率のデータを見ても物流コストを効率化によって下げる余地はあります。コストを認識し、妥当な費用を払うことで業界全体の賃金引き上げにもつながり運転手不足の解消にもなるでしょう。インターネット通販などのサービスが拡大している今、送料無料というのは非常に魅力的です。しかしコストはかかっているのです。そのコストを認識した上で妥当なコストは払う、高いコストは協力して引き下げる、という方向に向うべきでしょう。もう一点の付加価値ですが、これは日経ビジネスでも紙面を割いて取り上げられています。アマゾンもそうですが多くの企業が物流を顧客に対する付加価値として考えています。日経ビジネスの中で今回初めて聞く二つの言葉がありました。
「ダークストア」と「ラストワンマイル」です。「ダークストア」とはネットスーパーの専用拠点で顧客の来店を前提としない消費地に近い倉庫のような配送専用店舗のことを言います。「ラストワンマイル」というのはダークストアのような最終拠点から消費者に届けるまでの最終行程のことです。昨今多くの企業がB2C向けサービスの拡充を図るために、この「ラストワンマイル」のサービス拡充に目を向けているのです。
このように短時間配送、時間指定、小口配送などの消費者向けサービスを大きな付加価値として捉えていることが理解できます。これらのサービスがもっと進化すれば店舗という概念すらなくなるかもしれません。また品揃えや仕入力といった従来の流通での強みよりも物流の力を持っていることが流通を牛耳ることにもつながるでしょう。このように一見全く反対の方向に見えるような2つの視点ですが、いずれも物流を起点としたビジネスモデルを構築、ということなのです。さて、こういう時代に調達購買部門やバイヤーはどうすればよいでしょう。従来であれば物流コストがいくらかかっているか意識しているバイヤーはあまりいませんでした。何故なら国内取引の場合にサプライヤはバイヤー企業の工場軒下渡しが取引条件であり、自社で(インバウンドの)物流費を負担している企業は殆どないからです。またサプライヤからの見積り上も物流コストは販管費の一部として含まれていることが多く、別費用として請求されることはあまり多くありませんでした。
まずはこれを変えましょう。実際にコストはかかっているのですから、そのコストを明確にすべきです。コストが明確になればそのコストが妥当かどうかの判断ができます。妥当なコストについては支払うべきです。またそのコストが高いのであれば効率化を進めるきっかけになります。かかっているコストを見える化することが逼迫する物流および物流コスト値上げに対して行う最初のアクションとなるでしょう。
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