1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

高齢者がお金を遣えないわけ/日野 照子

INSIGHT NOW! / 2015年2月24日 8時56分

高齢者がお金を遣えないわけ/日野 照子

日野照子 / 無所属

年間559億の被害。オレオレ詐欺に流れるお金をシルバービジネスへ回すために必要なこと。

 変な話だが、オレオレ詐欺の報道を見聞きしたとき、随分金持ちだなと思われたことはないだろうか。もちろん被害者が、である。いくら息子のため(娘を装うケースはほとんどない)とは言え、数百万も、時には1千万、2千万をポンと支払えるという事実が、そう思わせる。やっぱり今の高齢者は金持ちなんだ、と誰もが思うだろう。年金をいっぱい貰って、バブルで儲けた資産で遊んで暮らしているんだろうな。なのに、高齢者割引とか優遇するなよ。そんな風に思っている人は多いに違いない。 いわゆるオレオレ詐欺に代表される「特殊詐欺」と呼ばれる犯罪の統計*1を見ると、H26年1年間で、警察による認知件数が13,371件、被害総額は559.4億に上る。なんと「被害者単価」は平均412万である。ご承知の通り、「特殊詐欺」の被害者はほぼ高齢者である。オレオレ詐欺被害者の92.1%、還付金詐欺の93.4%、金融商品詐欺の87.6%が65歳以上だ。警察に認知されていないものを含めたら、想像を超える量の高齢者が騙されていることだろう。要するに、犯罪者たちは「お金持ちの高齢者」を的確にターゲティングしている。 確かに高齢社会白書*2 を見ても、(元データの都合で二人以上世帯に限定されているが)、高齢世帯は平均2,209万円で、全世帯平均1,858万円よりも資産がある。1000万円以上の貯蓄がある世帯も、各金額レンジで全世帯比より高齢者世帯比の方が高い割合で存在している。もっとも長年、働いてきたのだから当たり前と言えば当たり前である。 しかし、後期高齢者である自分の親の生活を見ていると、疑問に思うことがある。世代的に年金はそれなりに貰えているし、持ち家なので家賃もかからず、資産もそこそこある(らしい)。なのに、爪に火を灯すように、1円でも安いものを選んで買う。いつまでも壊れかけの家電を使い続け、発火すると困るからと説得してようやく買い替える。一時が万事、そんな感じなのである。せっかく貯めたお金をもっと好きに遣わないともったいないと、私などは思うのだが、欲しいものもないしなどと言う。周囲と話をしていると、それほど珍しいタイプでもないようだ。 高齢者の経済状況統計にもそれは表れている。先の貯蓄額調査対象の高齢者に質問すると、貯蓄の目的の62.3%は「病気・介護への備え」で、趣味や旅行のためだと答えた人は6.2%しかいない。決して、ただ余っているのでも、遊ぶために無駄に抱え込んでいるのでもない。不安なだけなのである。
 彼らが予想していたよりはるかに長生きする世の中になってしまった。いつまで生きるかわからない。残りの人生、頼れるのは自分のお金だけ。これでは、多少余裕があるくらいでは、高齢者はお金を遣えない。政府や世間が、金銭による自助努力ばかりを謳うので、不安は募る一方だ。おまけに、犯罪者が資産を狙ってありとあらゆる騙しのテクニックを駆使する。誰も信じられない。守らなきゃ。守らなきゃ。しかし、彼らの不安はなかなか理解されない。 例えば先日、ネットで流れていた新聞記事*3で読んだのだが、振り込め詐欺で捕まった被疑者に罪悪感はないらしい。「高齢者がカネを持っていて何の意味がある。俺たちがそのカネで日本の経済を回してやっているんだ。」との強弁である。
さらに、この記事には「そうだ貯めこむな。(振り込め詐欺の)やり方は間違っているが一理ある」などというコメントがたくさん付くのである。基本的には犯罪者と意識は変わらない。
 余っているお金をただ抱え込んでいるのだと、なぜわかるのだろう。振り込め詐欺にあうと、何故か騙される被害者が馬鹿なのだと責められる風潮があるが、どう考えてもおかしい。それがどのような形であれ、子供への愛情によって騙されたにも関わらず、当の子供に責められることもよくあるらしい。騙す方より騙される方が悪い。貯めこんだカネを抱え込んでいる方が悪い。なんだろう、この考え方。そんな風な社会だから、人間関係だから、高齢者に安心してお金を遣ってもらえないのだ。 いろんな意味で、もったいないと思う。不安ゆえに貯めこまれ、結局遣い切れなくなる大量の資産。高齢者が安心して、自分の楽しみや幸せのためにお金を遣えるようにできないだろうか。その分のお金が、若い世代に正しく落ちる循環が作れないだろうか。医療や介護だけでなく、もっと若者のためになることに高齢者がお金を遣い、例え遣い切っても安心なセイフティネットを作れないだろうか。高齢者と若者がwin-winになるシルバービジネス。超高齢社会の日本はまだまだこれからの優良市場である。ひとつ考えてみてはいかがだろうか。*1 警察庁広報資料「H26年の特殊詐欺認知・検挙状況等について」
http://www.npa.go.jp/sousa/souni/hurikomesagi_toukei2014.pdf
https://www.npa.go.jp/sousa/souni/hurikomesagi_toukei.pdf*2 内閣府「H26年版高齢社会白書(全体版)2高齢者の経済状況」
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2014/zenbun/s1_2_2.html*3 産経新聞デジタル 2015.2.14配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150214-00000523-san-soci

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください