顧客満足の向上に取り組んでいるかどうか?お通しから見えてくる例/小笠原 昭治
INSIGHT NOW! / 2015年3月1日 20時3分
小笠原昭治 / インターアクティブ・マーケティング
お通し一つ見るだけで、飲食店の店長や、経営者が、顧客満足に取り組んでいるかどうか見えてくる実例
【目次】1)お通しと、顧客満足2)お通しは、契約なき商取引3)お通しは、選択権を簒奪する4)お通しは、総予算を侵食する5)お通しと、パーミッション・マーケティング
1)お通しと顧客満足
つい先日、旧友と飲む機会がありました。「どこで飲みましょう?」「近場にしましょう」と、宿泊中のホテルに近い居酒屋へ飛び込みました。魚がウリの居酒屋らしく、しらすの小鉢がお通しに出てきたので、問うて筆者、「この小鉢は、有料?」答えてホールスタッフ、「はい、有料です」「お通しを有料にすると、顧客満足度は下がるよ?」「は?」「知ってて出した?」「あのぅ~、意味が、よく分からないんで、店長に訊いてきます」「いやいや(手を振って)、訊かなくても(笑)いいって」そんな会話が交されたあと、数分後に、店長がスッ飛んで来て、「お通しが有料だと、顧客満足度は低くなるとか?」と訊ねられることは、ありませんでした。察するに、・スタッフが、店長へ報告しなかったか・報告を受けた店長が、無視したか・みんな忙しくて、それどころじゃなかったか・お通しの意味が分からなかった(関西では「つきだし」と呼ぶため)か何らかの事情があったのでしょうし、筆者としても店長さんへ教える義理などありませんから、それはそれで構いませんが、今日び、顧客満足の四文字を知らない接客係がいるのには驚きました。(たとえアルバイトだったにしても)それが現実なんですねえ(驚)コンタクトポイントが如何に重要か、その基本を教えずに接客させているケースが意外と多いのかも知れません。接客係の態度一つ、笑顔一つ、仏頂づら一つで、新規客が、リピーターになるか?二度と来ないか?決まるといっても過言ではありませんから、売上が下がるか?上がるか?は、経営者でも、社員でもなく、接客するアルバイトに委ねられているといってもいいでしょう。そのアルバイトが、顧客満足の四文字すら知らずに接客しているとしたら、経営者として、店長の立場として、そら恐ろしい話ではありませんか?2) お通しは、契約なき商取引
その友人は、某社のマーケティング部長だけあって、「お通しが有料だと、顧客満足度は下がるんですか?」と、さすがに聞き逃しませんでした。もともと、お通しは「お客さんを席へお通しして下さい」という、板場から仲居さんへのサインが始まりといわれています。席料やサービス料の意味もあるようですが、スナックバーでは、席料(テーブルチャージ)とは別に、お通しを出す店もあります。さらに、チャーム(菓子)まで出す店もあります。「座っただけで数万円」のカラクリは、席料+サービス料+お通し+チャーム=数万円という店側の論理によります(店側の論理←ここが重要)それを世間では、ボッタクリ(笑)と呼びます。「買います」と、購入の意思を示す前に、内緒で課金するのは、頼んでもいない商品を、強制的に押し売りする、軽犯罪に近いといえましょう。「は、犯罪だなんて、野暮なことを」という反論もあるでしょう。確かに、宴は文化であり、通や粋、暗黙の了解といった特殊観念が罷り通ります。「お通し一つに、ガタガタいう貧乏人が、酒なんか、飲みに来るんじゃねー」という暴論さえ(笑)まかり通ります。ゆえに、その文化に甘んじてきたともいえます。お通しの意味を深く考える必要がなかったのでしょうし、さらには、顧客満足(CS活動)やマーケティングの視点で考える必要もなかったのでしょう。そもそも商取引は「この商品を売ります」「それ買います」という両者の合意に基づく契約が基本です。その合意なくして、勝手に課金するのですから「商取引の基本に反している」のが顧客満足低下の一つ目の理由。要するに、お通しは、ビジネスの原理原則から外れているのです。3)お通しは、選択権を簒奪する
二つ目は、お客さんに選択権が無いこと。「選ばせよ。選ばれれば売れる」という選択論に反し、来店客は、お通しを選べません。出てきた食品を、黙って食べるか、箸をつけずに残すしかありません。黙って食べさせる → 選ぶ楽しみや、所持金を何に使ってもいい消費の自由を奪うルールの押し付けです。残して捨てる → モッタイナイが世界共通語になりつつあるなか、時代に逆行する前時代的な考え方で、4秒に1人が餓死している飢餓指数の高い国々に、申し訳が立たない蛮行です。それでも何故お通しを「黙って出す」のか?なぜなら、利益率の高い、売りたい商品だからです。お通しを観察してみれば分る通り、・原材料費が安いか・大量に作り置きできるか・食材ロスで作った料理が多く、食材ロスの有効活用は、合理的で良いにしても、だからといって、お客さんから、選択の自由を奪う理由には当たりませんね?以上のように、お通しは、安く仕入れて、高く売れる、売りたい商品です。売りたい商品を、強制的に売るのですから、その利益率たるや適正以上であることが、容易に理解できるでしょう。「儲けるな」といっているのではありません、黙って出さずに「正々堂々と儲けよ」ということです。これまた観察して頂ければ分る通り、お通しの値段は、大体、客単価の10%に設定されている飲食店が多く、・客単価3,000円なら300円・客単価5,000円なら500円・客単価7,000円なら700円と、大体300円~700円が多い様子。客単価の一割が、ほぼ、丸儲けになるのですから、おいしくて、やめられないのも頷けます。店舗側の論理としては。しかし、それは、お金を払う側の論理ではありません。お金を払う側=お客さんは、納得できるところへ行って、好きにお金を払います。お客さんが来ないんじゃありません、こうして(お通しを出すなどして)、慣習に従うことにより、知らず知らずのうちに、他へ行くようにしているわけです。4)お通しは、総予算を侵食する
三つ目は、飲食費が概算であること。たとえば、連れ立って居酒屋へ行く時、あらかじめ、「今日は、お通し300円、生ビール600円を2杯で1,200円、枝豆400円、冷奴300円、焼魚800円の五品を注文する予定。合計で一人3,000円」と決めて行く酒徒は皆無でしょう。チラシを見てスーパーへ買い出しへ出かけるのとは異なり、メニューの単価は気にせず、ほとんど、「今日の予算は、5,000円くらいかな…」とか「一万円で、お釣りが来ればいいや」と、総予算で考えませんか?(たとえカード払いでも)その証拠に、飲食店側も、単品の料金表示とは別に、「昼は××円~。夜は××円~」と総予算を提示していますし、客単で売上を予測します。ところが、お通しは、念頭にある総予算の約10%を侵食します。お通しが無ければ、想定している予算内で、好きなものを飲食できますが、その自由と金銭を強制的に奪うわけですから、顧客満足度が下がるのは自明の理。こうして、お通しが有料だと、顧客満足度は低下します。5)お通しと、パーミッション・マーケティング
以上三項目の分析くらい、飲食業界は行っていると思いますが、顧客満足を知らずに接客している前述のホールスタッフ(コンタクトポイント)がいたように、案外、お通しと顧客満足の関係は、追究されていないのかも知れません。お通しのみならず、お酒の水増しにしても(たとえば、ちゃんと一合が入る銚子かどうか測ったところ、160mlの銚子(口切り一杯で一合)を使っていた居酒屋があった例も)希釈にしても、接客レスポンスの遅さ(注文した品が出てくるのが遅い等)にしても、まだまだ追究の余地は残されているはずですが、そんな瑣末なことを追究しなくても、主観と慣習で商売できますし、それどころか、五年先まで、のれんを掲げるつもりのない飲食店が多いのも事実。まさしく水商売です。こうした、業界の常識を今に残す、1)店側の論理と2)業界の慣習と3)宴の文化がある限り、お通しは無くならないと思いますが、お通しの意味を今に残す懐石でもない限り、形骸化したお通し等は廃止するか、あるいは、◎今日のお通し「マグロのアラ煮」400円と表示したうえで「お通し出しましょうか?」と許可を得るほうが顧客のタメ、ひいては店舗のため(リピーター増)になるでしょう。パーミッション・マーケティングです。お通しを廃止した分の粗利を確保したければ、先付けのお通しとは逆に、◎今日のシメの一品「しじみの味噌汁」400円と、最後の一品も提案することにより、お通しを断られても、シメの一品で粗利を取り戻すこともできれば、注文を受けてから出すお通しと、シメの両方で、粗利を二倍にすることもできます。もちろん、味噌汁を売るのではなく、貝類や味噌が、肝臓に良い効果効能を売ります。マーケティングの基本中の基本であるベネフィットですね。酒飲みほど(筆者のように)、肝臓を労わりたがりますから(笑)※この記事は(2013年に発行した)筆者のメールマガジンから転載しました無料メールマガジン 『小笠原昭治の マーケティング&ストローク』
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