人助けで儲けてもいいじゃないか/日野 照子
INSIGHT NOW! / 2015年3月10日 10時24分
日野照子 / 無所属
人助けが営利に結び付くと非難する人の意識は小さなコミュニティの論理に根差している。人助けで儲けてもいい。
障害者支援、女性の就業支援等のNPO活動を知る機会が増えて、他人のためにがんばる人たちが多くいることを改めて知った。彼ら彼女らの活動は素晴らしいと思うし、なんら異議を申し立てる気もない。そういう人々が殺伐とした世の中をほんの少し明るくしているとも思う。唯一違和感があるのは、彼らの営利に対する偏見のようなものである。極端に表現すれば、営利企業は社会貢献に寄付して当たり前で、しない企業は悪徳。社会貢献を利用して儲けるなんてあり得ない。表だって言わなくとも、人々の根底にうっすらと存在しているこの意識はいったいどこから来るのだろう。 行動経済学者ダン・アリエリーの著書『予想どおりに不合理』という本に、このことの人間心理を説明する「社会規範のコスト」という章がある。母親が心を込めて用意したパーティ料理にお金を払おうとして家族関係が悪化する、30ドルの低報酬だと困窮者相談を引き受けない弁護士が、無報酬なら喜んで協力する等々。要するに人は、他人に何かをしてあげて感謝される、という社会的な意義がモチベーションとなり、報酬ともなり、それを貨幣換算されることを好まない、という傾向があることを具体的な事例で紹介している。これもまた、普遍的な真理だろう。そしてこの人間心理が、社会貢献に対価を得ようとする行動を嗅ぎ分け、非難させるもとになっているように思う。 しかし、この「お互い様」の人間関係で、無償で手助けしあえるのは、それがある程度、範囲が限定されたコミュニティ(=共同体)であるからではないだろうか。家族や長屋や村や、それとも職業や趣味のコミュニティ内でのルールなら納得できる。そうやって助け合う社会性が人間の特性だし、そういうローカリズムもあっていい。けれど、社会は小さなコミュニティでは閉じにくくなっている。インターネットという情報網とあらゆる交通網・物流網が発達し、日本全国のみならずグローバルに広がっている。小さなコミュニティのローカルな論理には収まり切れない。 このことを考えさせられたのが、東日本大震災である。震災直後から、様々な人や組織が、それぞれのやり方で被災者の支援、復興の支援を行った。ネット上には支援物資や寄付やボランティアの募集情報が飛び交い、また、誰それがいくら寄付をしたというような情報も溢れかえった。この場合、これらの行動は基本的に社会的な助け合いの精神、家族や友達を助けるのに近い、ローカルな社会ルールに則ったものであったように思う。日常の、労働力を提供して賃金を得る、商品を提供して対価を得るという、経済活動とは異なる反応だ。 けれど、何をやるにもお金は絡み、災害が大規模なだけにそれは莫大な金額となる。時間が経つにつれ、社会的な活動と経済活動を分離するのは難しくなり、人々の気持ちは揺れ動く。結果、「偽善」「売名行為」と非難される有名人が続出し、実態がどうあれ「便乗商法」と眉をひそめられる商売が増える。けれど、その多くが的外れな非難だった。 例えば、ヤマトホールディングスは震災直後から支援物資の搬送を自主的に行い、ロジスティクスのプロとして気仙沼市の支援物資の管理を一手に引き受けた。運賃表を変えずに宅配荷物一個につき10円、総額130億見を寄付するという企画も実行し、漁業や農業の復興支援に貢献した。これらの活動を素晴らしいと思う人と、高等な便乗マーケティングだと非難する人がいる。
ヤマトは儲けるために活動したわけでは全くない。だが、これが儲けるためにやったことでも、全然かまわないじゃないか。その行動が人の役に立つのであればなおさら、働く人には高い報酬を得てほしいし、さらに利益をあげてそれを資金に事業拡大してもらう方がいい。社会インフラの充実になるし、納税額も増える。もしも、これらの被災者支援がマーケティングだったとしたら、企業として素晴らしい戦略だとさえ思う。 明日2015年3月11日で東日本大震災から丸4年。この日を迎えるたびに、思い出すことは人それぞれ、千差万別だろうが、私は間違いなくこのことである。小さなコミュニティで助け合って生きることも大切だが、もっとずっと広い社会で多様な人々全員と価値観を共有した相互扶助は成り立たない。営利企業はもれなく社会貢献していることを忘れないようにしたい。※ヤマトホールディングスの被災地支援活動については、ほぼ日刊イトイ新聞刊「できることをしよう。ぼくらが震災後に考えたこと」を参照しました。
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