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安楽死未整備は国政と医療の怠慢/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2015年3月17日 17時17分

安楽死未整備は国政と医療の怠慢/純丘曜彰 教授博士

純丘曜彰教授博士 / 大阪芸術大学

/自殺は罪ではない。しかし、自殺幇助の罪のせいで、自殺が人道的に破綻している残虐至極な手段を選ばざるをえなくなってしまっている。むしろ安楽死を認め、気軽に公言申告できてこそ、その厳格な事前審査において、安楽死以外の解決策で救う道も拓けるのではないか。/

 意外かもしれないが、自殺は罪ではない。法律論をこねくり回せば、いろいろ理屈はつくが、とにかく日本に自殺を禁じる法律は無い。むしろ、憲法では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」(13条)とされており、立法その他の国政の上で、生命、自由及び幸福追求の個人の権利は尊重されることになっている。つまり、むしろ幸福追求のための生命の処分の自由もまた、個人の権利である。だから、自殺は、罪どころか、人間としての尊厳に関わる権利、人権として正当に認められなければならない。
 ところが、問題は、刑法202条だ。ここに、自殺教唆、自殺幇助、嘱託殺人、承諾殺人の罪が列挙されている。他人の自殺に関わると、六月以上七年以下の懲役又は禁錮。このせいで、日本では、自殺は、たった一人でやらないといけない。とはいえ、人を殺す方法でさえ、シロウトは容易に思いつかないのに、自分を殺す方法、それも他人を関わらせずに死ぬ方法なんて、そうそう考えつきもしないし、やり遂げられそうもない。それで、看取る者もなしに孤独に自宅や野山で首吊り、ビルから飛び降り、列車に飛び込みなんて、むちゃくちゃ残虐な方法になってしまう。結局、後始末で、他人も、えらい迷惑をする。それどころか、上から飛び降りてきた自殺者が当たって、あの世へ巻き添え、などということさえ起きる。
 半世紀以上も前、1962年の名古屋高裁の判決で、安楽死(自殺幇助)の違法性阻却事由として、1不治の病で死期が目前、2苦痛が甚だしい、3死苦の緩和の目的、4病者が意思表明できる場合には本人の嘱託又は承諾、5医師よるか医師によりえない特別の事情、6方法が倫理的に妥当、という六基準が示され、司法上は、これらをすべて満たせば有罪にはならないことが、すでに明確にされている。しかし、現在なお、脳死ほどにも、日本で安楽死が普及しているとは言いがたい。事件を起こして後に、裁判で違法性を阻却するのでは、病院としてリスクが大きいからだろう。 そもそも、憲法13条からすれば、安楽死が、この六基準のように、病気や苦痛、死苦の緩和に限られることの方が法的根拠に欠ける。これらの限定は、もとより公共の福祉とは無関係で、かってに名古屋高裁が「立法」してしまったものだ。法体系のみからすれば、安楽死は、いかなる理由であれ、公共の福祉に反しない限り、幸福追求として、個人の自由に任せられるべきだろう。まして、現状のように、自殺者のほとんどすべてが、方法として人道的に破綻している残虐至極な手段を選ばざるをえない、というのは、倫理的に穏当な安楽死のためのまともな道筋を整備しない国政や医療の怠慢のせいだ。
 司法において違法性阻却事由で解決しうるのであれば、特別に刑法などを改正する必要もあるまい。必要なのは、新たな判例ひとつと、脳死や性転換手術などと同様の事前の厳格な審査体制。希死念慮は精神的な病因によることもありえ、本人がもっと気軽に安楽死希望を公言申告できてこそ、事前の早期発見、早期治療も可能になる。また、経済的理由や社会的理由の安楽死希望も、その公言申告によって、専門の法律家や行政担当者、カウンセラーなどを交え、安楽死以外の解決策を探ることもできるのではないのか。つまり、厳格な事前審査付きで安楽死を公認してしまった方が、突発的な自殺事故を減らし、もっと救える道も拓ける。
 刑法214条に業務上堕胎罪が規定されていながら、母体保護法14条の拡大適応で違法性阻却して堕胎はまかり通っているのに、いまだに本人意思の安楽死を躊躇する理由がこの国にあるだろうか。もちろん、堕胎も、安楽死も、倫理的に認めるべきではない、という人もいるだろう。しかし、その考えは、その人のものであって、他人の自由、他人の尊厳まで束縛支配する強制効力を持ちえない。むしろ安楽死制度化の必要性を国政や医療が認めない理由が、本人の望まない末期医療を最期の最期まで「押し売り」して大金を儲けている日本の医療体制にあるのではないか、とさえ、邪推懸念される。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東 京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専 門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイ ソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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