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パナソニックの調達改革と方向性の明確化に求められること/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2015年3月18日 16時41分

パナソニックの調達改革と方向性の明確化に求められること/野町 直弘

野町直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

パナソニックが今年の4月より事業部門毎に分散購買している調達機能のうち、汎用品の調達を一本化しその機能を新会社に移すという記事が発表されました。パナソニックは以前から様々な組織改革を進めています。その狙いは?

SNS等でバイヤーの方で話題にもなっていましたが、先日パナソニックの部品・資材の調達を一本化し新会社で汎用品の調達を行うという記事が日経新聞に掲載されていました。
この記事ではパナソニックが今年の4月より事業部門毎に分散購買している調達機能のうち、汎用品の調達を一本化しその機能を新会社に移すというものです。調達額は年間2兆円に達するため共同調達によるコスト削減や成長分野での新規取引先の開拓を進めることでコスト競争力を高めることを目的としています。パナソニックはここ数年で私が知る限りでも調達組織を様々に変化させています。またその内容を新聞等の報道でうかがうこともできます。2008年-2009年頃は「イタコナ」に代表されるコスト削減活動を事業部間の垣根を取り払う形で進めています。私の記憶では当時は本社傘下の集中購買機能が強化された時代でした。
それが7221億円という大幅な最終赤字となった2012年3月期とともに、2014年4月より調達、物流本部をシンガポール拠点を移転するという発表がなされています。また調達先についてもグローバルで4割減の約1万社を目指すという方針も同時期に発表されたようです。
2012年10月からは本社機能の改革を推進しスリム化を進めています。調達・環境・品質保証・情報システムなどの事務部門他からは希望退職を募ることで人員の削減を図り、本社機能は意思決定のスピードを上げるための「小さな本社」が指向されました。調達部門はこの時期に関連事業に移行されたとされています。つまり従来進められた集中化から分散化に方向が変わったとも言えます。
しかしこのような分散の方向に対し今回の記事は、部分的とは言え、再度集中購買化を進めるというまた回帰するような正反対の内容に読み取れます。ここに上げている情報は殆どが新聞やその他の雑誌、インターネット等の情報なので、必ずしも正しい情報なのかどうか不明です。また発表はしたものの実際には実行していません、ということもあるでしょう。要するに実態がどうなのか詳細は不明です。しかしここ数年の間に起きているこれらの記事で取り上げられていることが、全て矛盾しているかというと、そうではありません。何故ならどんな企業も全ての調達購買に関して集中購買を行っている訳ではありませんし、全ての買いモノを分散購買という企業も考えにくいからです。
2007年に弊社が購買部門長向けに実施したアンケート調査によりますと、回答企業の48%の企業の購買組織は「全社の集中購買部門と事業部・事業所別の購買部門が並立している」いわゆるハイブリッド型でした。同調査によりますと大企業の約70%はやはりハイブリッド型組織であると回答しています。ですから部分的に集中化し、部分的に分散化している、という企業はごくごく一般的な状況であることが理解できるでしょう。このように集中購買なのか、分散購買なのか、というように全てに白黒をはっきりつけることは難しいことも多いです。しかし何かの改革を進める時に明確な方向性を示すためシンプルな手法やキーワードもしくは、KPI(Key Performance Indicator)を持ったり設定したりすることは、とても有効なことです。例えば「集中化」「競争化」「標準化」。これはある企業の中計でのKPIですがシンプルで分かりやすい。例えば改革を推進する上ではこのようなシンプルなKPIを持つことで改革の方向性を共有することが可能となります。しかし、これらのキーワードやKPIが独り歩きすることは避けなければなりません。これらのキーワードやKPIはあくまでも手段です。目的はこれらを徹底することではなく、「集中化」「競争化」「標準化」を徹底することで最適な調達を実現することだからです。よく見られるのはあくまでも手段であるべきこれらのキーワードやKPIが目的化してしまうことです。「競争化」などでよく起こり得る事例を上げてみましょう。多くの企業では「競争化」の徹底という方針の元、購買部門だけでなく全ての社内部門に対して相見積りの入手等をルール化させていることが一般的です。しかしそもそも比較できないものを、無理やり比較し、最終的にはユーザー部門などの社内部門が自分達が使いやすいサプライヤを採用するのだが、そのサプライヤに対して他社の安価情報を指値して値段を引き下げていくなどの状況が起こりえます。
サプライヤにしてみれば全く理不尽な状況です。そもそも同じ仕様や前提条件ではないモノを横並びさせ無理やり価格だけ合わせようとする訳ですから当たり前のことです。その上「競争化」のルールは守っているから問題ありませんよね、となります。これは、そもそも比較できないものを比較しようとするから問題となるのです。比較できない状況は調達購買の場面では必ずでてきます。もし比較できないのであれば、コスト分析等で価格妥当性を評価できれば最適価格は担保されます。目的は競争させることではなく「公平公正なプロセスで最適サプライヤーを最適価格で選定すること。」なのです。繰り返しになりますが、それでも「競争化」「相見積の義務付け」等のシンプルなキーワードやKPIは有効。重要なのは改革のステップやフェーズ毎に応じた購買改革手法やキーワード、KPIを検討、設定していくことなのです。これらのキーワード、KPIを上手く活用することで改革のスピードを上げ、改革の方向性を調整していくことが可能となるのです。
今回のパナソニックの新聞記事を読んで改めて感じたことを述べてみました。

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