職場の華が需要?ルミネの失敗は社会の縮図/日野 照子
INSIGHT NOW! / 2015年3月24日 10時57分
日野照子 / 無所属
男性社員のそんな「需要」に応えるために、おしゃれするわけじゃない。ルミネの炎上した動画に、わかりあえない社会の縮図を思う。
2015年3月20日頃に、JR東日本のグループ会社ルミネが「働く女性たちを応援するスペシャルムービー」を公開し、途端にネットで非難が殺到して二日後にはお詫び文を掲載して動画を非公開にするという、あっという間の出来事があった。関東ローカルなショッピングセンターのネット上での小火だから、ご存じない方も多いかもしれない。「ルミネ 動画 炎上」等で検索していただければ、おそらく非公開になる前に保存された動画や画像が見られるが、一応、概要を文字でおこしてみる。 会社前の出勤風景。あまりおしゃれでない設定の女性社員Aに話しかける、先輩らしき男性社員。
男性「おはよう。顔、疲れてるなあ。残業?」
女性A「いや、普通に寝ましたけど」
男性「寝て、それ?あははは」
すれ違うおしゃれな設定の女性社員Bに話しかける同じ男性社員。
男性「髪切った?」
女性B「巻いただけです」
男性「やっぱりかわいいよな、あのコ」
女性A「そうですね。いい子だし」
男性「大丈夫だよ。吉野とは需要が違うんだから」
女性A「需要?」(ここで、需要の定義らしき文字画面が入る。)
【需要】じゅ・よう 求められること。この場合、「単なる仕事仲間」であり、
「職場の華」ではないという揶揄。
女性A「最近さぼってた?」と自問。その上に「変わりたい?変わらなきゃ」の文字。 個人的にはもはや腹も立たないし、馬鹿だなあと思うだけが、これを見て反射的に怒った女性や、「また、そこからなの?そこから説明しなきゃだめなの?」という無力感におそわれた働く女性が大勢いたことは想像に難くない。 この動画の何がいけないのか、わからない人が実はたくさんいるらしいので、念のために説明しておこう。「髪切った?」と聞くことさえもセクハラ認定されるご時世。冒頭の「顔、疲れてるなあ」からほぼ言ってはいけないことオンパレードで、このままセクハラ研修の教材に使えそうな会話だが、実はまだそこは、それほど大した問題ではない。 「職場の華=需要」であると言い切ったこと。それを、主人公が受け入れ「職場の華」になることを肯定したこと。問題の本質はこの2点である。特に後者の罪が重い。男性の需要に応えることが正、という教育をされがちな女性に、やっぱりそうなのかと思わせる演出は、あまりにも罪深い。 「職場の華」という言葉が表す「若くてかわいい」という女性の商品価値は、世の中に確かに存在するので、否定はしない。もっともわかりやすい例がいわゆるアイドルだろう。古くはおニャン子クラブからモーニング娘。、AKB48などの女性アイドルグループは、メンバーが「卒業」と称して入れ替わることが前提となっている。常に「若くてかわいい」を維持することで商品価値を保つ。男性であるSMAPやTOKIOが平均40歳を超えてもアイドルグループとして成り立っていることと対照的である。これが世間の価値観であることは否めない。 しかしそれはあくまでも、エンターテイメント的マーケットでの商品価値であって、オフィスワークらしき職場の中での絶対的価値ではない。「職場の華」を是とする女性も確かにいるだろう。若いという条件が付くので、中長期的にはあまりよい選択とも思えないが、そこは人それぞれだ。だが、それは働く女性の誰もが目指す姿では決してない。日々、セクハラと戦い、あるいは適当にかわし、能力や技術で仕事上の機能発揮や成長を目標として働く女性であれば、まるで「職場の華」が目指すべき道であるかのように押しつけられたら、そりゃあ腹も立つだろう。 変わりたい女性を応援したかったというこの動画のそもそもの設定は間違っていなかったと思っている。疲れている顔や構わない髪型や服装を反省し、「変わりたい」と思う働く女性は実際にたくさんいる。ただしそれは、男性社員のくだらない「需要」に応えるためではない。自分の見た目をきれいにしようと努力するのは、楽しくて充実した自分の人生のためである。女性たちがおしゃれやメイクを、男性や周囲のためにしていると思うところに大きな勘違いがある。 企画して予算化して発注して制作して公開して、、、ここに至るまでに携わったであろう数多の人々はなぜ、このことに気が付かなかったのだろう。誰一人として気付かないまま、意思決定してしまったのだろう。「日常を切り取った」とする製作側の発言に、さもありなんと思う。業界や企業には、自分たちの常識、ローカルルールが実に多い。自分たちの常識が社会で通用するか、客観的に見直した方がいい。 かつて筆者が会社に入社した頃は、「女性社員は若くてかわいければいい」と明言する男性社員はいくらでもいた。25年たって、彼らは今もその考えを変えてはいないが、あまり公言すべきでないことくらいは学習している。なのに、一企業が広報として言い放つとは。働く女性を応援したいというのなら、社会を変えたいのに、変えられないでイライラしている働く女性をもっとちゃんと応援してほしいものである。
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