ユトリ新人に怒ってもムダ/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2015年4月13日 23時49分
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
信じられないことばかりかもしれない。おまえ、社会人にもなって、なんで遅刻してくるわけ? なんて、ぶち切れてみたどころで、二十分くらい、いいじゃないっすか、てなところ。いや、おまえ新人だろ、オレより先に来るのが当然だろ、と言い返しても、当然ってなんすか、先輩の方が先に来てるんだから、先輩が先に仕事を始めているのが当然なんじゃないんすか? と、やり返されるだけ。
べつに新人が君をなめているわけじゃない。単純な文化摩擦。連中は、連中のこれまでの生活習慣を職場にそのまま持ってきただけ。君は新人の方が職場の習慣に合わせるべきだと思っているが、やつらは君の方が自分たちの常識に合わせるべきだと思っている。現実問題として、君には権限がなさすぎる。君が怒ったところで、新人をクビにできるわけじゃない。叱ったところで、連中はむしろ君の方が間違っていると確信している。本気になって、手なんか上げたら君がクビ。大声でどなっただけでも、パワハラだ。かといって、このままだと、新人の指導係として君の評価に係わる。君はもう八方ふさがり。
だが、これは、いつの時代にも繰り返されている新人の世間知らずとはわけが違う。ユトリ世代の連中は、子供のときから、そうやって無理のゴリ押しで生きてきた。自分ことだけで手いっぱいの親は、子供のことなんかほったらかし。問題だらけで手に負えない学校も、見て見ぬふりで先送り。屁理屈で強硬にゴネていれば、相手の方が折れ、問題そのものまで揉み消してくれるのを、彼らはよく知っている。学生時代のバイトも、すっぽかそうと、デタラメしようと、慢性的な人手不足で、店長の方が御機嫌取り。少子化社会というのは、こういうこと。一人っ子政策の中国の「小皇帝」「小皇后」と同じことが、日本でも社会的に自然発生した。
戦後復興期の生産拡大にも、団塊世代の中卒単純労働力が「金の卵」としてチヤホヤされ、ちょっとでも気に入らないことがあると、すぐに集団就職の職場から失踪。都会には他に働くところがいくらでもあったからだ。当時の離職率は20%を越え、彼らは単純によりよい待遇を求めて仕事を渡り歩き、熟練技術を習得することもないまま、73年のオイルショック不況の自働生産の合理化で放り出され、使い捨てになった。
おそらく、今後の日本経済でも同じことが起こる。生産性の低い、それどころかムダに人事管理コストの高い現在の若年層の単純労働力は、遠からず技術革新によって置き換えられる。連中が使えなければ使えないほど、接客や販売、サービスにおけるコストダウン・イノヴェイションの開発と投資が割に合うものとなり、利益率を飛躍的に向上させるものとなるからだ。
それまでの我慢、我慢。怒ったら負け。新人の指導係なんて、いましばらくだけのこと。半年もすれば、どこか別の職場に転属になる。もっとも、運が悪いと、もっとすごいのが君の職場に送り込まれてくるかもしれない。でも、大丈夫。新人研修は、遠心分離機みたいなもの。あちこちをグルグル回しているうちに、ダメな砂やゴミを外に弾き飛ばす。とくにユトリは頭の中がお花畑だから、三年以内に、こんな地味な職場にいられるか、とか意味不明にブチ切れ、独立するとか転職するとか大言壮語して、自分の方からどこかにいなくなる。そして、これまた自然淘汰で、同じ新人でも、腹の据わっているやつ、世間の厳しさがわかっているまともなやつは、きちんと中に残る。
真の先輩後輩になるのは、それからのこと。それより、その前に君が切られないことこそ、一大事。バカな新人に足を引っ張られることくらい、折り込み済みにしておかないと。とりあえずは、そうだね、わかるよ、うん、そうそう、と、微笑んで、ものわかりのいい先輩を演じ続けよう。時間などは、最初から、三十分くらいサバを読んで、彼らに伝えておこう。そして、後から行って、ごめん、ごめん、遅くなっちゃったかな、などと、笑ってガキの常識に迎合。怒らないのも、仕事のうち。こういうのが、老練な「大人」の余裕というもの。君に任せた以上、上司たちは口を挟んだりはしないが、君が新人相手に苦労してがんばっていることは、みんなよくわかっている。新人連中のタメ口に引きずられ、本気になったら負けだよ。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門 は哲 学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)
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