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町おこしより町そうじ/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2015年4月16日 20時40分


        町おこしより町そうじ/純丘曜彰 教授博士

純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 季節が良くなると、あちこちで観光イベント。でも、あれ、やればやるほど、町や村は疲弊劣化する。昔の賑わいを取り戻したい、なんて、年寄りの涙を誘う夢の一発イベントは、ドラマの中だけの話。イベントをやれば、押し寄せる観光客の駐車場代などで簡単にアブク銭が手に入る。これに味をしめてしまうと、みんな、それ以外の日は、カネにもならん、って、なにもしなくなる。それどころか、年に一日のイベントのカネ儲けに備え、我先に田んぼでも畑でも埋め立ててジャリを撒き、駐車場にしてしまう。


 だけど、この十年は暇な退職団塊世代で観光客が増えてきたかもしれないが、これからは絶対の少子化。おまけに今の若いやつらは車も買えない。簡単には僻地まで来てはくれなくなる。あとに残るのは、がらがらすかすかのジャリ野原と「駐車場こちら1日500円」の剥げた看板だけ。


 県も悪い。面倒を見切れないものだから、町や村に地域振興予算を丸投げ。しかし、町や村にそうアイディアがあるわけがなく、どこかの町や村のサル真似だらけ。それも、田舎のイベントなんて、どこも自然資源頼みで、桜か連休、お盆など、ぜんぶ日付が被る。さもなければ、怪しげな都会のコンサルが潜り込んで、落ち目の客寄せタレントを使い、なけなしの予算を丸ごと掠め取ってしまう。あとはやっぱりジャリ野原。


 ようするに、地域イベントなんて、一種の終末医療の痛み止めドーピング。人口減で予算減なのに、他の町や村との競争で、どんどん薬の量を増やさないと、痛みは悪化。それでイベント中毒。しかし、それは、村の美しい自然資源というストックを食い潰しているだけ。そこら中に黒マルチだの農薬飼料の袋だのの破れて飛んだのが絡まり、ポリ風呂の汚いのがビニールハウスの横に転がり、廃材処理場が景色も見えないほどの高い壁を作ってしまう。道の駅も、喫茶コーナーの半分に、使い古しの段ボールの腐ったのが積み上がっている。風呂屋のような巨大農家の隣にカナディアンログハウスが建ち、その裏にはオンボロで廃墟みたいな町営の安物アパートがひしめく。自覚は無いのだろうが、それはゴミ屋敷ならぬ、ゴミ村、ゴミ町。


 京都の街を見てみろ。一年三六五日、観光客が来ている。あれ、自然にそうなっているわけじゃない。比較して悪いが、奈良の都なんか跡形も無いだろ。京都は、その街の住民が、自分たちで毎日努力して、自分たちの街の資産価値、観光資源を維持し、ストックに変えて積み上げ、それを千年も続けてきた。たとえば、門掃き(カドバき)。京都の町屋では、朝食より前、6時半くらいには、自分の家の前と隣半間、90センチくらいまで掃いて、打ち水をしておかないといけない。当然、家の前だの周囲だのに、放火されそうな、いらんものを置いたっぱなしなんて論外。カネに任せて景観を壊す赤白縞々の家を建てるような野郎は、団結して意地悪して絶対に地域から追い出す。こういう御近所同士の気づかい(締め付け)で、いつ、どこへカメラを向けても情緒深い景色が撮れる美しさを保っている。だから、客が来る。


 湯布院でも、黒川でも、妻籠や馬籠、白川郷、安曇野でも、そう。まずは掃除、景観維持。それこそが、自分たちの町や村の資産価値、観光資源を守り高め、生活基盤を確保する地道な方策。イベント一日の損得勘定ではなく、通年で採算が取れないと、町や村は維持できない。三六五日、いつ訪れても、写真が絵になるところでこそ、安定してつねにお客が訪れてくれ、地域の物産品が売れ、電車や道路の交通も整う。昨今、堀割下りで人気の水郷柳川も、1977年当時は埋め立て予定のドブ川状態。それをみんなが総出で掃除して、観光資源としての価値を取り戻した。そのおかげで、新幹線が途中で止まる駅まで、近くに作らせることができた。


 だけど、こういう話をすると、田舎のやつらってすぐに、よし、じゃあ、大学の先生に頼んで、学生ボランティアを集めて町の掃除をやってもらおう、とか言い出すんだよなぁ。あのな、災害支援でもなければ、ボランティアっていうのは、あくまでお試し御訪問の、最初のお客さまなの。いちばん楽しいことをやっていただいて、クチコミで町や村の良い評判を広めてもらう無料の宣伝媒体、将来のリピーター。こき使って、悪評だらけになったら逆効果でしょ。


 やたら軽々しく「郷土愛」を口先で連呼するわりに、なんであんなに荒れたまま、ほったらかしにして平気なのか、不思議でしかたない。掃除でもなんでも、自分たち自身でやらなければ、「郷土愛」の意味が無いでしょ。愛は無償。見返りを求めず、ただ黙って実行すること。 大声で宣伝してイベントなんかやる予算と余力があるなら、まずは総出で、黙々と町のゴミ掃除から始めた方がいい。それを地道に毎日何年も続け、自分たちで自分たちの町や村を大切にして、その本来の美しい景観が取り戻せたら、ほっておいても、客が安定して来てくれるようになるよ。(イタリアやスイスには、そういう、なにもないが世界中から観光客が訪れる、小さく美しい観光村がいくつもある。)


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門 は哲 学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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