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風評被害だ!はオウンゴール/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2015年5月13日 9時9分


        風評被害だ!はオウンゴール/純丘曜彰 教授博士

純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 箱根町長の第一声が「風評被害」で驚いた。風評だ、根も葉も無い噂だ、という方が、大衆を口先だけで騙そうとする「デマ」じゃないのか。そもそも、風評被害だ、と当たり散らすことで、いったい誰を攻撃してしまっているのか理解しているのか。危ないんじゃないか、と言っているのは、一般のお客さまだぞ。もちろん、一般のお客さまはべつに専門家でもないのだから、たしかにその話に根も葉も無いかもしれない。だが、不安な気持は、一般のお客さまたちの、根も葉もある厳然たる事実だ。その存在と広がりは、ウソでも、デマでもない。


 なのに、おまえら、ドシロウトだろ、バカなんじゃないの、なんにしても、オレたちの商売のジャマになるようなデマカセを言いふらすんじゃねぇよ、と罵倒非難して、それで、ああ、私たちが間違っておりました、回心しますから、どうかお願いです、これまでどおり箱根に登らせててください、なんていう、卑屈な客がいるものか。こんな言われようでは、ウワサをするのさえも止め、あいつら、関わると面倒くさい、ほっておこう、と、ひたすら無関心になるだけ。反感を持つ敵を増やしてしまっただけ。


 そもそも、箱根の住民にしても、いったいどこまで火山の専門家なのか。いや、火山の専門家ですら、火山の今後のことなど、わかるものか。危険だ、というのが根も葉も無いのなら、同様に、安全だ、というのも根も葉もあるまい。根も葉もない安全を言いふらして、本当は危険かもしれないところに客を集めようという魂胆のどこが、おもてなし、か。むしろ、それは、オレサマ中心のカネ儲け第一主義。おもてなしの対極だ。


 もともと箱根なんて、自分たちで湯を沸かしているわけでもなし、天然の風光明媚な場所に店や旅館を構えただけで、江戸時代から数百年、その既得権と慢心で、ほっておいても、客どもはカネを持って自分たちの所に来たがるもの、と、心底、勘違いしてしまったのだろう。これまでにしたって、火山そのものは、以前からこんなもの。都合の良い方の「風評」のおかげで喰ってこれただけ。しかし、昨年の御嶽山の事件もあり、今回、連休にぶつかり、初めてマスコミ取材の荒波に晒され、初動対応を過った。つまり、火山のせいではなく、自分たちの不首尾こそがお客さまを激減させてしまったのだ。


 実際、もっと不安定な火山を抱えながら、その観光地として、多くの人々の信頼と愛顧を得て、長年、うまくやっているところは他にいくらでもある。今般、世間をお騒がせして申しわけごさいません、大勢の皆様に御心配をいただき本当にありがたく思っております。私どもにもわからないことばかりですが、関連の諸官庁および専門の諸先生の御指導を仰ぎながら、お客様の安全こそを最優先に、これまで以上に、できるかぎりのおもてなしをさせていただきたいと心より願っておりますので、どうか御安心してお出ましください、とでも言っておく如才のなさはないものか。


 いや、いくら口先の体裁ばかりを取り繕っても、ムリ。人間は、いざというときに、本心が露呈してしまう。おもてなしの基本は、なにがあっても、お客第一。そして、なにかあれば、すぐに、お詫び、そして、感謝。身を捨て、心底からサービスに徹するなら、客の方がほってはおかない。より多くのお客さまたちを味方に付けてこその接客業。その基本を忘れれば、こうして神さまが試練を与える。


(それにしても、一般向けのニュースで専門的な「噴火」という言い方は止めないか。「火山地下水噴気」「マグマ性水蒸気爆発」と狭義の「噴火」(火山弾や溶岩を伴う爆発)を分けないと、一般の人々には、状況を適格に理解できまい。その一方、「噴火」が立入禁止区域の中心、例の人工の井戸から吹き出すから、それ以外の99.7%は「安全」である、などという報道の仕方、規制のかけ方も大いに問題がある。同じ火山系の富士山の宝永火口を見てみろ。あれなんか、完全に山体の横っ腹から大噴火だぞ。箱根の場合、マグマが地下5キロなんだから、そこから最大45度の斜度でマグマなり亀裂なりが上昇した場合、箱根の中心である神山から半径5キロのどこに新たに「噴火口」(噴煙口)ができても不思議ではあるまい。そして、そこが御嶽山規模の水蒸気爆発をしただけでも、そこからさらに2キロは噴石が飛んでくる。つまり、神山から半径7キロは、なにがあっても不思議ではなかろう。つまり箱根町はおろか、その外輪山の外側まで、非常時の備えが必要だということだ。ただし、それは箱根が火山である以上、いまに限った話ではなく、そういう非常時がいつあってもおかしくないことを想定しつつ、その自然の怖ろしさを含めて広く観光していただく体制を整えていってこそ、一般のお客さまの信頼と愛顧も得られるのではないのか。「風評被害だ!」と当たり散らしているだけでは、なにも始まらない。)


(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)

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