『おらがXX』と購買のアカウンタビリティ/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年5月14日 0時58分
野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
最近日本のプロスポーツ選手のグローバルでの活躍が目立ちます。その代表なのがテニスの錦織選手とゴルフの松山選手です。世界レベルでのプロテニスとプロゴルフは見ているだけでとてもエキサイティングですが、そんな中でやはり日本の選手が頑張っていると応援したくなります。なぜなら「おらが国」の選手だからでしょう。
話は変わりますが最近集中購買、共同購買、グローバル調達をどのように推進していくか、という相談を受ける機会が再び増えてきているように感じます。これらの
集中購買、共同購買、グローバル調達等の課題で共通するのはアカウンタビリティ
です。アカウンタビリティとはよく「説明責任」と訳されますが、当然のことながら裏にあるのは権限を持つという前提になります。つまり責任と権限をどのように持たせるかということがこれらの購買手法においては重要なポイントであるということです。
集中購買はある組織もしくは人が事業部や部門横断で購買権限とそれに伴うリスクや責任を負うということになります。共同購買もAとBという企業で実施するのであればAもしくはB又は第三者が購買に係わるアカウンタビリティを持ち、権限と責任を持つということです。グローバル調達も同様で各国や拠点毎に購買が存在するところ、例えばこの品目に関してはこの特定の人に全世界の購買に係わるアカウンタビリティを持たせる、ということになります。
これらの活動は何れも量的なメリットを活かし、ボリュームディスカウントを図るということです。どの手法も主たる課題はアカウンタビリティの持たせ方であり、組織や体制の整備が関係してきます。
前回のメルマガでも触れましたが、集中購買or分散購買には解がなく可逆的であると「改革推進者勉強会」の組織体制整備・強化グループでは発表していました。確かに集中購買によるメリットよりも集中化することによる様々なリスクや集中購買に係る人件費等の追加的なコストを削減するために、一時期集中化した組織を再び分散化しようという動きが出ていることを最近よく聞きます。このような動向と先ほどのアカウンタビリティの課題とはどのような関係があるのでしょうか。
ある企業で購買が進化する方向としては、一般論としてやはり集中購買の方向になります。メリットの大小はあるとしてもやはりメリットは出やすいからです。ですから、一般論としては集中購買、共同購買、グローバル調達の方向に進みます。しかし多くの企業で課題になるのは、集中購買組織やグローバル調達において購買権限を持つ特定の部署や人がリスクへの対応等のアカウンタビリティを持ちきれないことがあげられるのです。
例えば海外の工場の購入品に関する品質不具合が発生した時にそのスムーズな対応ができるのかというような点。当然、このような事案に対する対応は対サプライヤだけでなく対社内に対する調整も含まれます。そうすると心理的な制約がどうしても出てくるのです。これらが正に「おらが工場」や「おらが製品」的な思考と言えます。
中国の生産工場には今まで購買をやっていた現地採用のバイヤーがいます。それに対して品目リーダー制(コモディティリーダー、カテゴリマネジャーともいいます)をとり、「明日からあなたがアカウンタビリティを持って購買をやってください」と言われても、やはり現実味はありません。本当にできるのか、という不安が先に立つことでしょう。またそれも現地のバイヤーと比べてよりパフォーマンスが出せるか点も危惧されます。
これは、グローバル企業といえども工場毎の購買で、中国工場でどのような製品を生産しているかも分からない、サプライヤの工場すら見たことがないというケースは少なくないからです。このようなバイヤーにいきなり全世界の購買の権限と責任を持ちなさいと言っても無理な話でしょう。
これが「おらが工場」や「おらが製品」的な思考です。グローバル化しても「おらがXX」の思考は必ず残るものです。
一方、企業によってはグローバル調達体制やアカウンタビリティを整備し、上手くいっているところもあります。上手くいっている企業に共通する点の一つが購買部門の位置づけです。このような企業の場合、購買部門は各工場や生産本部の傘下ではなく、購買本部という機能組織になっていることが多い。また各工場との結びつきよりもむしろ、開発・設計部門との関係が強いことが上げられます。
このような体制やアカウンタビリティの設定が「おらが工場」的な思考に陥り難くしている結果なのかもしれません。このように体制やアカウンタビリティの設定で「おらがXX」的な思考による弊害を超えていくことはできるのかもしれません。
集中購買、共同購買、グローバル調達などの取組は「トップダウンが必須」ということは言うまでもありません。しかしこのような「おらがXX」的な思考が残る限り、トップダウンだけで上手く進むことはありません。購入品毎にアカウンタビリティの持たせ方に無理はないのか、最適なアカウンタビリティの持たせ方はどうなのか、という視点から組織設計や体制の整備を行っていく必要があります。
集中購買、共同購買、グローバル調達など、トップダウンでないから進みません、という言葉が昔からよく聞かれました。しかし実は制約になっているのはバイヤー個々の「おらがXX」的な思考法という極めて内なる課題であったという極めてアナログな指摘でした。
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