マスコミが報じない都構想投票のカネ/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2015年5月19日 11時31分
![マスコミが報じない都構想投票のカネ/純丘曜彰 教授博士](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_8398_0-small.png)
純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
専門家ならみんなわかっているくせに新聞やテレビ、ネットで報じないのが、今回の都構想住民投票にまつわるカネの出どころの問題。
本来であれば、政権側の第一次提案に対し、マスコミが批判的に検討を加えることで、問題の洗い出しが行われ、その修正によって深みを増し、おのずから有権者の過半が賛同できる程度の穏健妥当な政策へと磨かれるはずだった。ところが、今回、第一次提案のまま、相互の理解も検討もなにもない、ムリとムダの住民投票が強行されてしまった。それは、マスコミがまともに機能しなかったからだ。
政権側が、第一次提案に対するいっさいの批判を「偏向」として圧力をかけた。しかし、もちろん新聞やテレビも、ジャーナリズムである以上、通常、政治的圧力に屈しない反骨精神はある。ところが、今回の圧力は、政治的なものではなく、経済的なものだったのではないか。反対派がこぞって驚いたのが、今回の政権側推進派の圧倒的な資金力だ。その法外莫大なカネの力で、彼らはケタ違いの一大広告スポンサーとなり、新聞やテレビ、ネットを実質的に「買収」してしまった。
タダ見のドブ客より広告の御大尽客。いくら報道局と言えども、営業局には逆らえない、スポンサー様にケチはつけられない、というのが民間私企業であるマスコミの限界。タバコだろうと、原子力だろうと、目をつぶる。都構想もまたしかり。完全に反骨の骨抜き。それどころか、スポンサー様の推進派が喜びそうなゲストまで招いて茶番報道まで。たとえば、長谷川豊のように年初より都構想支持を公言している者を「キャスター」に据え、投票前日に特別「報道」番組を組む(5月16日、テレビ大阪)などという暴挙は、どう見ても公共の電波を使うテレビ局として著しく公正を欠いていたと言わざるをえない。
さて、で、カネの出どころだ。2012年においても維新の会は金欠で、候補者集めかたがた政治塾を開き、二千人以上から年12万円を掻き集めるなどということをやっていた。今回も千円のTシャツ、三百円のエコバッグ、二百円の缶バッチを売った、ということだが、そんなものの収益で、今回の住民投票に費やした推進派の、ケタ違いのマスコミ広告費を賄えるわけがない。そもそも、相当の金額を広告代理店に積まなければ、あれだけ大量の広告枠そのものを、他社からムリヤリ融通し捻出してくることができるわけがない。
となると、誰があれほどのケタ違いのカネを出したのか。既得権益をぜんぶ壊す、というのが推進側のウリだったが、それは同時に、既得権益を引っぱがして流動化させ、別のやつに新規権益として与えてやる、ということでもあった。また、制度移行に行政だけで600億はかかると言われたが、民間の住所変更に伴う看板や印刷物、ネットの作り直しは、さらにその数百倍の経済波及効果があり、この関連の建設企業や事務企業も、都構想は十分、先行投資に値しただろう。くわえて、多種多様な公務員も大半を派遣に置き換えると、その派遣会社は、給与のピンハネで、かなりのいい商売になるはずだった。まして、衰退ぎみのパチンコに代えて国際カジノを開くとなれば、その実績やノウハウのある国外の会社が都構想にも協力しないでもあるまい。さらに、憲法改正とのバーターがあったりしたら、その筋でも国防系大企業もイッチョカミしておいた方がいい、という経営判断を下すだろう。いずれも憶測の域を出ないが、推進派の意向などおかまいなしに、屠った後の大阪市の屍肉を狙って、背後で有象無象がうごめいていたことは想像に難くない。
そもそもこの手法は、ハゲタカファンドが弱体企業を襲撃する際の「LBO(レバレッジド・バイアウト)」と呼ばれるもの。まだ得てもいない相手先企業の資産をかってに先に担保にしてしまって買収資金を調達し、買収完了後、自分のものとなった弱体企業をバラバラに解体売却して返済する。しかし、このきわどい手法は、買収に失敗したとき、ファンド本体の返済能力をはるかに超える損失と負債を抱え、ただでは済まないことになる。
もはやすべてワヤ。たしかに民主主義は、投票に敗れても、辞めれば済む。どのみち、党庫が空っぽでは、年末の選挙など、どうやっても出ようがあるまい。ただ、辞めても「借金」は消えない。借りたつもりでなくても、出した連中は、騙された、と思っている。本人はおめでたく、一人、テレビタレントに転向するつもりらしいが、はたしてそれで許してもらえるのだろうか。これまでにも政治家で「自死」だの「病死」だの、カネ絡みの妙なウワサは何度も聞いている。人を煽ったツケ、とくに欲得まみれの連中に出してもらってしまったカネのツケは恐ろしい。
マスコミとしては、彼がどうなれ、もういただくものをいただいた以上、その大本のカネの出どころの問題については、もう終わった話として、いっさい触れたくもあるまい。ただ、すぐに辞めずにいましばらく続けるとかで、その間に府や市の公財が奇異な処分をされないかどうかは、マスコミの本来の仕事として、しっかり見張っておいた方がいいかもしれない。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門 は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)
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