「嫌われる勇気」・・・ヴィレッジヴァンガードの場合/金森 努
INSIGHT NOW! / 2015年7月10日 7時0分
金森 努 / 有限会社金森マーケティング事務所
そのヴィレッジヴァンガードの幹部の方(関戸康嗣氏・同社営業企画部リーダー)が連載をしている「AdverTimes(アドタイ)」のコラムで同社の特徴を現しつつ、非常に学ぶべき部分があったのでその話を深掘りしたい。
コラムは第1回からAdverTimesの連載ページで読むことができるが、特に筆者はこのページに感銘を受けた。連載第8回の途中のページであるが、小見出しに「95%の人に嫌われる店 5%に人に気に入られる店」とある。
その意味する所は、筆者の関戸氏が勤務していた東京のある店舗で、<テナントビルへの入館者数やほかのテナント様の売上も見ることができた。その時そこで見た数字は、今も心に留めている。そこで見た数字は、ヴィレヴァンへの入店率5%。95%は素通りという事実だった>とある。その数字を受けて、同氏は店舗スタッフとミーティングを開き、今後の方向性を見出したという。即ち、<5%の方に思い切り満足してもらえるような店を目指そう。それによって95%の方に満足されなくても構わない>というものだった。超ニッチ宣言だ。昨今、世の中ではAmazonが隆盛を極め、リアル書店は大型化で生き残りを図っている。そのどちらでもない自分たちの生き残る道はそこにしかないという考え方に至ったということだ。
ニッチ戦略とは大手が手を出さない領域に特化して、その狭い市場でのリーダー、No.1になることだが、もっと端的にいえば大手が、もしくは誰もが手を出さない事業で収益を最大化することである。もちろん、「収益最大化」と言うからには、ニッチな市場ながら相応の優良顧客を抱えていることが欠かせない。でなければ、商売は成り立たない。ところが、この「相応の」というところが得てして誤解と悲劇を生む。ニッチであるはずが、収益確保のために規模を追ってしまう例が散見される。ニッチ戦略のリスクとは、市場規模の拡大によってリーダーに目を付けられ、「同質化戦略」を仕掛けられ市場を奪われることである。規模化はそのリスクを自ら高める行為である。
では、ニッチがニッチであり続けながら収益を上げるにはどうしたらいいのか。それは単純な計算式で表すことができる。<売上=客数×客単価×リピート率>である。
顧客規模を追うのではない。少数の顧客でも一人一人の客単価とリピート率を上げることを目指す。そのためには、顧客を強烈なファンにすることが欠かせない。しかし、強烈なファンを生むためには自社やそのブランドが他にはない個性的な特徴、ポジショニングを示さねばならないことになる。それ故、その個性に好感を持たない、いわゆる「アンチ」を生むことにもつながる。その覚悟を持てなければ凡庸なブランド、ポジショニングとなりニッチとして成功は望めなくなる。「ヴィレッジヴァンガード」の「5%の方に思い切り満足してもらえるような店を目指そう。それによって95%の方に満足されなくても構わない」はニッチとしての生き残り策を強烈に覚悟した言葉なのである。
全てのお客様に「ステキな店・便利な店」と認められることを捨て、むしろ「ゴチャゴチャしていて入る気が起きない店であり続ける」という境地に立つことは、考えてみれば「嫌われる勇気」にも通じるものがある。
累計63万部を突破し、2014年に超大の話題作となったアルフレッド・アドラーの『嫌われる勇気』。日本人にとって馴染みのなかったアドラー心理学の入門書であるが、その要点を乱暴にまとめてしまえば、「人の期待に応え、良い人と思われようとする”承認欲求”を捨て、”他人から嫌われるコスト”を払ってでも、その”全ての人から嫌われないように立ち回る不自由極まりない生き方から解放されるべきである”」ということである。
全ての顧客を追わない。「嫌われる勇気」を持って強烈な5%のファンのために店作りをすることを決意した「ヴィレヴァン」の決断は、中途半端になって失敗しがちなニッチ戦略の好例として学びは深い。
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