サプライヤーの立場からみたコンペのあり方/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年6月25日 18時37分
野町直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
昨今騒がれている新国立競技場のデザインコンペやデザイン見直しを通じてサプライヤの立場からみたコンペのあり方を語ってみます。
ここのところ、新国立競技場のデザインコンペやデザイン見直しの話が様々なメディアによく出ています。私も詳細はよく知りませんが、要件として当初1300億円という予算が提示されていたはずだったが、最も斬新なデザイン案が採用され、試算では3000億円に工費が膨らんでしまい、デザイン案の見直しを行い約2500億円の規模の総工費が見込まれているという話です。
私がこの話を聞いて最初に感じたのは、デザインコンペで落ちた会社やデザイナーはどう思ってるかなということです。いろいろ事情はあるのでしょうが、コンペを主宰した側にも何らかの説明責任があるということでした。このようなコンペや相見積り、入札などの一般的に競合と言われる手法は調達購買手法として一般的です。私の立場は競合を主宰する側に対するコンサルティングや支援をする立場ですが、同時にサプライヤの一社として競合に参加することもあり、今回のメルマガでは競合のあり方についてサプライヤーの立場から考察していきます。コンペや競合はある意味とても公平な機会です。これに対して公平な競争になっていないケースも少なくありません。例えばある一社から見積りを取ったが思ったより高い見積りだったので改めて何社かの(例えば海外も含む)サプライヤーから見積りを取り、そこで得た安価情報を元に交渉を進め最終的には当初見積りをとった本命サプライヤに発注する。(これを当て馬と言いますが)このようなやり方はごくごく一般的です。
最終的に発注がくる本命サプライヤーにしてみれば、「まあよくあることだ」で終わりますが、当て馬にされたサプライヤにとってはちゃんとした説明がなければ、この会社の依頼には真面目に対応しても無駄だなということになります。例えば実際の現場でも、コンサルティングの提案を求められるときに何らかの紙(例えば提案依頼書のようなもの)が出てくることは多くありません。
ですからコンペとか入札、相見積りのようにしっかりした手順で依頼がくるということはある意味それだけ参入機会が増える訳ですからサプライヤにとってはウエルカムです。(もちろん一者特命が一番ウエルカムであることは間違いありませんけど。)ただ今回の新競技場のデザインコンペではありませんがコンペとか入札等のしっかりした手順を踏んでいるにも関わらず、何か不透明な意思決定が行われたり、前提条件が大きく変わってしまったりすると余計不透明感が増します。例えば最安値だったにも関わらず発注がこなかった、とか見積りの際の仕様や前提条件が最終的には大幅に変わってしまっていることに失注したサプライヤが気がつくとか。。こういうことがあるとサプライヤは元々どこか本命の企業があってそこの条件交渉のために、もしくは型通りの手順を踏んでいることを見せたいがためにコンペさせられたんだな、とか考えてしまいます。
サプライヤはやはりこういうことがあると、そういう企業に対してやる気のある見積りや提案はその後出さなくなってくでしょう。昨今リバースオークションを公共入札で活用する機会が増えているようですが、確かにオークションは公平かつ透明性が確保されるツールです。一方で透明性が確保されてしまうため買い手が何らかの意思をそこに挟むことができなくなります。サプライヤは自分が最安値かどうかわかりますし、他社がいくらで入札したかもわかります。ですから落札したサプライヤーを採用できないケースがおきた場合は最悪です。リバースオークションが日本企業に導入され始めた2002年くらいのことですが、ある企業でオークションを大規模に使い安価入札を得たものの、その後、品質実験等を行った結果8割方の案件で採用ができなかっという話はとても有名です。このケースでは事前に開発部門との調整やサプライヤーの審査が不足していたことが、採用に至らない理由としてあげられていましたが、このようなケースが起こるとサプライヤーは二度とこの企業のオークションに進んで参加しようとは思わないでしょう。このように透明性が確保されればされるほど小細工は禁じ手になってしまうのです。ある先進企業ではこのような問題に対して交渉時にやるべきこと、やってはいけないことをルールとして決めて全バイヤーに教育し徹底させています。当て馬や指値などはもちろんやってはいけない行為としてルール化しているのです。
このようにしっかりした手順を踏んだコンペや入札、相見積りなどの競合は、徹底されていればサプライヤ側からしても公平な競争機会を作り出すことにつながるのでサプライヤにとって"嫌なこと"とは限らないのです。コンペや競合、入札に関してもう一点バイヤーに理解して欲しいことがあります。それは見積りも提案もお金がかかるということです。今回の競技場の件でも工事施工を行う建設会社や設計会社が総工費を引き上げていると非難する声がありますが、契約や施工に入れなくても人は確保している筈です。デザインの見直し等の調整に時間がかかればかかるほどコストはかかっているのです。案件によっては最初の引き合いから決定、購買(実行)まで数ヶ月かかるケースも少なくありません。コンサルティング支援でも、何度も提案を出し直し、その度に訪問し、打合せをして、、これもコストがかかっているんです。
そういう意味からサプライヤの立場からはできれば早く決めて欲しいんです。あまりにがんじがらめに手順を踏んで、一次選考、二次選考、最終選考、と時間がかかればかかるほどサプライヤにはどんどん負担がかかっていくものなのです。透明性公平性を確保しつつ、できるだけスピーディかつ最良の提案や見積を引き出すというのは実は結構難しいことだということをバイヤーの方々にも是非再認識していただきたいのです。
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