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戦略的購買とリワイヤリング/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2015年7月8日 23時19分


        戦略的購買とリワイヤリング/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

先日、あるIT企業のパネルディスカッションに参加させていただきました。そのパネルディスカッションにもご登壇されていた一橋大学イノベーションセンターの西口教授の話を間近でお伺いする機会があり、たいへん興味深い話だったので私なりの理解も含めシェアさせていただきます。
西口教授はネットワークや組織論を専門とした社会学者で様々な著書を出している先生です。今回西口教授のお話しの中で興味を持ったキーワードは2つあります。

「戦略的購買」と「リワイヤリング」です。

「戦略的購買」は1980年代の日米自動車業界の比較研究を行い1994年に西口教授が使われた言葉とのこと。1980年代米国自動車業界のサプライヤマネジメントは、とにかく激しい「競争」でした。単年度契約で常に複数社購買を行っており、毎年価格優位な取引先を採用することを行っており、結果的に「安かろう悪かろう」の世界に陥ったそうです。
それに対する反省から生まれたのが「戦略的購買」という概念です。「戦略的購買」は「協業的」で「体系」だった仕組みと定義されています。取引先ではなく重要なソース先としてサプライヤを捉え、サプライヤと共存共栄の関係を築いていく。これが「戦略的購買」であり、実はこの発祥はトヨタ自動車等の日本企業の取組みである、とのことでした。

会場でも申し上げましたが、私は正にこれからの日本の調達購買には「戦略的購買」が必要となる、と繰り返し述べています。昨年末にメルマガ(ブログ)でも書きましたが、今後の調達購買をあらわすキーワードは「協働」と「サステナビリティ」です。

2000年位の日本企業の調達購買は一部の先進的企業を除きここで言う「戦略的購買」や80年代米自動車産業のような「競争」さえも行われていませんでした。このころの日本の調達購買は「単なる買いモノ係」のようなもの。社内で指定されたものをどこからか探してきて、買う。価格については見積書をもらい赤鉛筆で査定をして見積りよりも安くなってコスト削減しました、という世界感だったと記憶しております。以降、現在に向けての調達購買改革はどちらかというと「集中化」「競争化」「集約化」といった欧米型の体系化が中心となっていました。

ところが、その世界観が昨近急激に変わりつつあります。如何に優秀なサプライヤを囲い込んでいくか、サプライヤとの関係性を築いていくか、がとても重要な時代になりつつあるのです。大きな理由は2つ上げられます。一つはグローバル化により日本での買う立場が通用しなくなってきていること、それから場合によっては他の新興国に買い負けしてしまうこと。もう一点は国内での人手不足です。
このような理由から(以前から申し上げていますが、、)サプライヤとの「協働」が求められており、西口教授がおっしゃっている「戦略的購買」が求められる時代になってきているのです。

実際にある企業の調達部門担当役員からこういう話を聞きました。
評価が低いがこちらを向いてくれているサプライヤと、評価が高いがこちらをさほど向いてくれないサプライヤでは、躊躇なくこちらを向いてくれるサプライヤを選択する、これは当社の調達方針である、と言っています。
またある企業ではサプライヤモチベーションを向上させるためにどのような施策を打てば効果的か、サプライヤ毎に調査を行い、モチベーション向上施策を取っているという状況です。
このように「協働」とそのためにどうしたら良いか、という世界感が今でこそ広がっていますが、1994年という時代に「戦略的購買」という概念を確立しているという西口教授の先見性には頭が下がります。

次は「リワイヤリング」です。

西口教授は"近所づきあい"的な、どちらかというとクローズで親密なネットワークをレギュラー・ネットワークと言っています。そしてレギュラーネットワークの一部が他のレギュラーネットワークや新しい参加者と交流することで「リワイヤリング」が行われ膨大な情報が流れ、可視化する現象がおきる現象が一般的であり、そのようなネットワークをスモールワールドネットワークや"遠距離交際"と呼んでいらっしゃいます。

確かにその通りです。社会に存在するネットワークの多くはレギュラー・ネットワークです。レギュラー・ネットワークの多くはかなりの確率で時間と共に衰退します。そこに流れる情報はそのネットワークにいる人に依存する訳ですから、新しい人がどんどん参加するようなネットワークでなければやはり陳腐化するからです。私自身購買ネットワーク会という調達購買に携わる異業種・異企業間のの交流会を2005年に立上げ、幹事を長くやっていました。ここでこころがけたのはネットワークの固定化を防ぐことです。具体的にはネットワークメンバーを固定化しないで常に新しい人に門戸を開く、主幹事を固定化しない、東京だけでなく地域に新しいネットワークを作ることを推奨する、レギュラーネットワークだけでなく派生した分科会のようなネットワークを推奨する、等々。
もちろん私はこれを「リワイヤリング」と意識してやってきたわけでもありません。また、私一人でできたこと、やってきたことでもありませんが、結果的には「リワイヤリング」そのものであり、「リワイヤリング」の重要性を改めて感じた次第です。
おかげさまで、先のネットワーク会は今でも地域版も含めると4地域で開催されており、個人では先日ネットワーク会から派生した分科会活動の発起人として学会で発表をするまでに進化しました。

「リワイヤリング」については「戦略的購買」や「協働」の実現にも関係します。これは未来調達の牧野さんがよくおっしゃっていることですが、サプライヤと自社のコンタクトポイントを見える化し、複合化することが重要だというのは正に「リワイヤリング」そのものです。これは従来であればサプライヤと自社の営業と購買、それも担当間のコンタクトが中心だったものを複合化し、範囲を広げることでコミュニケーションを良くし、サプライヤとの関係性作りにつなげていくこと。営業-購買だけでなく生産管理、製造、生産技術、品質管理、開発、企画などの他部門間、また担当、課長、部長、マネジメントなどの多階層間にネットワークを広げるということです。
正にサプライヤとの関係やネットワークを「リワイヤリング」することにつながります。

「戦略的購買」も「リワイヤリング」というネットワーク論も決して新しい概念ではないかも知れません。またこのような手法はどちらかと言えば協力会システムやCFTなど日本企業が得意としてきた手法、概念です。しかしソーシャルメディアやIoT(モノのネットワーク化)という世界が進展する中でも、実はこのような原点回帰の方向が現在求められている、ということがとても興味深く感じています。

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