ドローン規制は業務用と趣味用を分けて議論せよ/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2015年6月17日 18時50分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
首相官邸の屋上に小型無人飛行機(ドローン)が落下していた事件を受けて、自民を含む4政党が規制法案を6月12日、衆議院に共同提出した。
国会議事堂や首相官邸など、国の重要施設などの上空を無断で飛行させた者に1年以下の懲役を科すことなどが盛り込まれているそうだ。
これとは別に政府では、今国会では空港周辺や住宅密集地などの上空や夜間の飛行を禁じること、さらに秋の臨時国会では購入時に機体の登録を課すことや操縦資格制度を設けることも、それぞれ航空法を改正して盛り込むことを検討しているようだ。
それぞれの規制案の全貌が分かっていないのでもどかしいのだが、今の「野放し状態」から一気に過剰規制に極端に振れる事態を危惧している。
気になるのは、そもそも業務用と趣味用を区別せずに規制しようとしていること、将来の技術向上の可能性を考慮せずに一律に住宅密集地の上空の飛行を禁止する方向になりそうなこと、さらには目視できる範囲でしか飛行させないというガチガチの規制になる可能性すらあること、の3つだ。
日本でドローンを適用しようとする業務領域は、既に現れているだけで防犯対策、災害報道、インフラ整備など着実に広がりつつある。それだけ有用さが認識され始めたのだ。
それなのに「落下する可能性がある」からと、業務用と趣味用を区別しないで一律に住宅密集地の上空の飛行を禁止することになってしまうと、この新しいテクノロジーの適用可能性を相当つぶしてしまう。
ましてや目視できる範囲に限るなどというのは論外だ。
画像カメラとGPS機能、それに加速度センサーなどを組み合わせて、飛行姿勢の自動制御は既に相当なレベルまで来ており、見えない遠隔地からの操作で障害物を避けながら自動で発着することもやがて確実にできる見込みだ。必要な空間で一定時間ホバリングすることは既にできている。
つまり我々は、過疎地や災害などで隔絶された場所に取り残された人に手軽に物を届けたり、迷子になった子供や高齢者を遠隔操作で探しにいったり誘導する手段を手に入れようとしているのだ。橋の下などの建造物の見えない部分を人の代わりにカメラで「目視」して、問題が生じていないかをチェックすることができつつあるのだ。
そうした適用場面は今後ますます広がるはずだ。実際、弊社でも新規サービスの開発支援を頼まれて、ドローンを使った新サービスを既に幾つか民間会社に提案している。
社会的な効用を考えると、今不用意な規制で、遠隔地への飛行や操縦者の見えない範囲への飛行を一律に禁止することは大いに馬鹿げている。
肝心なのは、適用場面とその安全面を考えて必要最低限の規制をすればいいだけの話だ。そのためには少なくとも業務用と趣味用とは全く思想と取扱いが違うべきなのである。
現在の技術レベルでさえ、素人でもある程度練習すれば結構上手に飛ばせるほど今のドローンは手軽なのだが、やはりそこには趣味の無責任さが伴う。一般人が技量を維持・向上するために真面目に練習する保証はない。
そのため、一般人が趣味用に飛ばす場合は、住宅密集地の上空だけといわず、人の集まる公園など公共の場所での飛行を禁止するのも妥当だろう。
でも業務用であれば、社会的責任を果たすため、そして何といっても事故を起こさないため、担当者は自己の技量を向上し保つ努力を惜しまないだろうし、監督者は自らの責任において担当者にそうさせるだろう。
事故が起きれば操縦担当者および監督者が責任を問われるのも、やむを得ない。そうしておけばドローンの飛行安定性が相当高まるまでは、業務用といえど、都市や住宅地などの上空を不必要に飛ばす業者は現れないだろう。
そのために業務用については、当面は免許制にすることも妥当だと思う。
しかしその場合、多少は技量が必要なものとしないと意味がないと思うが、ドローンの飛行安定性に関する自動制御技術は今後飛躍的に進歩するだろうから(日本での規制とは無関係に海外でも進化する)、免許のための試験はどんどん陳腐化して無意味化することが目に見えている。多分、この免許が本当に必要とされる「当面」というのは10年程度だろうか。
一方、「素人の趣味用であろうと免許制にせよ」との意見も政治家には強いようだが、あまり意味はないのではと思える。
既に述べたように、趣味用で飛ばす分にはそもそも大した技量を必要としない程度には今のドローンの性能がよくなったので人気になっているのだ。誰でもすぐできる簡単な飛行をさせて免許を与えてやる、などとやったら、役所が免許代をせしめるためだけの無駄な制度だと猛反発されよう。
かといって高度な技術を要する免許にしてしまえば、かえってお墨付きを与える格好になって、アクロバティックな飛行やきわどい所を飛ばす誘惑を素人に与えることになったら本末転倒だ。
話を整理しよう。一般人が趣味でドローンを飛行させる場合には免許不要とすべきで、その代わり目視できる範囲でしか飛ばせない、(空港周辺や特別重要な施設以外にも)居住地や公共の場所など人の集まるところでは飛行禁止とする。
一方、業務用にドローンを飛行させる場合には当面の適切な期間は免許を要し、もし事故が起きたら業務上過失○○罪などに問われ得る。行政府関係や原発施設など特別重要な施設の周辺以外は原則自由もしくは届出制とし、目視できることを要件にはしない。
こういうことでよいのではないだろうか。
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