直感でわかる仮説思考3/「たられば」がわかれば仮説がもっと見えてくる/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2015年6月20日 15時7分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
さて、ここまでは「あの時こうしていればもっと違った結果になっていたのに」という後悔と、「こんなことが起きたらいいなあ」という期待から仮説を直感的に捉えることを試みてきました。
これをビジネスに置き換えると「こういうことをすれば自社の収益が上がる」という仮説と、「市場でこんなことが起きたらいいなあ」という仮説になることもわかりました。つまり仮説には2種類あるんですね。「自分の行動とその結果」に関する仮説と、「市場に起こりうること」に対する仮説です。
こんなことが起こるんじゃないかと期待して何かしらやってみる。そうすると結果が出てくる。もっとこうすればよかったのにと後悔する。違うことをすれば違う結果になったかもしれないと思って、また違うことをやってみる。また違った結果が出る。こういう形で期待と後悔はつながっている。つまり、自分の行動に関する仮説と市場で起こることに関する仮説はつながっている。
そして、言葉が指し示す状況がリアルに感じられれば、本で読んだりしたことも、実際に経験したことと同じような形で自分の経験となり、期待できるようになることもわかりました。確かに限られた人生の時間の中で実際に経験できることなんてたかが知れていますからね。
松下幸之助さんや小倉昌男さんの伝記などを夢中になって読んで、過去に起こったこと、家電業界や運輸業界に起こったことをありありと感じられれば、それと似たような期待を自然と抱くことができるようになるかもしれません。
ただ、実際のビジネスで見るのは各種の統計データやインタビュー結果ですし、学問で見るのは先行する類似の研究でしょうから、リアリティが少し感じにくいかもしれません。このあたりをどう越えるか?はもう少し後で取り上げますので、少々お待ちください。
その前にこの自然に生じる「期待」や「後悔」がわかった上で、どのようにそれを意識的にやればいいのか?について少し見ていきましょう。ここで注目するのは「たられば」というやつです。
「たられば」というのは誰でもわかりますよね。『歴史やスポーツに「たられば」はない』と格好よく語る人もいます。「あの時こうだったら、あの時これをしていれば」が俗に言う「たられば」です。
普通、「たられば」はあまりいいイメージの言葉ではないと思います。しかし、ここではむしろ積極的に「たられば」を言いたくなる状況を見てみることで仮説思考のイメージをより鮮明に掴んでいきます。誰でも使うしイメージが湧きやすい言葉ですからね。
では、質問です。
「たられば」を人が言いたくなるのはどんな時だと思いますか?
ここまでの内容がわかっていれば、答えは自然とわかるでしょう。
そう、「自分の今の期待に反することが起きた時」です。
それで、学生に聞いてみました。「『たられば』を言いたくなった時はどんな時ですか?」と。
その答えは次の通りです。
A.就職活動の結果に納得がいかなかった。今ぐらいいろいろわかった状態で1年生だったらもっと考えて勉強する充実した学生生活でもっといい会社から内定が出たのに・・・。1年生に戻りたい・・・。
B.大学生活で女の子ともっと仲良くしていればよかった。そうすれば今の時点でもっと女の子が求めていることがわかって、もっと今が充実したのに・・・。もっと言えば、1年生の頃は出会いが頻繁にあるからよりどりみどりな状況が楽しめたのに女の子のことがよくわからなくてできなかった。3年生になるとかわいい子はほとんど誰かに取られていて、なかなか難しくて。
C. 留学していればよかった。もうちょっと違う世界があったんじゃないかと思うんです。親からも一度許可をもらったんですけど、そうしたら、就活をまだしてなくて、勉強できていたのに・・・。
D.二年も休学していなければ良かった。こんなに歳を取らずに済んだと思う。27歳で結婚すると考えたら、今が24歳だからあと3年しかない。やっぱり27歳で結婚できないかもしれない。それじゃあ私は困っちゃうんです。
Aの学生が今抱いている期待は「納得できる先に就職ができればいいなあ」でそれに反する結果が実際に出てしまっていると言っているわけです。その原因を過去の自分の大学での過ごし方に求め、ちゃんと過ごすことがその解決策だったと思っているということですね。
Bの学生は面白いことを言っています。
あ、いえ、そういう意味ではなくて、2つのことを言っていることが面白いんです。1つはあの時こうしていれば今の自分がもっと女の子の扱いのレベルが高くなっていたことを言っています。もう1つは今のレベルの自分で過去に戻ったとしたら女の子がよりどりみどりの状況を楽しめたのに!と言っているわけです。
状況は3年生以降と1年生で違う。3年生ではかわいい女の子に既に決まった相手ができている。1年生ではかわいい女の子に相手がおらず、しかも出会いの機会が多い。これは当然、現在の女の子と話すスキルレベルで1年生に戻りたいと言っているわけでもあります。
すると、現状抱いている期待は、女の子ともっと仲良くできたらいいな、なのですが現実はそれほど仲良くできているわけではない。その原因を1年生の時の女の子との接し方に求め、それをちゃんとやっていけばよかったと思っている。しかし、自分の女の子との接し方レベルは確実に上がっているという確信があり、過去に戻れば楽勝だとも言っているわけです。
Cの学生は留学をしていれば、今、就活をせずに済んだと言っています。そこから見えてくる期待は、就活がうまくいけばいいというものですね。それに反する状況が少し起きているのではないか?ということが読み取れます。その解決策として過去に留学していれば、と言っているわけです。
Dの学生は27歳で結婚できればいいなという期待を抱いていて、でも、どうもできなさそうな現実が現れている。つまり、今、恋人がいない状況ということなのでしょう。その原因を2年間休学したことに求めているわけです。それをやっていなければ、今は22歳なので、27歳まで5年あって現在彼氏がいなくてもなんとかなると言っているわけですね。
4つの例を見ましたが、期待すること、それに反する現実の発生、その原因を過去に求めて特定しているというのが共通していることですね。
自分の期待に反することが起きると、その時、反射的に人は問うのですね。「なぜこうなったのだろうか?」と。そして、自分なりに原因を考えて、もし条件が違っていたら、もし誰かがこういったことをしてくれていれば、自分がこういったことをしていればとその原因を消しに行くことを自然と考え、異なった結果が出ていたのに・・・、と思うわけです。
すると、より多くのなぜを問う人は、より多くの期待をし、より多くの後悔をし、より多くの「たられば」を想定していることになります。なぜを問うことは世の中でも称賛されるようになってきたのに、「たられば」を想定することが悪いことのように言われるのはどうなのだろうと私は思います。
ただ、「たられば」がよくないと言われるのは、自分に関して「たられば」を言うとそれはつまり過去に原因を求め、過去の行動の修正によってそれを解決しようとしているので、それは不可能だからなのでしょう。
ただ、原因が過去にあったとしても、現在何かすることによって、その期待を実現できる可能性があるなら、「たられば」を踏まえて、「じゃあ今できることがあるのか?それは何か?」ということに関して答えを出せればいいようにも思います。
でもね、仮説思考はできないと思う人が多い現実と「たられば」は良くないと頻繁に言われるほどありふれているという現実を踏まえると、「人は期待に反する現実が生じた時、過去に原因を求めて、その解決策を過去にやった行為の修正に求めることは自然にできるけれど、その原因を現在に求めて、その解決策を現在できることで想定することはそれほど得意ではないのでは?」ということが見えてきます。
でもね、普段やっていることの時制を過去から現在に持ってきてやってみればいいと思えば、多少、届きそうな気がしませんでしょうか?
単に人それぞれで思いつくしかないと言われるよりも、なんだかできそうな気がしてきますよね。実際に学生たちはこういった説明で勇気づけられて、そうそうたる企業へのビジネスプレゼンで仮説を出し、時に社会人顔負けのプレゼンをしていました。社会人として経験を積んでいる皆さんならきっともっとできるはずだと思います。
ただ、実はもう1つ問題があります。ごめんなさい。
それは次に見ていくことにしましょう。
次回は「人の期待が分かればもっと仮説が出せるようになる」と題して、他人が期待することがわかることが、もっと仮説を出せるようになるために必要だということを見ていきます。
それでは今日はこのあたりで。
【ポイント:「たられば」を思い出して、期待とそれに反する現実、過去の行為の修正を書き出してみる】
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