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【変革を科学する#10】共感か反感か/森川 大作

INSIGHT NOW! / 2015年9月18日 11時30分

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森川 大作 / 株式会社インサイト・コンサルティング

共感とは簡単に言うと、同じように感じること。変革の必要性について同じように感じてくれれば、共感者として変革側に回ってくれると言うわけです。心理学的に定義すると、「他者の中に自分を認める能力」となるようです。逆に言えば、他者の中に自分を認めないこと=反感となるでしょう。

この定義は、わたしたちがしばしば遭遇する人間関係におけるゆがみを見事に説明してくれます。こんな実験があります。だれか知っている人で自分をいつも理不尽にいらいらさせる人物を思い浮かべる。たいていの人はうまく付き合えるが、この人に限っては、黒板をつめで引っかいたように神経に障る。そこで、一枚の紙にその人のいらいらする特徴を表す形容詞を出来るだけたくさん遠慮せずに書き出してみる(リストA)。次に、そのリストのすぐ隣に、正反対の言葉を書き込んでいく(リストB)。たとえば、臆病なら勇敢、遅いなら早いなど。出来上がったら、リストBを読み上げる。たいていは、もっとも誇りにしている自分の特徴になっている。

この実験において、リストAは自分が抱いている反感、つまり他者の中に自分を認めない感情が表されています。たとえば、勇敢であるべきだといつも自己と闘っている人にとって、臆病というのは、自分に決して認めたくない感情でしょう。何事も早く仕上げることをモットーにしている人にとって、いつも遅いというのは許しがたい自分の姿なのです。つまり、本当の自分は、実は反感を抱くような闘っている自分であり、その自分が許容されているような他者を見ると苛立ちを覚えるというわけです。実際の自分の本当の姿はリストBではなく、多分にリストAであるにもかかわらず・・・。*

さて、この実験結果を変革に当てはめてみましょう。常にあるべき姿を前面に掲げてリストBだけで変革を推し進めようとすると、当然ながら共感者を誘うこともあれば、反感者を誘うことにもなるでしょう。この反感者に対して変革者はどう感じるべきでしょうか?変革を邪魔する気に障る存在と写れば、リストAのようになるでしょう。ところが、自分の方から共感する姿勢を示すとどうでしょうか?実際には、変革者自身が闘っている自分の姿であるリストBを他者に認めるという努力です。

実際には、変革に関わる人々に共感すること、すなわち、この変革はやるべきだし、とてもよいと思うが、でもやるとなれば、いまのこれはこう変わってしまう、あれはどうなってしまうのだろう、現場のことが分かればこそ不安になる、という感情を受け止め、認める努力が必要です。共感すれば、共感してくれるはずだからです。たとえば、あるべき姿や戦略部分ばかりを前面に掲げるのではなく、現状を如何に理解しているか、実行計画はどれほど地に足の着いたものかを示し続けることでしょう。

反感を生じさせている部分が、実は自分も闘っている弱い部分なのだということが分かると、人は「そうだったのか」という共感を持つようになるというわけです。弱い自分=反感を自分の中にまずは認めることが必要というわけです。反感部分を隠しておいたままでは、人は共感してくれません。「この人は、わかっていない」で終わるだけです。自分の中の葛藤を共有する姿勢が共感を呼ぶのです。

共感か、反感か。共感は単にビジョンや戦略に対して理性的に生じるものではありません。共感のメカニズムを理解すると、反感も実は共感に変えることができるということがわかります。

* 誰が世界を変えるのか 2008 フランシス・ウェストリー 英治出版

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