【変革を科学する#13】対話による組織変革/森川 大作
INSIGHT NOW! / 2015年10月30日 7時0分
森川 大作 / 株式会社インサイト・コンサルティング
心理学者のカール・ワイクは、「文化を共にすることは、共通経験に関する物語を語ること」と言っています。組織のメンバー一人ひとりが、組織の中で体験したこと、見聞きしたことを主体的に語り、意味づけていかない限り、組織文化は醸成されないし、共有されることもない。
「対話する組織」*1)の中で、著者は組織における物語(ストーリー)の果たす役割を説明しています。
情報は有形で移動させることで伝わると考えるのが導管メタファー。導管の中を情報が移動するイメージです。でもそれで本当に相手に伝わったと言えるのか。わたしたちの感覚では、伝わったかどうかの判定は、伝えられた側が共感し、変化し、主体性をもって行動することにより測られるのではないか。ではそのために必要な組織のコミュニケーションとは何か?それが、ダイアローグです。
ブルーナーによれば、人間の認知作用には2つある。1つは論理実証モードであり、事実を分析し一般化して理解する。もう1つは、ストーリーモードともいうべきもので、意味を紡ぎ特殊化して理解する。人間には物語文法というものがあり、人は物事を分析的に理解するだけでなく、物語(ストーリー)で把握するようにできているようです。ですから、共感し、主体的に変化するという協調行動には、事実の共有(客観主義)ではなく、意味付けの共有(主観主義)が必要であり、共有すべきことはその結果ではなくプロセスが重要ということになります。
ダイアローグ(対話)はまさに意味付けのプロセスを共有するものです。議論や雑談との相違は次のように考えることができます。対話では、緊急なことよりも重要なこと、つまり本質的なことを真剣な中身とし、自由な場で実現することが望ましい。
<中身=真剣>×<場=緊張>=議論
<中身=戯れ>×<場=自由>=雑談
<中身=真剣>×<場=自由>=対話
このような対話により、今の組織が抱える3つの課題に取り組む文化が生まれます。
1. 協調的問題解決・・・問いと答えが一義的に決まっていない不良定義問題こそビジネスであり、議論で解決策を決めることよりも、対話で問題を意味づけることが重要(問題解決症候群からの脱皮)
2. 実践的知恵の共有・・・現場で共有すべき知とは、宣言的事実(~とは~である)ではなく、手続的やり方(~なら~する)の方であり、それは個人ではなくヒューマンネットワークにある。
3. 組織変革・・・学習とは伝達ではなく変容、つまり主体的に変わっていくことである。組織変革の見えない力は、明文化された戦略やステートメントではなく、個々人の学びと成長の積み重ねの果てにある。
文化が変わるとは、事実への意味付けが変わることであり、その触媒となるのが物語(ストーリー)であり、物語を語るコミュニケーション様式、すなわち「対話」こそが組織変革の原動力になるとまとめられるでしょう。
さて、この「対話」を前向きに駆動させるさらなる原動力とは何か?単に経験談を共有するだけでは、単なる体験の繰り返しに過ぎません。振り返り、つまり内省(Reflection)がない体験の繰り返しは「這い回る経験主義」と言われるそうです。それに対し、ヘレン・ケラーは、Unlearn(学びほぐし)の必要を感じていました。経験し学んだことを自分の中で解きほぐす行為が必要だということでしょう。そのためには、自らが経験したことから原則を抽出する力(表出化)、一般化された原則を自分の状況に適用する力(内面化)の両方が必要でしょう。
ある出版社の編集者に教えていただきましたが、最近売れる本の特徴は、コツコツ君型の本だそうです。その「コツ」を教えて欲しいという読者層に受けなければならない。同じような傾向を私自身も強く感じることがあります。たとえば、物事をたとえ(メタファー)で考え、そこから原則を導いて、自分の仕事に適用するという思考が通じない!理解を促進するために良かれと思ってやったことが、全く理解されない。それよりも、要点のまとめをリストにして欲しいなどと言われる。
対話の原動力としての、原則の抽出と適用の力、大切にしていきたいと感じます。日常の生活の中でも、意識して取り組めます。たとえば、映画やドラマを見た後、学んだことを一言で話してみる。本を読んだら、手帳に学んだことを簡潔に書きとめておく。日記をつけるときは、事実ではなく感じたことや考えたことを書く。人と会って話した後は、自分が賢くなったことを書き留めておく。ニュースを見聞きしたら、自分なりに意味付けをする。などなど。できることはたくさんあります。こうやって書くのも役立っているはずと信じて・・・。
*1)「ダイアローグ 対話する組織」(中原淳・長岡健著、ダイヤモンド社2009)
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