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【変革を科学する#17】今育成担当者に求められる視点/森川 大作

INSIGHT NOW! / 2015年12月25日 7時0分


        【変革を科学する#17】今育成担当者に求められる視点/森川 大作

森川 大作 / 株式会社インサイト・コンサルティング

1年で何かを収穫しようと思えば穀物を植え、10年なら木を植え、100年なら人を植える、という意味でしょう。この言葉には2つの側面があるように思います。1つは安定した組織の基盤で大切なのは人であるということ、一方で、人の育成は長期的な視点が必要であるということです。この意味で、会社における育成担当者は重責を担っていると言えます。とは言え、彼らも会社の業績管理の下に置かれており、「100年先には実を結びます」というわけにはいきません。

育成担当者に求められることは、一言でいうと「信念」だと思います。「人は必ず成長できる」という固い信念がなければ、人を育てることなどできません。その信念は作物を成長させる農夫と同じです。出ている芽を無理矢理引っ張っても成長できません。環境変化に左右されてあれやこれやと矢継ぎ早に何かをしても成長には結びつきません。育成者ができることは、その芽が成長できる環境を整えることであるということを謙虚に認めつつ、できることを愛情を込めて行い通すことだと思うのです。

その意味で、会社からあれをやれと言われたから教育する、業界で流行っているからうちもやる、社員がやりたいと言うからこれをやる、という具合に信念なき教育にならないように、<正しいマーケティング>が求められていると思います。会社や業界や個人が求めることそのものは間違ってはいないと思います。でも、<正しいマーケティング>を行わずして、場当たり的に対応することでは、どうしても短期視点で近視眼的になり、成長のための環境を整えているとは言えなくなります。では、<正しいマーケティング>とはいったい何でしょうか?

一般にマーケティングとは、環境を分析しニーズを把握することです。似て非なる言葉はセリングつまり売ることです。セリングの場合、売り物が決まっていて如何に売るかを考えることですが、人材育成も決まっているやるべきことに対応するだけではそうなりかねません。一方、マーケティングの場合、環境を分析し、真に必要とされている物を見極め、売れる仕組みを考えることが関係します。

マーケティングにおけるオーソドックスな環境分析の手法では、外部環境と内部環境に分け、さらに外部環境を2つの視点に分けます。その1つは外部マクロ環境です。たとえば、PEST(政治・経済・社会・技術)の観点で分析します。IT企業における育成で考えてみましょう。政策上、IT技術者をさらに増やすとか海外とのスキル相互認証を行うというのであれば、否応なくある程度はそれに対応しなければなりません。経済指標が伸長し、景気拡大が見込まれるなら受注規模の拡大に備えた体制作りが必要でしょう。新卒者の年次的傾向や外国人を含めたダイバーシティなどの社会的な変化にも対応する必要があります。将来のスマートシティを見据えたビッグデータの活用やそれができるデータサイエンティストの育成が不可欠など、技術的な観点で考えるべき要素が浮かびます。

これらの点に共通しているのは、<対応>しなければならないという点です。外部マクロ環境に対しては、1社や個人の力ではどうにもならない(つまりコントロールできない)のですから、否応なく<対応>するしかありません。人材育成における外部マクロ環境を分析すると、この種のことはたくさんあると思いますので、対応に追われるというよりも先行して対応しておく、もっと言うと、これから述べる環境分析に対応を整合させていく視点が必要でしょう。そのためにも、育成担当者には、外部マクロ環境を見る広いアンテナが必要です。

もう一つは、外部ミクロ分析です。これは、市場において特に顧客や競合相手の動きを把握することです。自社にとっての顧客ひいてはエンドユーザーは、何を必要としているでしょうか?その置かれた状況を客観的に捉えたり、忌憚のない情報交換の場を持ったりしているでしょうか?また、競合相手は、今何に取り組んでいますか?どんな戦略をとっていますか?同じ土俵に乗って競うには、業界のプレイヤーとしてどんな”入場条件”を満たす必要があるでしょうか?特に育成担当者にとって、競合相手の戦略のひもとき、すなわち全社戦略から事業戦略、そして育成戦略へとどのような文脈でブレークダウンしているのかを把握することが必要です。そうでないと、競合相手の単なる変化対応に追われてしまうからです。そのためにも、同業他社との連携の場を持つことは大切なことでしょう。もちろん、業界におけるブルーオーシャンを目指して新たな海原に出るための育成戦略はとても大切ですが、どこで差別化を行うのかを見分けるには、いずれにしても連携の場は必要です。

最後に、内部環境分析です。実はこれが最も難しい。客観的になる必要があり、強みを明確にする必要があるからです。育成担当者にとって自社や個人の弱みを挙げることは難しくないと思います。もちろん、弱みの補完は大切ですが、それに終始していると勝てません。なぜなら、ドラッカーもこう言っています。「人は弱い。悲しいほどに弱い。人は弱みを克服するために雇われるのではない。強みのゆえに雇われる。組織の目的は、人の強みを生産に結び付け、組織として人の弱みを中和することである」。ファストリの柳内さんもこう言っています。「強みをより強くしていかないと最終的には勝てない」。

人を育てると言うとき、どうしても弱みをなんとか克服できるよう助ける方向に考えがちです。でも、内部環境分析において育成担当者が意識して持つべき視点は、組織として個人としてどんな強みを持っているのか、強みを活かして(さらに強化して)どのように弱みを組織で克服するかということです。たとえば、グローバル戦略を育成戦略にブレークダウンするにあたり、「海外市場の経験がないし、そもそもグローバルな人材がいないから、グローバル入門研修をしよう」とすぐに考えるのではなく、「技術力と粘り強さという点では難関を乗り越えた経験がある。これを海外で活かすには何が必要だろうか」と考えるということです。

このグローバルというキーワードに限って言うと、実は求められているのは、単なる外国語力や異文化対応力ではありません。ビジネスパーソンとして、”置かれた環境下において一人でやりきる力”です。でも、これがあれば、ドメスティックな(国内の)仕事を行うにしても、全く違ってくるはずです。育成担当者にとって、グルーバル<対応>ではなく、真にグローバル育成戦略を考えるとすれば、この<普遍性>に着目し、何をどのように学ばせるかについて考え、成長の環境を整えることが求められるわけです。

内部環境分析を行うにあたり、役立つもう一つの観点は問題の3タイプを意識することです。問題はあるべき姿と現状のギャップです。ただし、このあるべき姿をどこに置くかで異なってきます。1つは発見型問題です。これは、あるべき現状に対して何かの障害が生じた場合に現状復帰を目指すという観点ですから、この種の問題は誰に目にも明らかで顕在化しています。人材育成では、メンバーの欠員や特定のスキルの不足が明確になっている場合でしょう。もう1つは、設定型問題です。これは、あるべき姿のハードルを今より上げることによって新たに問題として浮かび上がる類のものです。たとえば、これまでは主に金融や公共系の業務システムに取り組んできたが、これからは流通や製造の業務システムもカバーするなどのようにハードルを設定することで、新たな問題として捉え、課題に取り組むなどの場合です。そして最後の1つは、将来型問題です。このまま行くと将来のいずれかの時点で問題になるという類のものです。たとえば、パートナーに出していた製造工程をいずれは引き取り、技術の空洞化を補てんするだけではなく、スピーディーな技術対応力をインソースで持つようにすると考えた時の問題は?などのように考えます。時間軸をシフトして設定型問題を考えるわけです。

今回は、育成担当者に求められる視点を、マーケティングという観点から考えてみました。 人材育成という観点で、社内マーケティング、業界マーケティング、市場マーケティングを行い、 成長のための環境づくりを、信念を持って行い続けることが求められていると言えるでしょう。

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