課長は不要な存在なのか?/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年8月5日 5時0分
![課長は不要な存在なのか?/野町 直弘](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_8517_0-small.jpg)
野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
先ごろカナダで行われたサッカー女子ワールドカップでは日本女子チームの活躍が話題になりました。残念ながら今回はなでしこジャパンは優勝はできませんでしたが、最後まで諦めないで戦う姿は多くの人に感動を与えたものです。
今回のなでしこジャパンで一番輝いていたのは間違いなくキャプテンの宮間選手でした。宮間選手のインタビューを聞いていると彼女はビジョンを持ったチームリーダーであることが分かります。「女子サッカーをブームに終わらせずに文化として育てたい」という発言など、先代のキャプテンであった澤選手が「背中を見せてついてこさせる」タイプに対して、よりその時代にあったリーダーシップや意識の高さを感じるのです。
宮間キャプテンの言動を聞いていて感じたのは、彼女は企業で言えば「マネジャー」の仕事をしているな、ということ。企業のマネジャー(課長)はプレイングで現場を知るでけでなく、企業の戦略やもっと言えば企業の改革のきっかけを作りだす役割を担っています。そういう意味からも宮間選手はなでしこジャパンの課長の役割を果たしているのです。
というようなことを考えていたところ、面白い特集が雑誌AERAで取上げられました。
「日本から課長が消える」と言う記事です。この特集はニュースアプリであるNews Picksでも取り上げられており、かなり話題を読びました。
AERAの記事を読むと「課長が消える」というよりも職階としての課長職がなくなる、もしくは見直されていくだろうという論調です。確かに部下なし課長という方は私の周りにも少なくありません。そういう方が課長でなくなる、また今後日本企業も米国型のポストに報酬がリンクする方式に変わっていくのがトレンドであるとの内容でした。
1990年代の中ごろからでしょうか。日本企業の人事制度は大きく変わってきました。フラット化、権限移譲、さんづけ運動、チーム制、成果主義、こういう波の中で所謂従来の課長の多くは既にいなくなってしまいました。マネジャーのプレイングマネジャー化です。課長がプレイングマネジャー化するにつれて部下なし課長は増えました。場合によってはやっている仕事自体は変わらないものの残業代を減らすことを目的に課長職に昇格させるというようなことも行われていたようです。
このような課長は本当に不要な存在なのでしょうか。確かに意思決定のスピードや人件費の削減、権限移譲という点から今までの管理職としての課長はいない方がよいのかも知れません。また特に名前だけ課長、部下なし課長はあまり企業にとってメリットがある制度とは言えないでしょう。しかし、90年代からの課長のプレイングマネジャー化が日本企業に対していくつかの弊害をもたらしたことを指摘することは容易です。
ここでは昔を思い返し、私なりに考える3つの弊害を指摘します。
一点目は人材育成の問題です。日本企業の強みは人です。管理職や課長の仕事は人材育成が全てと言ってもいい位。今まではラインの課長だけでなく、課内には必ずうるさ方の役割を担う課長職がいました。こういう人が皆いなくなってしまい、今は誰にも育てられていない人達が課長になっています。自分たちが育てられていないのですから、後輩を育てることができる訳がありません。よくオンザジョブトレーニングと言いますが、継続的計画的で目標や目的がないオンザジョブは単なる放し飼いです。
二点目はコワーク経験の欠如です。最近はチームで仕事をやるというよりも一人で一から十まで仕事を進めることが少なくありません。一方で協働の機会が以前より少なくなっているように感じます。ですから自然とチーム内での調整や合意形成などやらなければならない機会が減っているのです。多くの人間が集まっているにも関わらず、集団無責任体制になるのはもっての他ですが、一方で協働が不得意な若手が増えているように感じるのは私だけでしょうか。
最後はボトムアップイニシアチブの欠如です。社内の改革はトップダウンでないと上手くいきませんが、改革のそもそものきっかけを作っているのは多くの場合課長です。現場を知り且つマネジメントの視点でモノを捉え、また多方面から情報収集ができる立場にあり、またそのようなスキルを持っているのが課長だからでしょう。
社内の多くの改革はある一人の課長がきっかけになっている、というケースを私は今まで多くの企業で経験しています。またこのような改革キーマンを支援していくのが我々の役割だと認識しているのです。
以前にも取り上げた調達購買改革における日本的サプライヤマネジメントへの回帰や今回の日本的課長制度など、このような日本的なるものを見直していきましょう
という動きは今後益々増えてくると私は考えています。何故なら90年代中ごろから日本企業はドラスチックに欧米型を指向し、その多くの歪みが現時点で生じてきているのが現実だからです。行き過ぎたモノは必ず元に戻るのです。
そして私はこれからも企業内で頑張っている改革キーマンである課長を支援していきます。
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