共同調達でコストが下がるのか?/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2015年8月5日 14時55分

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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

先日(7/27日)日経新聞で西日本の電力会社が共同調達を進めていくという記事が掲載されていました。
この記事は関西電力が(中心となり)西日本の電力会社4社と送配電設備を共同調達することで将来的には合計で年間1000億円規模の費用削減を目指すというものです。

共同調達については概念はともかくあまり上手くいっている事例を私は知りません。特に資本関係がない企業間の共同調達は、成果が出る以前にコンセンサスが得られずに失敗に終わってしまうケースが殆どです。
今回は共同調達のメリットや成功へのポイントについて考えてみます。

記事にも出ていますが共同調達は基本的には費用削減、つまりコストを下げるために進めるものです。そこで一つ疑問が出てくるのは、「果たして共同調達は本当にコスト削減につながるのだろうか。」ということ。

サプライヤにとってみるとある特定のサプライヤの生産量、販売量が増加する訳ですから、総論的にはメリットがないことはないでしょう。しかし、共同調達のコスト削減メリットを捉えるときには、メリットが出る場合と出ない場合など、もう少し細かく層別化して考える必要がありそうです。

例えばメリットが出たとしても

①生産量、販売量の増加によってサプライヤのコストが下がる
②サプライヤ間の競争が厳しくなるので、サプライヤがマージンをはき出す
③サプライヤが営業戦略上値下げに応じる
というようにその要因が違うのです。

①生産量、販売量増加によりサプライヤのコストが下がる、という場合ですが、これは生産数量、販売数量増加によりサプライヤがモノを作るための設備投資の償却コストが下がること、生産習熟度が高まるため生産コストが下がること、量が増えることで単位当たりの管理コストが下がることや、段取り替えに掛る単位当りの加工費が下がることなどがあげられます。この場合はサプライヤにかかるコストが確かに下がっているのですから、共同調達のメリットありです。しかし、これらのサプライヤのコスト削減についても以下の4つ位のケースにわけて考える必要があります。

1)100の生産、販売数量が101に増える程度のマーケットが大きい汎用品、標準品
2)マーケットやサプライヤの規模が小さく100の生産、販売数量が110になる位の汎用品、標準品
3)カスタマイズ品であり、数社の数量を合わせると50の生産、販売数量が100になるような品目
4)カスタマイズ品であった買いモノを共同調達することをきっかけに買うモノを揃えサプライヤの標準品を買うようにすること

上記のうち、1)や2)はサプライヤのコスト削減は非常に限定的になります。特に1)のパターンは共同調達をすることで100の生産、販売数量が1増加する程度なので、サプライヤにとっては殆どコストメリットはありません。
3)や4)の場合は先に上げたようなサプライヤのコスト削減につながります。ここでのポイントは共同調達を推進するときに「同じものを買う」ということが条件ということ。


②サプライヤ間の競争が厳しくなるので、サプライヤがマージンをはき出す
これはどういうことでしょう。多くの汎用品、標準品の場合、共同調達を進めてもサプライヤのコストメリットは限定的です。しかし、共同調達を進めることで今まで競争環境が厳しくなかったものが厳しくなる、今まではA社と取引があったサプライヤ、例えばb社だけが競争相手だったものが、購買企業B社と取引があるc社、d社も新たな競争相手になるということですから、どうしてもコスト的に厳しくなります。
そうするとサプライヤa社は受注を取るためにどうしても従来のマージンを削らざるを得ない。
つまりこれはそれまでサプライヤが儲けていたマージンをはき出させるだけにすぎません。間接材の集中購買活動などでコスト削減が果たせる状況の多くはサプライヤのコストは下がらずにマージンを削っている②の状況と言えます。

③サプライヤの営業戦略上値下げに応じる
多くの場合、生産量、販売量が増えるとサプライヤから重要な顧客として捉えられます。例えば外資系企業などでは一般的な概念ですが、グローバルアカウントとして奉られ、本社に営業担当が設けられたりするのです。こういう企業の場合、サプライヤの生産コストなどのコスト削減が実現されていなくてもより有利なディスカウント率が適用されたりします。これが③のケースです。しかし、③のケースでは資材費の高騰などの値上げ局面では影響度が高いために真先に値上げの要請をされる立場になります。

このように共同調達のメリットと言ってもその要因からサプライヤのコストが確かに下がるケースとそうでないケースまで、いくつかのパターンが想定されるのです。また、当然のことながらサプライヤのコスト削減につながらない共同調達はそのメリットは長続きしませんし、将来的に何らかの反動が起こり得ることも想定されます。
つまり①の3)、4)のようなメリットの出し方が求められるのです。

その上で、今回の新聞記事のケースを当てはめて考えるとどうなるでしょう。私は今回報道にあった企業のコンサルをやっていませんし、購買状況もよく知りません。
ですからあくまでも仮説になりますことをご理解ください。

まずは電力会社が今回進めようとしている共同調達の対象品目ですが、多分同じような仕様のモノを購入しているでしょう。しかし、各社のカスタマイズ品であり、微妙に仕様が異なっていたりするのではないかと。こういう買いモノであれば、もし仕様を揃えられるのであれば①の3)、4)のケースに当てはまりサプライヤにとってもコスト削減が図れるようなメリットがでてくるでしょう。

もう一つ考慮しなければならないのは、特定のサプライヤにそのようなコスト削減メリットが生じるかどうか、ということです。例えば関西電力はサプライヤa社、中国電力はサプライヤb社との取引だったものを、共同調達することでサプライヤa社に集約できれば特定のサプライヤに生産増、販売増のメリットが生じます。
しかし(あくまでも仮説ですが)工事等の地域特性があるものではなく、送配電設備ということになると、産業構造を考えると、関西電力も中国電力も現状、同じサプライヤから購入しているモノも少なくないと考えられます。
こういうケースではサプライヤは変わらず、特定のサプライヤにとって全体の仕事量は増えないのですから、メリットは出にくくなります。そうするとやはり①の3)、4)のように「同じモノを買う」ということをしないとサプライヤのコスト削減は実現できません。

しかし「仕様を揃え同じものを買う」ということは購買資材部門だけで進められる訳ではなく、難易度がとても高いこと。例えばどこかの企業がリーダーシップをとり、参加企業間の調整を強力に進めていくことが必須です。全社で合意形成しながら進めるというやり方は頓挫する主要因となります。

そういう意味から今回の共同調達についての成功要因はサプライヤにとってもメリットが出やすい品目選定とどこかの企業(多分関西電力になると推察しますが)が主体となって仕様調整やソーシング業務を推進すること、この2点になります。
いずれにしても調達購買手法の中でも注目すべき動きの一つであることは間違いありません。

しかし、この新聞記事の最後に「(送配電部門)の部門統合は共同調達より大きな合理化効果を見込める」と書いてありましたが、全くその通りでして、そもそもこんなにたくさんの電力会社が必要なの、という疑問を感じるに至りました。

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