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「中年フリーターの増加」を抑制することはできるのか?/川崎 隆夫

INSIGHT NOW! / 2015年8月24日 12時9分


        「中年フリーターの増加」を抑制することはできるのか?/川崎 隆夫

川崎 隆夫 / 株式会社デュアルイノベーション

報道によると、35歳以上の「中年フリーター」が増加しているそうです。最近は、サービス業や建設業などで人手不足が顕著となり、雇用環境も改善していることなどから、34歳までのいわゆる「若年フリーター」は減少傾向にありますが、35歳以上の「中年フリーター」については増加に歯止めがかからず、現在では270万人以上に上っているとのことです。

■歯止めがかからない「中年フリーター」の増加

政府も、「中年フリーター」の増加に手をこまねいているわけではありません。政府は、有期労働から無期雇用への転換に助成金を支給する「キャリアアップ助成金」を拡充するなどの施策を実施して、非正規雇用労働者の正規雇用への転換を推進しています。

また各都道府県でも、様々な対策を行っています。例えば東京都では、本年4月より「キャリアアップ助成金」に上乗せして最大50万円を助成する「東京都正規雇用転換促進助成金」を設けたり、大学等を卒業後7年以上の44歳以下の人を対象として、紹介予定派遣制度を活用し研修と派遣就労により正社員就職を支援する「正社員就職サポート事業」などをスタートさせています。

このように、政府や各都道府県では、非正規雇用対策として様々な施策を用意しているのですが、果たしてこれらの施策でだけで、中年フリーターの増加を抑制できるのでしょうか?

■「コア業務」と「ノンコア業務」の違いがもたらす格差

昨今、正社員と非正規社員の格差が問題視されていますが、なぜそのような格差が生じるのでしょうか? 正社員と非正規社員の間に生じる給与や待遇面での格差は、原則として携わる業務内容や役割がもたらす「企業収益へのインパクト」により生じるものだと理解しておけば、まず間違いないだろうと思います。

一般的な企業は、それぞれの業務をその企業が収益を上げるために必要な「コア業務」と、アウトソースが可能で付随業務に属する「ノンコア業務」に分けて組織を構成し、その組織能力を最大化するためのマネジメントを行っています。

例えば飲食店を運営する企業では、正社員の店長などが担当するマネジメント業務は、業績に直結する業務のため「コア業務」と位置づける一方で、現場のホールやキッチンなどの業務については高度なスキルを必要としないため、「ノンコア業務」に位置付けて主に非正規社員が担当するなど、それぞれの業務内容や役割にマッチした人材管理を行うことで、組織全体のパフォーマンスの最大化を図っています。

同じように、営業プロセス全体をいくつかのフェイズに分類し、それらを「コア業務」と「ノンコア業務」に分類することで、効率的な営業活動を行っている企業もあります。 例えば見込み客に電話を入れてアポイントを取る「テレアポ業務」は、非正規社員や外部のコールセンター等に任せ、アポイントが取れた後の「クロージング業務」についてのみ商品知識やセールステクニックをもつ正社員が担うなど、営業プロセス全般を「コア業務」と「ノンコア業務」に分けて、効率的な営業活動を実践している企業も少なくありません。

一般的に「コア業務」は「非定型業務」の範疇となり、「ノンコア業務」は「定型業務」の範疇に分類されます。「非定型業務」とは、企画を立案したり、組織の問題を特定しその解決策を立案するなど、予め決められた正解のない事象に対応する業務の範疇に属するものであり、経営者や上級管理職等のポジションになればなるほど、この非定型業務領域で成果を上げるための能力が要求されます。

この企業業績に直結する「コア業務」は、それを担う社員の能力により、成果が大きく左右されます。 よって多くの企業は、競合企業よりも報酬や待遇を良くするなどの施策を行うことで有能な人材を採用し、併せて彼らに適切な教育などを行うことで、競争力の強化を図ろうとしています。原則として「コア業務」については、正社員が担当します。

一方「定型業務」とは、作業マニュアル等に定められた通りの手順に沿って遂行される、ルーティンワークに属する業務のことです。 原則として標準レベルの能力をもつ人材であれば、誰でも一定の成果が期待できる業務のことです。 この定型業務については、企業は出来るだけ低コストで、かつ雇用リスクの少ない形態で業務遂行を図るため、非正規社員が担うケースが一般的です。

このように多くの企業では、業務を「コア業務」と「ノンコア業務」に分けて人材管理を行っており、それぞれの業務の企業収益に与えるインパクトの違いが、「コア業務」を担う正社員と「ノンコア業務」を担う非正規社員との間に格差を生じさせる要因になっているのです。

なお余談ですが、「同一労働同一賃金」の面から、「ウチの会社では正社員と非正規社員が同じ仕事をしているのに、給与や待遇面等で格差が生じているのはおかしい。」といった指摘が為されることがあります。それは全くその通りであり、その企業の人材マネジメントに問題あり、と言わざるをえません。

このような場合には、当該業務が原則として「コア業務」に属するものであるならば、原則としてその業務を担当している非正規社員を正社員に登用し、「非正規社員の流動化リスク」に対応しておく必要が生じます。

逆に「ノンコア業務」に属するものであるならば、当該業務は非正規社員に担当させ、正社員については、より高い付加価値を創出できる「コア業務」にシフトさせなければ、企業全体の生産性の向上には結びつきません。このように、業務全体を「コア業務」あるいは「ノンコア業務」のどちらかに大別し、其々の業務に適した人材を配置することにより、「同一労働同一賃金」の問題については、解決への道筋が見えてくるはずです。

■「人材ポートフォリオ」を活用した、きめ細かな対策を

中年フリーターの正社員化を促進するためには、以下のような「人材ポートフォリオ」を用いて該当者を分類し、それぞれのゾーンに適した対策を講じる必要があります。

「人材ポートフォリオ」の図は、縦軸に「労働意欲・資質」横軸に「専門知識・スキル」を取り、それぞれのレベルを掛け合わせて、4つのゾーンに分類しています。

35歳以上の人材を対象とした場合、現在非正規雇用の人の中で、一般企業に正社員として入社できる可能性があるのは、仕事への強い意欲を持ち高いスキルも併せもつ、右上の「ハイパフォーマー」に属する人材だけとなります。この「ハイパフォーマー」については、能力的には十分に正社員が務まるのに、何らかの事情により非正規社員に留まっているような人材が該当します。

よって「ハイパフォーマー」に属する人材の場合には、該当する人材が属する勤務先に対して正社員化を働きかけるか、または他の企業とのマッチング機会を増やしていくことなどの施策が、正社員化への途となります。よって、東京都が進めている紹介予定派遣制度を活用した「正社員就職サポート事業」などの施策が効果的と考えられます。

問題は、その他のゾーンに分類される人材への対応となります。「ハイポテンシャル」に属する人材は働く意欲があり、人的資質も標準レベル以上のものを持っているものの、キャリアの中断等の理由により、スキルが陳腐化してしまった人材等を想定しています。例えば、正社員で働いていたものの家庭の事情などで一旦退職し、数年経った後に復職を希望したもののスキルが陳腐化した結果、正社員の職に就けず現在はパートで働いている人などが該当します。このような人材の場合は、正社員に必要とされる各種スキル修得のための再教育の場や実習の機会等を提供することで、正社員の職を得る機会が増えていくことが予想されます

「スペシャリスト」に属する人材の場合は、現在携わっている業務に関する知識やスキルは一定以上のレベルにあるものの、自分の担当業務以外に関心を持たなかったり、「コア業務」を遂行する上で必要とされるリーダーシップやマネジメントに欠ける面があるなど、業務意欲や資質面でバランスを欠く人材が該当します。

「スペシャリスト」人材には、主に職人肌の人や「オタク系」の人が多いと予想されますので、キャリアカウンセリングなどにより職業観などの「歪み」を是正し、正社員になることへのモチベーションを喚起すると同時に、マネジメントやリーダーシップを習得できる機会を提供することで、「ハイパフォーマー」への転身を促します。

仕事への意欲もスキルも低い「ロウパフォーマー」に属する人材についての対策は、極めて困難です。このゾーンに属する人は、労働意欲そのものが低い場合が多いので、まずは「非正規」で働き続けることができるための就業機会を提供していくことが、現実的な対策となるでしょう。

このように、政府が本気で「中年フリーター問題」に取り組むのであれば、まずは対象者を各ゾーンに分類し、それぞれのゾーンに適したきめ細かな支援を行っていくことが求められます。 このような支援が為されて初めて、中年フリーターの正社員化が進展していくのだろうと思います。

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