クラウドERPは何をもたらすのか 第3回 ~ SAP S/4 HANA~ の世界 /戸井 雄一朗
INSIGHT NOW! / 2015年8月31日 7時0分
戸井 雄一朗 / クイックウィンズ株式会社
SAP S/4 HANA の登場により、各社クラうド化支援のサービスの強化に拍車がかかっているようです。
そのサービスは大きく以下に大別されます。
a) ビジネス/業務視点での導入効果評価サービス
b) 移行/導入支援
a)は主にコンサルティング会社、b)は開発環境を提供するソリューションベンダーが支援しているケースが多く、開発環境をクラウド化し、PaaS/IaaSとして提供することで、移行をスムーズにしようというものです。
各社自社の強みを生かしてサービスを構成していますが、
ビジネスコンサルティング会社とソリューションベンダーと提携し、a),b)双方を統合したサービスを構築していく傾向にあると思われます。
本シリーズで何度も申し上げているように、新しいものにすぐに飛びつくのではなく、投資対効果をきちんと把握することが重要です。
したがい、本稿では主に(a)を主眼において書いてみたいと思います。
S/4 HANAに代表される高度なクラウド技術を前提とした大型パッケージの登場は、
導入を支援する側にとっても以下のようなパラダイム変換が求められると私は考えています。
1. 課題解決型思考 ⇒ イノベーティブ思考
2. 特定パッケージ知識 ⇒ 複数ソリューションの取捨選択/組み合わせ能力
3. 導入・ロールアウトアプローチ ⇒ コア+個別 統合アプローチ
順に説明していきましょう。
■ イノベーティブ思考へ
これまでのERPの導入は、まずは導入企業が抱える課題を抽出/整理し、
業務を標準化されたERPの機能に当てはまることで、BPRを実施するというアプローチでした。
しかし、今後のERPが広がっていく可能性を考えると、「現在把握されている課題を新しいテクノロジーで解決できるか?」という、負⇒ゼロ のアプローチだけでなく、「新しいテクノロジーによりどのような業務変革を起こせるか?」という、無⇒プラス のイメージの思考アプローチで考えることが必要です。
- これまで使われていなかったデータを活用 (ビッグデータの活用)し、新しい視点でのレポーティングを実現し、経営/業務判断に活用出来ないか?
- データのリアルタイム性やアクセスのモバイル性を高めることで、これまでなかったようなサービスや業務改革が実現できないか?
- 見込み生産から受注生産に切替え、大幅に在庫を減らせないか?
と、いったように、高速DB、SaaS、クラウド環境を生かした外部データ連携等の特徴を生かして、新しい大きなイノベーションが起こせないかを考えていくことをしなければHANAやクラウドへの切り替えといった、労力もお金もかかる方向に、クライアントが踏み出すような支援を出来ないと思われます。
課題を分析し解決策を出す、Factベースだけではなく、仮説を立て検証する仮説ベースのアプローチが有効ということです。
■ 特定パッケージ知識依存からの脱却
これは今に始まったことではないですが、クラウド化の加速により、特定のパッケージ知識に依存したサービスや導入アプローチは付加価値が大きく低下していくはずです。
SAPを導入=SAPの機能を使う ⇒ 各モジュールの専門知識が必要ということで、「私はSAPのFIが出来ます」「MMの経験があります」といった、 コンサルタントと称する仕事からすると何とも寂しい自己紹介がまかり通っていました。
これからは多くのソフトウェア機能がクラウド上で提供されるようになり、ソリューションも多岐にわたります。
より多くのソリューションに対する知識を得られるように日ごろからアンテナを張り、その中から最適なものを取捨選択して、クライアントに最もあったシステムを構築する能力が大きく問われることになると考えます。
■ 導入・ロールアウトアプローチの変換
当然、導入にあたっては主管部門があります。
経営企画の場合もあれば、IT部門が予算を持ってユーザ部門と調整しながら導入していくケースもあったり、会計モジュールのみの導入であれば経理が主管部門であったり、といった具合です。
いずれにせよ、意思決定が主管部門にゆだねられるのですが、クラウド化が促進していくと、他部門が自部門の予算で、好きなクラウド上のソリューションをライセンス契約で使用することが可能になります。
ともすれば、機能の重複やデータの不整合を招き、全体最適を崩しかねないリスクがあります。
これまでの主管部門が主導で作ったシステムを共通でユーザーに使ってもらう「コア」部分と個別の部門やユーザー固有の「フレキシブル」部分を切り分け、かつ全体で最適となるようなマネジメントが必要です。
そり多彩なニーズと要件を吸い上げて、最適なシステムを構築する能力が必要となります。
また、導入したSAPを海外の子会社に展開する、いわゆるロールアウトですが、一般的にはPilot導入した拠点の機能群をテンプレート化して各社に展開するというアプローチが一般的ですが、こちらも同様のことが言えます。
各社の要件をなるべく標準化し、テンプレートは極力シンプルで個別要件を排除することが上手なテンプレートの作り方とされてきました。
一方で、そうした一律適用アプローチは各社のイノベーションの機会を逸してしまう結果ともなりかねませんでした。
そうしたアプローチの背景には個別要件によりアドオンの開発/メンテナンス負荷が高くなるという事実があった故ですが、クラウド化により個別ソリューションがフレキシブルに安価に使用できるのであれば、これまでのテンプレートの考え方を変える必要があります。
各社で自由に選択できる業務エリア、機能エリアを上手に定義することで、フレキシブルかつより各社の強みを出しやすいロールアウトが可能になるのではないかと思います。
以上、3点を書かせていただきましたが、これ以外にも導入コンサルタント側に求められるものは大きく変わる点があると思います。
しかしそれはコンサルタントにとって大きな飛躍のチャンスでもあります。
ERP導入に少し飽きているコンサルタントの皆さん、いかがでしょう?
新旧の仕事イメージの違いを表現すると下図のようになるでしょうか。
少し今の流れに目を向けると、なかなかチャレンジングでエキサイティングな仕事が見えてくるような気がしませんか?
それではまた次回。
お付き合いくださり有難うございました。
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