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新国立競技場の新整備計画は上手く行くのか?/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2015年9月2日 17時24分

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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

昨日新国立競技場の新たな整備計画が発表されました。

新計画は従来計画に対して大きな違いがあります。工事費用(建設費と維持管理費)と工期の短縮を優先順位として高く設定し民間の知恵を活かしていきたいというものです。中でも前回との大きな違いが発注方式です。従来は設計施工分離方式であったのに対して今回の発注方式は設計施工一括発注方式を採用します。いわゆるまとめ買い(バンドリング)です。

震災復興案件や五輪関連施設などの工期短縮の要求が強い案件については、このまとめ買い方式の採用が増えています。これは施工者に設計を含めて一括で発注することで施工者の技術力を設計に反映しコスト・工期にメリットを見出していくことを目的としたものです。
確かに設計施工を分離することで様々な調整作業や日程、コストが発生することが容易に想像できます。一方で設計施工一括発注方式は発注者にとってコストや工期がブラックボックス化されやすいというデメリットも生じるでしょう。
最近ではこのようなデメリットを防ぐために「性能発注型の設計施工一括方式」という方式がとられています。性能発注型とは発注者が要求する品質やコスト、工期などの性能を明確にした上で、発注条件を整理して発注をする方式。つまり目的を明確にし提示することでそれを達成する手段はあくまでも受注会社側に任せるという方法です。
いわゆる提案型コンペの一種と言えるでしょう。
このようにまとめ発注することで設計に施工会社や専門工事会社の細かな先進技術の提案などを盛り込みやすい環境を作る、いわゆる製造業における開発購買のような手法がこの「性能発注型の設計施工一括方式」(まとめ買い)と言えます。

一方でこのような設計施工一括発注方式は公共調達では一般的ではありませんでした。
公共調達は会計法予決令などの法律の規制もあり、また従来より設計は建築主が対応するという考え方もあり、設計施工分離発注方式(ばらし買い)が一般的だったのです。
民間は全く逆です。多くの民間企業は建設工事はゼネコンに対して設計施工一括発注していました。また多くの企業では特定のゼネコンとのつながりが深く、特命による発注が殆どでったのです。2000年代に入ってから多くの民間企業で調達機能強化が進み、少なくとも特命ではなくコンペや入札が行われるようになりましたが、それでも公共調達のように設計施工分離発注という形態は、専門家がいないこともあり難易度が高いと思われていました。

しかし最近ではCM(コンストラクションマネジメント)という考え方で第三者的な設計会社を活用し、設計・監理会社と施工会社を分離してコストの妥当性を担保しようという動きも見られます。また発注側のプロジェクトマネジメントを育成することで設計施工分離発注を機能させるケースもでてきています。
いずれにしても民間の場合、建設に強い人員が不足していることもあり、今でも多くの案件は設計施工一括発注にならざるを得ない状況です。

このように民間と公共の調達方式が全く違うというのがこの建設分野でしょう。
公共方式と民間方式、まとめ買いとばらし買い、このどちらの方法が良いかは一概には言えません。案件毎に変わってくるでしょう。例えば難易度が高く先進的な施工技術が求められるような案件はまとめ買い、そうでなく汎用的な建設工事に関してはばらし買いでコストの透明性を求めていく、このような案件毎に最適な発注方式を採用することが求められるでしょう。
いずれにしても、公共調達、民間調達もこのように最適な調達方式を互いの良さを参考にしながら検討、採用していく、それによりQCDの最適化を求めていくことが重要なのです。

このようなまとめ買い、ばらし買いのメリットの議論は建設だけの話ではありません。昨今は様々なサービスやモノが複合化してきています。そういう環境下でどの単位でモノを調達するか、という視点は調達購買の最適化に欠かせない議論になっているのです。

今回の新国立競技場の建設に関しては費用や工期の問題から当初計画が白紙に戻されるという事態になりました。新計画ではコストと工期の問題をクリアすることが求められています。その一つの手法がまとめ買い方式ですが、工期短縮のためには迅速な意思決定が求められます。これは何も建設工事だけでなくIT導入やコンサルティングなどの全てのプロジェクトにあてはまることですが、工期の短縮や予算の管理などに一番欠か
せないのは優秀なプロジェクトマネジャーの存在です。それも発注側のプロジェクトマネジャーの役割は最も大きい。このような大きなプロジェクトにおいては何らかの変更管理や問題管理、予算管理などが必要になり、それには迅速な意思決定が欠かせないからです。そのためにはどうしても発注側の意思決定がスムーズにできるための仕組みとそれを運用するプロジェクトマネジャーが必要となります。


今回の新計画が上手く推進され誰もが素晴らしいと思える将来に残せる競技場が予定通り建設できる2020年を迎えられることを期待してます。

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